『エール』最終週「エール」 117回〈11月24日(火) 放送 作・演出:吉田照幸〉

『エール』華とアキラが光子(薬師丸ひろ子)の形見のロザリオに愛を誓う そして東京オリンピックへ
イラスト/おうか

※本文にネタバレを含みます

いろいろあった

朝ドラのワンエピソードの区切りはたいてい、短くて1、2回分、長くて、一週間である。それが、華(古川琴音)アキラ(宮沢氷魚)の恋のエピソードだけすごく時間をかけているように感じる。先週の途中からとはいえ、週またぎなので長く感じるのだろう。
そして、月曜日に続いて火曜日とまたぐから、まだやってるのかという気になる。華とアキラが微笑ましいので、それはそれでいいのだけれど。

【前話レビュー】小気味いいコント仕立てで始まった最終週 吉田照幸脚本はニヤリと人を見る視線に味わいがある

『おはよう日本関東版』で高瀬アナが「お茶の間のシーンを観ながら志村けんさんのコントをね、思い出してしまった。それだけ今回いろいろあった……」といささか無念そうに語っていたことからも感じることで、コロナ禍初期に志村けんが亡くなったこととコロナ禍が拡大してドラマの制作状況がかなり変わったのであろう。それでも弱音をはかずに、皆、前向きに明るく作っているその姿勢を見習いたいと思う。

結婚式はロカビリー

裕一がふたりの結婚を認め、音は亡き光子(薬師丸ひろ子)の形見のロザリオに、ふたりの愛を誓わせる。

ロザリオを抱きしめる音。
光子も海に散骨したらしき回想。関内家三姉妹・音、吟(松井玲奈)、梅(森七菜)が海を見つめるワンカット。売れっ子の3人を集めてこれを撮るのもきっと大変だったんじゃなかろうかと勝手に苦労を偲んでしまった。

お笑いをやっている人が実生活で笑えない状況を作り出してしまうと、芸に支障をきたすと用心することがあるように、フィクションと現実の兼ね合いはとても難しい。裏話がドラマを盛り上げることもあるいっぽうで、裏話が広がり過ぎるとドラマを純粋に楽しめないこともある。

今年のコロナ禍はまさにそれ。
『エール』に関してはコロナ禍が全世界的に未曾有な出来事だったからどうしようもなかったと思う。だからこそ、華とアキラの結婚祝いのコンサートで、からっと元気なロカビリーで湿っぽい気分を吹っ飛ばしてくれた。

音と智彦(奥野瑛太)がニッコニコで、役を飛び越えて見えたが、これくらいノリノリでやってくれると、観ているほうも楽しくなる。

宮沢と桜井の二世、次世代共演

音が歌ったあの聖マリア園で、結婚式というか結婚祝いのコンサート。内々の二次会みたいなものか。鉄男(中村蒼)久志(山崎育三郎)もいる。

アキラがバンド仲間を引き連れてロカビリーを披露。
このとき、「正直、デビュー前に所帯持ちのボーカルって少々不安ですが」「俺らは音楽で勝負します」と正論な挨拶をするメンバー・根来を演じたのはミスチル桜井和寿の息子・Kaitoだそうで、ネットニュースを騒がせた。

彼の公式サイトによると、14歳からドラムを始め、現在はインナージャーニーというバンドのメンバーとして活動中と、今回のドラマー役はぴったり。そしてこの朝、2021年のお正月に放送される“逃げ恥”のスペシャルドラマ『逃げるは恥だが役に立つ ガンバレ人類!新春スペシャル!!』(TBS)にもゲスト出演することが発表された。

THE BOOMの宮沢和史の息子・氷魚と、ミスチル桜井の息子・Kaito。2大ミュージシャンの2世の共演とはなかなか豪華だし、主人公・裕一と音の子供の結婚式で、次世代への移行が感じられる。音楽の雰囲気もまったく違うわけで、クラシックからロックへ――。


