『オキシジェン』閉所恐怖症のオレ無理 酸素切れが迫る医療用ポッドから脱出を試みるサバイバルサスペンス
(C)Netflix

5月12日からNetflixにて配信開始になった『オキシジェン』。できれば事前情報抜きで観てほしい作品である。
医療用ポッドに閉じ込められるという文字通り閉塞感まみれのスリラーだが、それだけの映画ではない。

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医療用ポッドで目覚めた記憶喪失の女、迫る酸素切れに打つ手はあるのか

暗闇の中、全身をビニールのような素材に包まれた女性が目覚めるところから映画は始まる。顔面を覆っていたカバーを引き剥がして目を覚ました場所は、極低温で人間を長期間眠らせることができる医療用ポッドの中。目は覚めたものの女性が叫び声をあげてもポッドの外からは何の反応もなく、人間一人が寝るだけで埋まってしまうような狭いポッドの中で女性は途方にくれる。

『オキシジェン』閉所恐怖症のオレ無理 酸素切れが迫る医療用ポッドから脱出を試みるサバイバルサスペンス
(C)Netflix

その時、ポッドの中に電気がつき、「ミロ」と名乗るバーチャルアシスタントが起動する。ミロは患者情報から女性は「生物体オミクロン267」と呼ばれていることを教え、さらに酸素残量が35%を切っていることを告げる。このままでは酸欠で死亡確定。だがしかし、今ここがどこなのか、自分が一体誰なのかすらわからない。かろうじて繋がるネットと通話だけを頼りに事情を探る「オミクロン267」だが、酸素が底をつくタイミングが刻一刻と迫る。

とにかく閉所恐怖症の人には1から10までキツそうな作品である。登場するロケーションは人間一人が寝そべったらいっぱいになるようなサイズの医療用ポッドのみ。すぐ目の前が天井なので、ほとんど棺桶のようなサイズ感である。したがって登場人物もほとんどオミクロン267とバーチャルアシスタントのミロだけ。
この2人(片方は人間ですらないが)の掛け合いによって、どういう事態が発生したのかが徐々に明かされることになる。

『オキシジェン』閉所恐怖症のオレ無理 酸素切れが迫る医療用ポッドから脱出を試みるサバイバルサスペンス
(C)Netflix

『オキシジェン』は、この「医療用ポッドの中だけで話が進む」というポイントをこれでもかと活用しきる。頼んでいない鎮静剤を打とうと迫る注射器のアームからポッドの中を転がって逃げ回るところなど、イヤ度10000%である。限られたシチュエーションから発生するスリラー性を活かしきる手腕と悪趣味な味付けは、『クロール 凶暴領域』などでも見られたアレクサンドル・アジャ監督の得意技。「こんな閉所でこうなったらイヤだ!」という展開を見事に狙い撃ちしてくるので、狭い場所が苦手な人は注意してほしい。


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ひたすら諦めない、メラニー・ロランの熱演が光る一本

文字通りの閉塞感満載の『オキシジェン』だが、オミクロン627はこの状況を必死で打開しようとする。警察をはじめ考えられるすべての場所に電話をかけまくり、クリティカルなところでいきなりポンコツになるAIのミロを使って、なんとか自分が何者なのかを探り当てようとする。

『オキシジェン』閉所恐怖症のオレ無理 酸素切れが迫る医療用ポッドから脱出を試みるサバイバルサスペンス
(C)Netflix


『オキシジェン』閉所恐怖症のオレ無理 酸素切れが迫る医療用ポッドから脱出を試みるサバイバルサスペンス
(C)Netflix

オミクロン627に降りかかる災難は不条理そのものだ。目が覚めたら狭いポッドに詰め込まれ、頼んでもいないのに鎮静剤を打ち込まれそうになり、自分が誰なのかもよくわからないままポッド内の酸素が尽きようとしている。だが、そんな状況にもかかわらず、オミクロン627は生き延びるべく全力を尽くす。オレだったら「どうせ寝るくらいしかできないし……」と諦めて寝てしまいそうなシチュエーションで、不屈の努力を繰り返すのだ。

このひたすらに粘り強いオミクロン627を演じるのは、メラニー・ロランである。ほぼ一人芝居みたいな内容の『オキシジェン』を彼女たったひとりで支えることになっているわけだが、このメラニー・ロランの演技が凄まじい。
どんな苦境でも目に意思が感じられ、追い詰められても抵抗する姿に説得力がある。

『オキシジェン』閉所恐怖症のオレ無理 酸素切れが迫る医療用ポッドから脱出を試みるサバイバルサスペンス
(C)Netflix

『オキシジェン』閉所恐怖症のオレ無理 酸素切れが迫る医療用ポッドから脱出を試みるサバイバルサスペンス
(C)Netflix

この作品は、コロナウイルスによるパンデミックの後に撮影されたものである。医療用ポッドの中だけという極めてミニマムなロケーションと少ない登場人物で撮影されたのも、コロナでのロックダウンの影響が大きかったのだろう。ストーリー的に、そんな状況を彷彿とさせる側面もある。しかし、そんな状況を前にしても「まだ何か手はあるはず……」と引かないメラニー・ロランの姿に、ついグッときてしまった。

なんせ本作はネタバレ厳禁、とにかく「なんか狭いところに閉じ込められて酸素が減ってヤバいことになる」という程度の事前情報だけで見てほしい作品なので、これ以上本編の内容に触れづらいのが悔しいところ。段階的に謎のスケールが上がっていき、最後まで見ればちょっとホロリときてしまう作りになっている。何かと閉塞感ばかり強くなる昨今だからこそ沁みる、上質なスリラーである。

『オキシジェン』閉所恐怖症のオレ無理 酸素切れが迫る医療用ポッドから脱出を試みるサバイバルサスペンス
(C)Netflix

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作品情報

『オキシジェン』
Netflixで配信中
配信ページ:https://www.netflix.com/jp/title/81277610

出演:メラニー・ロラン、マチュー・アマルリック、マリック・ジディ

<ストーリー>
アレクサンドル・アジャ監督によるフランス発のサバイバルサスペンス。完全に記憶を失った状態で、極低温ポッドの中で目覚めたリズ。生き延びるには、酸素が枯渇してしまう前に、自分が何者なのかを思い出すしかない……。

2021年/1時間41分


Writer

しげる


ライター。岐阜県出身。元模型誌編集部勤務で現在フリー。月刊「ホビージャパン」にて「しげるのアメトイブームの話聞かせてよ!」、「ホビージャパンエクストラ」にて「しげるの代々木二丁目シネマ」連載中。プラモデル、ミリタリー、オモチャ、映画、アメコミ、鉄砲がたくさん出てくる小説などを愛好しています。

関連サイト
@gerusea
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