『おかえりモネ』第4週「みーちゃんとカキ」

第20回〈6月11日(金)放送 作:安達奈緒子、演出:梶原登城〉

『おかえりモネ』は因果の物語である。山も海も、過去も現在も未来もつながっている
イラスト/AYAMI
※本文にネタバレを含みます

久しぶりに実家で過ごした百音(清原果耶)は登米に帰る船の上で、天気予報士の仕事をすれば人の役に立てるかもしれないと希望を抱く。

【関連レビュー】『おかえりモネ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜第20回掲載中)

第20回の放送の前に「このドラマ、少しずつつながって見えてきましたね、全体像が」と『おはよう日本 関東版』で高瀬アナがこう解説していた。

『おかえりモネ』がはじまって4週目。
主人公が何を考えているかわからないという感想がSNSなどには上がっている。百音の情報をざっくりまとめてみる。

音楽の高校受験に落ちた日に震災があって、その時、地元・亀島ではなく仙台にいたことで引け目を感じ、3年間鬱々とした末、地元を出ることにした百音。「人の役に立ちたい」けれどどうしたらいいかわからない。

本人が何をしたらいいかわからないから、視聴者もわからないのは当然のこと。……いや、ホントはみんな薄々わかってはいる。ただ、主人公が思っていることをはっきり言葉にしないから、感じたことの答え合わせができず、不安になるだけなのである。

自分が何をしたいかわからない主人公が少しずつわかっていく過程を楽しむドラマが、4週目のラストでようやく人の役に立てることの確信をみつける。その瞬間、海の上で風に髪をなびかせながら、太陽の光を目に受けてキラキラしている百音の表情が清々しい。海風回っています、という感じの劇伴も盛り上がる。

いよいよ気象予報士の道を百音が邁進していく。山も海もつながっているし、物語も、過去も現在も未来の断片がつながっている。
原因と結果、『おかえりモネ』は因果の物語である。

姉妹の複雑な関係

海から挙げた原盤をチェックすると、思ったよりカキの赤ちゃんはついていなかった。「おじいちゃん喜ぶと思ったんだけどな」としょげる未知(蒔田彩珠)。喧嘩するけど、おじいちゃんのために未知は頑張っているのだ。

それを痛いほど感じる百音は、未知の地場採苗の研究には島に利益をもたらす可能性があると力説する。龍己(藤竜也)はからかいつつも、内心、孫が家業に熱心であることを喜んでいた。近隣の人たちも無理無理と言いつつも、頭ごなしに否定したりはしない。皆、基本、やさしい人たちばかりである。

百音と未知もすごく仲が良い。百音は姉らしく未知を思いやり励まし、周囲からも守ろうとする。

未知は、百音が気象予報士の勉強をはじめたことを知る。勉強が得意な未知と、勉強が苦手な百音。「先のことがわかれば人助けができるかなと思って」と言う百音に、「私のせい?」と聞く未知。


そこで思い出されたのは3年前のこと。震災が起きた後、未知は百音に「おねえちゃん、津波見てないもんね」と言う。その瞬間、息が止まったように見える百音。大きな瞳からは涙が溢れる。

『おかえりモネ』は因果の物語である。山も海も、過去も現在も未来もつながっている
写真提供/NHK


『おかえりモネ』は因果の物語である。山も海も、過去も現在も未来もつながっている
写真提供/NHK

その時のことを未知も百音も忘れていない。でも百音はその話を忘れているようなふりして誤魔化す。未知もそれ以上言葉にしないで、勉強を「頑張って」と言うだけ……。お互い傷には触らない。それは精一杯の思いやりである。

言葉に出したら終わってしまうことが現実の世界にはある。『おかえりモネ』は言葉に出せないことを抱える人たちの物語である。

姉妹の複雑な関係

未知がどうして意地をはって種ガキを地元で作ろうとしているのか。今回のセリフでわかったような気がした。


災害によってそれまであったものが失われていく瞬間を目の当たりにしたからなのだろう。失われたものを取り戻したいし、他地域に頼っていたものが頼れなくなった時に、自活できるようにしないとならない。自分たちで自分たちを守らなくちゃいけないという意識が強くなったにちがいない。

その気持ちを百音は共有できないことに負い目を感じている。それでも自分なりに人の役に立てることはないだろうかと考えた末、出会ったのが天気を予想する仕事だった。あらかじめ天気がわかれば、被害を避けることができるのではないか。人類共通の願いである。

登米に植えた木の葉が川を通じて石巻に流れ込み、種ガキの栄養となる。それが亀島に来て成長し収穫される。関係ないように見えて相互関係が成り立っていることをようやく百音は実感する。

「将来モネちゃんが天気読めるようになって、俺が一発勝負賭けるときはあんたに相談する」
あくまでも人生ギャンブルという俗っぽい回答をする龍己がカッコいい。

あーカキ食べたい!
(木俣冬)



※『おかえりモネ』第21回のレビューを更新しましたら、Twitterでお知らせします

番組情報

連続テレビ小説『おかえりモネ

2021年5月17日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら

:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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