『おちょやん』第7週「好きになれてよかった」

第32回〈1月19日 (火) 放送 作:八津弘幸、演出:大嶋慧介〉

『おちょやん』成田凌の登場に心ざわついた朝 いよいよ朝ドラに不可欠な恋物語に突入
イラスト/おうか
※本文にネタバレを含みます

千代、三角関係に

朝ドラには恋が不可欠。『とと姉ちゃん』の放送時、筆者は制作統括の方に取材し「(前略)人生は、恋愛と仕事の両輪だと思いますので(後略)」という話を聞いた。

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有名な劇作家・チェーホフも『かもめ』で「戯曲というものは、やっぱり恋愛がなくちゃいけないと、あたしは思うわ……」とヒロインに語らせていて、ドラマには恋愛が必須、とりわけ女性視聴者の多い朝ドラにも必須と、エキレビ!でも、拙著『みんなの朝ドラ』でも書いたことがある。


『エール』も終盤、主人公とヒロインの娘の恋と結婚の物語が盛り上がったことから、やはり朝ドラと恋は重要と言っていいと考える。

今週の『おちょやん』はサブタイトルが「好きになれてよかった」であり、『おちょやん』でもいよいよ恋が描かれそうな気配が漂ってきた。

千代(杉咲花)ののちの夫となるとあらかじめ情報が出ている天海一平役の成田凌がちょっと登場しただけで心がざわつくのだから、恋物語の力は大きい。しかも、助監督・小暮(若葉竜也)との三角関係を匂わせて……。シンプルだけど、こういうのが盛り上がるのである。

千代、髪結になる

鶴亀撮影所の大部屋女優になり、張り切る千代。わんさかいるから「わんさ」と呼ばれる大部屋女優から一刻も早く抜け出したいという思いばかりは人一倍だが、舞台と映画は勝手が違う。やることなすこと、監督の気に入らないことをして、あっという間に仕事がなくなってしまう。

大部屋では先輩たちに失敗を言いふらされ、ばかにされ、カッとなるも、エキストラとして使いづらいと思われ仕事がないのは事実。ただ、大部屋女優は月給制で仕事があろうがなかろうがお給料がもらえる。そのため、仕事がなくても気にせず、給料だけもらっている志の低い人もいることを知る千代。そういう怠惰な人たちとは考えが違う千代は、できることを探し、髪結の手伝いをはじめた。

美髪部の主任・柳たつ子(湖条千秋)の厳しさにお茶子時代を思い出し、やる気になってしっかり働き始め、髪結の技術がめきめき上がり、真里(吉川愛)に髪結をやるために撮影所に入ったのかと言われてしまうほどになる千代。
このまま髪結になったら『おしん』パターン。『おちょやん』は出稼ぎ、つらく当たる人たち、髪結と、『おしん』の下位互換のようだ(下位といっても悪い意味ではなく、ライトバージョンというような意味に受け取ってください)。

『おちょやん』成田凌の登場に心ざわついた朝 いよいよ朝ドラに不可欠な恋物語に突入
写真提供/NHK


それにしても、髪結の労働と演技とでは、こうも気の利かせ方やカラダの動かし方が違うものなのか。地頭がよく、気もカラダもよく利く者であれば、髪結であろうとエキストラの演技であろうと、ある程度常識的なことはできると思うが、千代にとっては労働と演技は天と地ほど違うように描かれている。

だがこの髪結労働が「急がば回れ」ということわざのように、千代の俳優の道を切り開くことになる。

『おちょやん』成田凌の登場に心ざわついた朝 いよいよ朝ドラに不可欠な恋物語に突入
写真提供/NHK

千代、恋ごころを学ぼうとする

高城百合子(井川遥)の主演映画『太陽の女・カルメン』に出演することになった大部屋先輩・遠山弥生(木月あかり)が髪結の順番を先にしてほしいと美髪部に駆け込んでくるが、特別扱いしてもらえない。

このままでは撮影に間に合わないと途方にくれる弥生に、千代が結うことにする。そのときは憎まれ口をきく弥生だったが、これをきっかけに、大部屋に千代の座る場所を用意してくれたり、映画の出番を譲ってくれたりする。こうして、少しずつ、新しい環境に馴染んでいく千代。

清々しい流れになったと思ったのもつかの間、「ほいさっさ」を撮影開始の合図にしている樋口仙一(上杉祥三)組の現場で、恋する演技ができなくて、交代させられてしまう。せっかくたつ子にきれいに髪を結ってもらったにもかかわらず、千代の演技は恋するお嬢さんにはまったく見えないがさつなものだった。

すでに3人の男性と付き合った経験のある真理から、恋する演技には実際に恋を体験してみるのがいちばんと言われ、小暮に恋人役を頼むことに。が、間違えて「恋人になってくれはらへんやろか」と言ってしまう。
その恥ずかしい瞬間を一平が見ていた――。いったいなぜ、ここに一平がいるのか。千代はびっくり。

非常にベタな展開ではあるが、演劇論より多くの人が親しみやすいだろう。「役者は考えて芝居すんのは当たり前やろ」と樋口監督が言ったり、「わんさはなにも考えなくていい」とジョージ監督が言ったりして、そのどちらが正しいかというような話は、演劇が好きな人には興味深く、一晩中語り明かせるが、それは朝ドラ視聴者のごく一部。

ドラマが跳ねるのは、恋物語と仕事物語がうまく混ざったとき。『おちょやん』にも可能性が出てきた。

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■杉咲花(竹井千代役)プロフィール・出演作品・ニュース
■成田凌(天海一平役)プロフィール・出演作品・ニュース
■西村和彦(宮元潔役)プロフィール・出演作品・ニュース
■吉川愛(宇野真里役)プロフィール・出演作品・ニュース
■若葉竜也(木暮真治役)プロフィール・出演作品・ニュース
■湖条千秋(柳たつ子役)プロフィール・出演作品・ニュース
■F.ジャパン(池内助監督役)プロフィール・出演作品・ニュース
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番組情報

連続テレビ小説『おちょやん

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り

<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)

<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送

<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥
主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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