『ウチカレ』北川悦吏子の名作『愛していると言ってくれ』で共演の豊川悦司・矢田亜希子登場で新展開
イラスト/おうか

※本文にはネタバレがあります

トヨエツきたーーー『ウチカレ』第7話

『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』(以下ウチカレ)(日本テレビ系 毎週水曜よる10時〜)第7話は、水無瀬碧(菅野美穂)空(浜辺美波)の血液型から、血がつながっていないことが判明。空の父・一ノ瀬風雅役で豊川悦司、母・鈴役で矢田亜希子が出演し話題になった。

【前回レビュー】『ウチカレ』6話 岡田健史の一途な役が迫真 空と光の寂しさを共有する関係に胸しめつけられる

豊川と矢田は、北川悦吏子の名作で、昨年の再放送で人気が再燃した『愛していると言ってくれ』で血の繋がらない兄妹役を演じていた。
後妻の連れ子である妹は前妻の子である兄を慕っている設定だったが、『ウチカレ』では恋人役に。だが、子まで成しながらも別れてしまったからこそこのドラマがある。血は繋がってなくても強い、碧と空の母娘の絆が描かれた。

死のうと思って樹海に行ったときに空を拾ったという話を涙ながらに語る碧。その話を空から聞いて、「泣けるやん」と光(岡田健史)はもらい泣きするも、時間を置いて、はたと気づく。その話が碧の小説『アンビリカルコード』に書かれた内容であることを。

空は水無瀬碧という人間がいかに、転んでも転んでも、立ち上がってくるたくましい人物か改めて思い知らされる。とはいえ「空がいたから生きられた」というのは本当のこと。第1話で碧は「私達は世界を生き抜く相棒だ」と言っていた。

恋愛を描いているようで、実のところは女性同士の連帯を描いている『ウチカレ』。碧と空の血が繋がっていないことでそれがいっそう明確になった。さらに空は、サリーこと沙織(福原遥)とも友情を深め始める。
彼女に、母と血が繋がっていないことを明かし、サリーはその話を優しく受け止める。

女性同士ではないけれど、第6話で絶賛された、光と空の関係も、友情以上恋愛未満、恋愛を超えて、わかりあえる関係だからこそ良いのかもしれない。

女性たちの固い絆と男性陣の連携

真実を知りたい空は、光、俊一郎(中村雅俊)ゴンちゃん(沢村一樹)、サリーを伴って、碧に詰め寄る。そこには漱石(川上洋平)もいた。リビングに7人集まって語る場面は、一転して小劇場のワンシチュエーションもののようになる。

『ウチカレ』北川悦吏子の名作『愛していると言ってくれ』で共演の豊川悦司・矢田亜希子登場で新展開
(C)日本テレビ

それぞれが何か思いを抱えながら、牽制し合いながら、軽快にセリフを回していく。おもしろく見ることはできるが、なんで急にこんな小劇場コント……と思ったら、空の父が、小劇場俳優だったことが明かされて、なるほど、そこに繋がっていたのか! と納得したことにしておきたい。

碧が小劇場を見て気に入った俳優・風雅とわずか一週間の恋に落ちたが、彼には身重の恋人・鈴がいた。心臓病が悪化して亡くなってしまった鈴の子を碧は引き取って育てていたのである。なんだかすごい展開ながら、これは北川悦吏子の名作『素顔のままで』と同じ流れ。『素顔のままで』は、安田成美演じるヒロインが去っていった恋人の子供を生んで亡くなり、中森明菜演じるもうひとりのヒロインが友情の証にその子を育てるという、シスターフッドものだった。

「勝手な女だな」「恋に狂ってるバカだよ」と実母のことをなじる空。勝手な恋に狂ったバカとは碧のほうだと思うのは気のせいだろうか。
でも、ここで空が逆上したのは、碧に対する情を抑え難くなっているからなのだろう。実母のリアリティーが増せば増すほど、碧との物理的な関係性が揺らぎ、同時に想いが募っていく。こういう制御不能な感情を演じさせると浜辺美波は迫真だ。

「母ちゃんの娘が良かったーー」

一方、碧も、空のことが大事なあまり、真実を語りたくない。作り話でお茶を濁そうとする。物語とは、本当のことを言いたくないからできるものでもある。美しい物語のなかには、なんとも痛ましい心が隠されていたりする。カーテンの隙間から光がすこし溢れるように、作者の本音がすこしだけのぞくとき、胸がきゅっとなる。

「母ちゃんの娘が良かったーー」と思わず叫ぶ空の本音をサリーが録音して、碧にメールする。女性たちの固い絆に男性が入る隙間はない。

そこで男性は男性同士で連帯している。光とゴンちゃん。恋愛抜きの女性の味方二人である。
「空が壊れそうで心配です」と言って泣く光の純粋さ。それを慰めるゴンちゃん。「空が壊れそうで心配です」は良いセリフ。

だがしかし、空は光にも慰められる。公園で光と自転車に乗りながら心を落ち着けていく空。女友達にも男友達にも支えられて恵まれている感じながら、空のことは見守りたくなる。自転車で木に激突するところも愛らしい。

『ウチカレ』北川悦吏子の名作『愛していると言ってくれ』で共演の豊川悦司・矢田亜希子登場で新展開
『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』第8話は3月3日放送

(C)日本テレビ

「空」「空」言うのは、実の父の風雅。海でなぜか渉(東啓介)と出会い、浜辺に寝そべり、空(SKYのほう)の写真を撮って、「空は毎日違う」とつぶやいていた。

空が実父を「ぶん殴ってやりたい」と激しているとき、父は「今日も良い空だ」とカッコつけて岩場に立っている。二人のテンションの落差。

『愛していると言ってくれ』の頃はひたすらシリアスで繊細な演技をしていた豊川悦司だが、北川が手掛けた朝ドラ『半分、青い。
』のコミカルな演技を経て、『ウチカレ』ではカッコよさとおもしろさが絶妙に混ざった圧倒的深みを放っている。今、もっとも輝いている若手・岡田健史と、かつて一世を風靡した豊川悦司、恋愛ドラマの覇者二人が出ている『ウチカレ』は相当豪華である。

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●第8話あらすじ
生みの母と育ての母、二人の母を捨てた実の父・一ノ瀬風雅(豊川悦司)の存在を知った空(浜辺美波)は、まだ見ぬ父に鉄拳を食らわせたいという気持ちを抱く。そんな折、風雅の居所を知った碧(菅野美穂)は早速、空と共に風雅の暮らす島へと向かう。長い時を経て、運命的な恋をした風雅との再会を果たす碧だが……。風雅はなんと、碧のことを覚えていなかった……!
一方、空の人生の一大事に自分だけが蚊帳の外だったことを知った渉(東啓介)は、空が光(岡田健史)には悩み相談をしていたと知りショックを受ける。光をライバル視する渉は、おだやに光を連れ出し、空を諦めない、と恋の宣戦布告! 俊一郎(中村雅俊)や沙織(福原遥)の目には、空に必要なのは渉ではなく光だということが一目瞭然だが……。
その夜、おだやには珍しく漱石(川上洋平)が訪れ、ゴンちゃん(沢村一樹)と酒を酌み交わす。二人は、かつて好きだった男に会いに行った碧に想いを馳せる……。
そしてその頃、碧と空は風雅の元に泊まることに。
実の父に怒りを感じていたはずの空だが、屈託のない風雅の態度を前に、いつの間にか“親子”のように順応していき……。二人の間に流れるただならぬ空気を感じ取り、釈然としない思いを抱く碧。しかし、事態は最悪の結末へと向かっていた!


番組情報

日本テレビ系
『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』
毎週水曜よる10時〜

出演:菅野美穂(プロフィール) 浜辺美波(プロフィール)
岡田健史(プロフィール) 福原遥(プロフィール) 東啓介(プロフィール)
中村雅俊(プロフィール) 沢村一樹(プロフィール)
有田哲平(プロフィール) 川上洋平(プロフィール)

脚本:北川悦吏子(プロフィール)
音楽:得田真裕
演出:南雲聖一 内田秀実

製作著作:日本テレビ

番組サイト:https://www.ntv.co.jp/uchikare/


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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