保(野間口徹)がものすごくいい感じで老けていて、それもまた時の流れを感じさせてくれてよかった。

会がお開きになると、「僕たちの人生も終わりに近づいたな」と裕一はしんみりつぶやく。でも、音が「私はまだある気がしますけど」と前向きで、「やっぱり音はいいな」と裕一は元気づけられる。

「やっぱり音はいいな」は「やっぱり音楽はいいな」にも思えるので、妻の名前を「音」にしたのはやっぱり正解だったと思う。

『エール』華とアキラが光子(薬師丸ひろ子)の形見のロザリオに愛を誓う そして東京オリンピックへ
写真提供/NHK

やっと東京オリンピック

音の「まだある気がします」という漠然とした予感が当たった。1964年の東京オリンピックのテーマ曲の依頼が舞い込んだのだ。

ただ、裕一の知らないところで、オリンピック招致委員会のスタッフは裕一を熱心に推す酒井(今野浩喜)と「彼の曲は不幸な時代の象徴でもある」と渋る鈴木(菅原永二)がいた。


古山裕一の戦争責任は解決したかに見えて、まだそれを問う者もいる。笑いに鋭い社会風刺を潜ませることは『エール』に限らずあるもので、作・演出の吉田照幸に取材したとき、「ドラマの演出をする前に、映画化もされるほど盛り上がったコント番組『サラリーマンNEO』を手掛け、その当時、読んだ演出論『演出についての覚え書き 舞台に生命を吹き込むために』に、『他人の不幸なきところに笑いは起きず』『笑いを見つけたら、そこに潜む真実を探せ』と書かれているのを読み、『それを信じてやってきました』」と語っていた。

これは、ラジオドラマがはじまったエピソードの「NHKは嘘をつかない」というセリフについての回答だが、笑いに対するスタンスはこの考えが軸になっているとすれば、ここでもコント仕立てにしながらも真実を潜ませようという思いがあるのだろうかとも想像する。だが、家族コントと戦時歌謡問題とのディスタンスがあまりに広く、それを並列して描くのはかなりハイブロウである。ここで高瀬アナの「いろいろあった……」が響いてくる。

あと3回!

【115話レビュー】経年と病気になった裕一を演じる窪田正孝のリアリティー
【114話レビュー】リハビリという困難を共に乗り越えて近づいていく霧島と華の心
【113話レビュー】華、軽い女になる 『エール』が急に喜劇調になってきた理由

Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami

■窪田正孝(古山裕一役)プロフィール・出演作品・ニュース
■二階堂ふみ(古山音役)プロフィール・出演作品・ニュース
■古川琴音(古山華役)プロフィール・出演作品・ニュース
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■松井玲奈(関内吟役)プロフィール・出演作品・ニュース
■松大航也(関内ケン役)プロフィール・出演作品・ニュース
■奥野瑛太(関内智彦役)プロフィール・出演作品・ニュース
■山崎育三郎(佐藤久志役)プロフィール・出演作品・ニュース
■中村蒼(村野鉄男役)プロフィール・出演作品・ニュース
■井上希美(藤丸役)プロフィール・出演作品・ニュース
■唐沢寿明(古山三郎役)プロフィール・出演作品・ニュース
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『エール』華とアキラが光子(薬師丸ひろ子)の形見のロザリオに愛を誓う そして東京オリンピックへ
写真提供/NHK

番組情報

連続テレビ小説「エール」 

【放送予定】
2020年3月30日(月)~11月28日(土)

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り

<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)

<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送

<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

原作・原案:林宏司
脚本・作:清水友佳子 嶋田うれ葉 吉田照幸
演出:吉田照幸ほか
音楽:瀬川英二
主演: 窪田正孝 二階堂ふみ
語り: 津田健次郎
主題歌:GReeeeN「星影のエール」

制作統括:土屋勝裕 尾崎裕和