『おちょやん』第21週「竹井千代と申します」

第104回〈4月29日(木)放送 作:八津弘幸、演出:梛川善郎〉

朝ドラ『おちょやん』塚地武雅の明るさも大きく寄与 ドラマのムードをクリアーに変えた6つの要因
イラスト/おうか
※本文にネタバレを含みます

千代はまだ迷っているが……

千代(杉咲花)の俳優としての実力を買っている花車当郎(塚地武雅)が訪ねて来て、ラジオドラマに出てほしいと、「竹井千代さん、どうかこの僕と夫婦になってください」(正座で)とまで言って説得するが、千代は頑として受け付けない。

【前話レビュー】華丸大吉も拍手 当郎という狂言回しの登場で、千代が主役として輝ける環境が整う

すると今度はラジオドラマ『お父さんはお人好し』の作家・長瀬(生瀬勝久)がやって来た。道頓堀で千代の仲間たちから聞いた話――彼らは皆、いつか千代が芝居をやると信じていることを伝えたうえ、今を生きる人達に「生きてさえいれば人生おもろいことが起こるんや、諦めたらあかんやて教えてやりたい」ので力を貸してほしいと長瀬は深く頭を下げる。


それでも千代は「うちには無理だす」と断る。辛いことを思い出してしまいそうで怖いのだ。千代がいつ、何をきっかけに当郎と長瀬の頼みを聞くか。決断は金曜日!(であろう)

千代がラジオドラマで復帰して、そこからは順風満帆になっていくことはあらかじめ公式でも紹介されている。昼の再放送前にも晴れやかな予告が放送されていた。だからこそドラマを観る気分は上向き。当郎を演じる塚地武雅の明るさも大きな寄与をしているが、ほかにも俄然、ドラマのムードをクリアーに変えた要因がある。6つの項目に注目してみよう。

ドラマを変えた6つの要因

■その1. 塚地武雅の陽気さ 
花車当郎役の塚地による、あたたかくて親しみやすく、可愛げがあって軽妙な芝居がドラマ全体を底上げした。

■その2. 栗子との和解
千代の不幸のはじまりでもある継母・栗子(宮澤エマ)と雪解け。一緒に暮らし、晩酌しながら「ただいてくれるだけでええ。それで十分や。芝居してへんかっても、あんたはあんたや。
おおきにな」とまで千代に言う栗子の変貌にびっくりするも、ギスギスを引きずらないのはホッとする。

■その3. 子役・毎田暖乃の愛くるしさ
千代の子役を演じていた毎田暖乃が栗子の孫・春子役で登場。子・千代も人気だった毎田が、ワイルドな子・千代とはまた違うおしゃまな少女を演じ分け、なつかしさと新鮮さを振りまいている。

朝ドラ『おちょやん』塚地武雅の明るさも大きく寄与 ドラマのムードをクリアーに変えた6つの要因
写真提供/NHK

■その4. 3世帯の女の共同生活
栗子、千代、春子と、血のつながっている者とつながってない者の奇妙な3人の生活ながら、慎ましく穏やかに助け合っている様子が心地よい。

■その5. 家の美しさと安心感
栗子の部屋は端正。それは格子柄が多用されているからであろう。これまでの千代の住居はボロ屋で雑然とし不安定な雰囲気があったが、縦横、真っ直ぐな線によって目に安定感を与える。これは、過去、ねじれていた栗子や千代の人生が真っ当に生き直す暗喩にも見えてくる。

■その6. かかる音楽が違う
第104回に限ったことではあるが、千代が過去を回想するときにかかっていたのは、ラジオから聞こえてくるショパン「夜想曲 ノクターン」。このクラシックのメロディは多くの人が聞いたことのあるものだろう。親しみがあり、それでいて単純ではなく滋味がある。これまでの劇伴はあえてひねった楽曲を使用していて、通好みすぎたが、知られている曲を回想場面で、ラジオで聞いている体(てい)で流すことで大衆の感覚に寄り添ったといえるだろう。
千代の過去の演劇経験に喜怒哀楽が混じり合って、捨てがたいものであることが伝わってきた。オリジナル劇伴も様々な感情や時間が混ざりあった上等のものなのだが、クラシックの名曲は断然強い。

生瀬勝久も安定の好感度

塚地もすばらしいが、作家・長瀬の生瀬もさすが。土台に鋭い知性をもちながら、口調はやわらか。千代への言葉に説得力がある。

当郎が千代の家からの帰り、屋台で関東炊きを食べている長澤にばったり会い、語り合う場面は、栗子が千代を見つけたことといい、ばったり会うことの多いドラマだなあと思いつつも、生瀬と塚地の会話に引き込まれる。

戦争で慰問のために演劇をやったときはやる気がおきなかったと経験をぽつりと語る長瀬と当郎。前作の朝ドラ『エール』(2020年度前期)の音楽と同じく演劇も戦意高揚に利用された歴史に基づく会話である。戦争の傷を引きずっているからこそ、「生きてさえいれば人生おもろいことが起るんや。諦めたらあかんやて教えてやりたい」気持ちが募るのだろう。

振り返ると、『エール』では第93回で、北村有起哉演じる劇作家・池田(菊田一夫がモデル)が、ラジオドラマ『鐘の鳴る丘』を書き、人気を博す。その主題歌を主人公・裕一(窪田正孝)が作曲した。

朝ドラ『おちょやん』塚地武雅の明るさも大きく寄与 ドラマのムードをクリアーに変えた6つの要因
写真提供/NHK

昭和22年7月5日、『鐘の鳴る丘』がNHKで放送開始。
日本の文化を監視するアメリカの組織CIEの要望を取り入れた“青少年の不良化防止の問題に取材した”ドラマで、主人公は「世の中に悪い少年はいないと信じている」復員兵。彼が戦争孤児の居場所を作る話は日本中で大人気となって、最初は土日の15分だったのが、月〜金の週5、15分に増えた。これが、連続テレビ小説――朝ドラの元になった

――『エール』93回レビューより

その7年後、大阪では、にぎやかな家族を描いたラジオドラマ『お父さんはお人好し』がはじまる。東でも西でも戦後復興のための物語が生まれていたのである。こうして見ると『エール』と『おちょやん』は2020年度前期、後期作品で、2作でひとつのような印象も受ける。

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■杉咲花(天海千代役)プロフィール・出演作品・ニュース
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番組情報

連続テレビ小説『おちょやん

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り

<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)

<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送

<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥
主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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