『おちょやん』第12週「たった一人の弟なんや」
第56回〈2月22日 (月) 放送 作:八津弘幸、演出:盆子原誠〉

千代、新たな芝居に挑む
岡安と福富の家の確執を乗り越え、みつえ(東野絢香)と福助(井上拓哉)が結婚。時に昭和4年。仲睦まじいふたりの姿や千代(杉咲花)の俳優としての仕事の充実など、一見、幸福に満ちあふれているような道頓堀。【前話レビュー】いがみあっていた福富と岡安が子供同士の結婚により雪解けした55回
火事を見に行こうとして千代がぶつかった男の“いかにも”なあやしさ。不穏な音楽が流れ、風の吹く街を思わせぶりなカメラアングルで撮る。
結婚して1カ月、仲睦まじいみつえと福助の姿を真剣に観察しメモをとる千代。次の芝居「若旦那のハイキング」(紙芝居形式で芝居の内容を説明。その紙芝居がかわいい)で、愛する男と心中するほどの強い愛のある娘の役を演じることになったものの、千代にはそういう気持ちがわからないからだ。
役の気持ちを学ぶための体験学習は『エール』の音(二階堂ふみ)もやっていた。「椿姫」のヒロインの勉強にカフェーの女給をやるエピソードである。俳優は演技の引き出しを増やすため、日夜努力しているのだ。
千代は、トランペットの吹き方をみつえが福助に習っている姿を凝視する。
娘を嫁に出した父の心境を端的に演じる名倉潤。恐妻家な雰囲気も巧く出ている。宗助、福助、福助の父・福松(岡嶋秀昭)、3人とも、元気な妻に振り回されている。でも、夫がこうしておとなしくしているほうが平和という雰囲気。
検閲下、人間の衝動をどう表現するか
一平(成田凌)が描きたいのは、心中しようと考えるまで追い込まれる人間の情動。みつえと福助の出来事をネタに脚本を書いたのだ。一平は一平で、日々の出来事を作品に生かそうとしている。千代は、一平の書いた役の愛情がなかなか理解できないが、生き別れの弟・ヨシヲを想って演じようと考える。

ところが、時代の陰りは、芝居にも影響を与えてきていた。内容に検閲が入り、博打や暴力、男女の破廉恥な行為などは禁止で、愛し合う男女の激しい想いを「抱き合う」という身体表現で見せることが禁じられて困った一平は、本番で思いがけない濃厚接触を試みて、千代を面食らわせる。
このとき、一平が演じる男が、亡き父親、天海天海(茂山宗彦)の二枚目な面影がある。
猫の日だから
理屈や秩序を超えた人間の衝動的欲情を描きたいという一平に共感する高峰ルリ子(明日海りお)、「まさにリビドーとタナトスね」とカメラ目線で言う。さすが、婚約者に裏切られて愁嘆場を経験しただけはある。そこで「ブドウとナス?」と聞き間違える小山田(曾我廼家寛太郎)。期待に違わない良いボケ。現時点で、福助、福松、宗助、小山田がふっと空気を和らげる役割を担っている。ベテランに混じって若手の井上拓哉が健闘しているところを評価したい。
お芝居には役割があるもので、主役、脇役、悪役、狂言回しなど、各々、違う個性を発揮しながらひとつにまとめあげていく。鶴亀家庭劇としては香里(松本紀代)を人気女優として売り出そうとしている様子。てっきりスターはルリ子の役割と思っていたが、彼女はベテラン女優枠なのか。
若手として香里と千代がライバル関係に。でもルリ子も絶対良い役が欲しいはず。このままいくと、一平と千之助のトップスター争いのみならず、ルリ子、香里、千代……とトップ女優のデッドヒートも繰り広げられそうだ。
さりげなく火花散る劇団の打ち合わせの場面で、ルリ子をはじめとして、千代や香里の会話に、かすかに猫の声のSEが入っていた。稽古場のまわりに猫がうろついてうたり、ルリ子がバイト先で猫をかわいがっている姿も出てきたからであろうが、ちょうど今日、2月22日は猫の日なので、姿は出なくても声だけというサービスだったのかもしれない。
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■杉咲花(竹井千代役)プロフィール・出演作品・ニュース
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■宮田圭子(岡田ハナ役)プロフィール・出演作品・ニュース
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■明日海りお(高峰ルミ子役)プロフィール・出演作品・ニュース
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番組情報
連続テレビ小説『おちょやん』<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送
作:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥
主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami