『コントが始まる』トリオであり親友――緊張と緩和の聖域を輝き生きる芸人の姿を菅田将暉らが巧みに演じる
イラスト/おうか

※本文にはネタバレがあります

コントを通して得るもの『コントが始まる』第1話

大ヒット公開中の映画『花束みたいな恋をした』の菅田将暉と有村架純が出演するとあって注目度の高さを誇る『コントが始まる』(日本テレビ系 土曜よる10時〜)。第1話は、コントからはじまった。

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『コントが始まる』トリオであり親友――緊張と緩和の聖域を輝き生きる芸人の姿を菅田将暉らが巧みに演じる
(C)日本テレビ

『コントが始まる』トリオであり親友――緊張と緩和の聖域を輝き生きる芸人の姿を菅田将暉らが巧みに演じる
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春斗(菅田将暉)、潤平(仲野太賀)、瞬太(神木隆之介)の3人組が、水がメロンソーダに変わってしまうコントを行う。
それをノートPCで見ている里穂子(有村架純)。横から理解しがたそうにのぞく、胸の谷間が見える派手な服を着た妹・つむぎ(古川琴音)に「芸人って言うのやめて。マクベスさんだから」と里穂子がたしなめることで3人組が「マクベス」という名前だとわかる。

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「さん」をつけるほどすっかりマクベスに心酔している里穂子。素敵な偶然が里穂子とマクベスを結びつけている。まず、1年前、里穂子がバイトしているファミレスに来たマクベスたちとの偶然の出会い。里穂子と彼らはたまたま隣のマンションの同じ階に住んでいて、里穂子はベランダからコントの稽古をしている3人の姿をそっと見ることができる。そのうち彼らの隣の部屋に引っ越すことまで考えはじめるほどマクベスにハマっていく里穂子だが、初めて彼らのライブを生で見た日に解散が発表される。

マクベスは10年やって芽が出なかったら解散することに決めていた。2011年6月19日に結成してからもうすぐ10年が経とうとしていた。大学に入らず芸人を目指し、28歳。潤平はそろそろ結婚を考えていて、瞬太はバイト先で社員にしてもらえるかもしれない。
春斗はそんな彼らの人生に関与していいか迷いはじめ、解散を決めたのだ。

全ての世代の「アナタ」へ届ける群像劇

里穂子のほうもうまく行っていない。会社を辞めて1年、マクベスに出会うまで廃人のようになっていた。その頃、泥酔してベンチで寝ていた里穂子は春斗と出会っていた。その素敵な偶然はあとでわかる。

『コントが始まる』トリオであり親友――緊張と緩和の聖域を輝き生きる芸人の姿を菅田将暉らが巧みに演じる
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里穂子の好きになったものや関わったものはたいてい良くない方向にいってしまうので、自分が疫病神じゃないかとも思い込んでいる。マクベス解散も自分のその特殊能力のせいではないかと気に病む。

マクベスの3人も、里穂子も、社会に出てもあまりうまくいっていない者たちだ。それでも彼らはささやかな心の支えを見つけてなんとか生きていこうとする。その支えはここでは「コント」である。だが、実は大事なのは「コント」ではない。「コント」を通して仲間との出会い、応援してくれる人や偶然のヒントをくれる人が出現することのほうが重要なのだ。

春斗と潤平は、高校時代、真壁先生(鈴木浩介)に認めてもらってコントをやるようになった。
ふたりだと激しく対立してしまうが、瞬太が加わるとバランスがよくなる。解散問題でギクシャクしたときも、瞬太が福岡まで車でラーメンを食べに行こうと誘って、ラーメンを食べたことで固まった気持ちがほぐれていく。

『コントが始まる』トリオであり親友――緊張と緩和の聖域を輝き生きる芸人の姿を菅田将暉らが巧みに演じる
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孤独でやけ酒におぼれていた里穂子の行為が春斗のコントのヒントになり、福岡でラーメンを食べたことも、すでにあるコントをすこし書き換えるきっかけになる。ひとりではなく誰かと一緒になることで最初は種だったものが芽を出して伸びていく。

ライブの帰り、里穂子と春斗が語り合い、いろいろ感極まって泣いてしまった春斗に里穂子のかけた言葉が、最高のコントのオチになる。“全ての世代の「アナタ」へ届ける群像劇”と銘打っている理由はそこにあるだろう。劇中劇のコントというフィクションと、それを作って演じたり見たりする現実という体(てい)のフィクションの二重構造は、登場人物たちがあがきながら誰かと絡むことでいつしか混ざり合っていく。

『コントが始まる』トリオであり親友――緊張と緩和の聖域を輝き生きる芸人の姿を菅田将暉らが巧みに演じる
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消費社会を駆け抜け希望の花を咲かせる

一時期、物語に没頭するのではなく作りものだとあらかじめ認識して、都合よくできた仕掛けを笑いながら楽しむメタフィクションが流行った。それもだいぶ一般に浸透して、新鮮味がなくなってきたところ。SNSで「メタ」という専門言葉が当たり前に使われ、「伏線」「回収」も「ボケ」と「ツッコミ」くらい一般に浸透してきている。

SNSの浸透によって情報が猛スピードで拡散し、またたく間に消費されていく時代のなかで、『コントが生まれる』は追いつかれないように駆け足しながら、作りものと現実をかけ合わせて第3の物語を生みだし、そこに希望の花を咲かせる。

『コントが始まる』トリオであり親友――緊張と緩和の聖域を輝き生きる芸人の姿を菅田将暉らが巧みに演じる
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脚本は、ホームドラマ『俺の話は長い』(19年)で向田邦子賞を獲った金子茂樹。最初は里穂子のナレーションで、途中から春斗に変わるのは、『花束みたいな恋をした』のようで、映画を好きな人には嬉しいかもしれない。


なかなか難易度が高い構造で、俳優が巧いからこそ見るに耐えられるものとなる。菅田将暉、仲野太賀、神木隆之介が、アドリブ禁止、作り込んだコントに徹する職人気質な芸人ならではのコントを行う傍ら、舞台を離れたあとは気のおけないゆるい関係を演じる。

『コントが始まる』トリオであり親友――緊張と緩和の聖域を輝き生きる芸人の姿を菅田将暉らが巧みに演じる
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でもその関係性のなかからコントのヒントも生まれることもあって、その緊張と緩和の空間は聖域である。3人はその聖域をキラキラと生きている。そして、それを見つめる有村架純は、掃き溜めに鶴のような里穂子を見事に演じている。里穂子は自分を疫病神と卑下するが、春斗たちにとってはキラキラ輝いているのである。

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※第2話のレビューを更新しましたら、エキレビ!のツイッターにてお知らせします

●第2話あらすじ
潤平「春斗には一つだけ秘密にしていることがある……」
瞬太「プロゲーマーだった頃はよくインタビューで『27歳までに死ぬ』と答えていた……」
コント『屋上』。舞台が明転すると、自宅の屋上テラスで和む中年夫婦と隣のビルで思い詰めた表情をする若者が現れる。その3人による取り留めのないコントの「前フリ」が流れ―――。
コントトリオ「マクベス」解散を決めた春斗(菅田将暉)は、事務所のマネージャー楠木から呼び出され、解散を考え直すように詰め寄られる。
一方マクベスの一人である潤平(仲野太賀)は10年間交際を続ける恋人の奈津美(芳根京子)に、ついに解散することを決意したと告げる。そんな中、潤平は春斗と芸人を志した日々を振り返り、春斗に一つだけ『秘密』にしていることがあると思い返す……。

その頃もう一人のマクベスである瞬太(神木隆之介)はなぜか春斗や潤平と共に通った母校の屋上に佇んでいた。そこは春斗との思い出の場所でもあった。何も知らない春斗だったが、里穂子(有村架純)から気になることがあると話を切り出されると、里穂子が働くファミレスで瞬太が「遺書」を書いていたのだという。それは「屋上」というコントの小道具として書いていただけだと説明する春斗だったが、何やらいつもと状況は違うようで……。
「解散」を宣言することで動き出したトリオ芸人。彼らと巡り会うことで動き出した姉妹。暗闇の中を歩いているかのように見える5人の若者たち。……だが1時間後、彼らを見ていただいた人はなぜか彼らを「美しい」と感じてしまう。2話はそんなまさかの結末を迎える


番組情報

日本テレビ系
『コントが始まる』
毎週土曜よる10時〜

出演:菅田将暉(プロフィール) 有村架純(プロフィール) 仲野太賀(プロフィール) 古川琴音(プロフィール) 神木隆之介(プロフィール) 伊武雅刀(プロフィール) 鈴木浩介(プロフィール) 松田ゆう姫 明日海りお(プロフィール) 小野莉奈(プロフィール) 米倉れいあ

脚本:金子茂樹
音楽:松本晃彦
主題歌:あいみょん「愛を知るまでは」(unBORDE / Warner Music Japan)
チーフプロデューサー:池田健司
プロデューサー:福井雄太 松山雅則(トータルメディアコミュニケーション)
演出:猪股隆一 金井 紘(storyboard)

制作協力:トータルメディアコミュニケーション
制作著作:日本テレビ

番組サイト:https://www.ntv.co.jp/conpaji/


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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