『おかえりモネ』第5週「勉強はじめました」
第25回〈6月18日(金)放送 作:安達奈緒子、演出:桑野智宏〉

今週の百音(清原果耶)の表情はドラマがはじまった頃と全然違っている。目標がみつかってやりがいに燃えているかだろう。笑顔が輝いている。
【関連レビュー】『おかえりモネ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜第25回掲載中)
やっぱり主人公の充実した姿を見るのは楽しい。百音は広葉樹のナラで学童机を作ることを諦めず、アイデアを絞り続ける。と同時に菅波(坂口健太郎)とは勉強を通して近づいていく。
「みんなのためになること」
広葉樹のナラで学童机のサンプルを作ったものの、3月末までに4200個、学童机を納品することができそうになく、企画が頓挫しそうになる。が、百音は諦めきれない。ちょうど天気の勉強をしていたので、太陽光で乾燥させるためにビニールハウスを使うことを思いつく。サヤカ(夏木マリ)に「素人がバカなふりして突っ込んでいくからブレークスルーが起きる」と言われ、百音は先入観を排除して素直に思いついたことを提案していく。
第25回はサヤカの(ビニールハウスの中は)「暑い」ではじまり(熱伝導を体でわかる百音と菅波の)「熱さ」で終わる、熱量のある回だった。
作業の手が足りない点は、引退していた地元の優秀な木工業者たちの手を借りることになった。きっかけは伊藤さん(原金太郎)が十年ぶりに本漆を塗ってかぶれたと言いながら嬉しそうだったことである。
木の仕事が減ってしまって寂しく思っていたベテラン(木工界のレジェンド)たちは喜んで手を貸す。この流れは、サヤカに「みんなのためになることを考えな。そうすると人は動く」と言われたことも手伝っているだろう。
「みんなのため」は大河ドラマ『青天を衝け』でも主人公・栄一(吉沢亮)が子供のとき母ゑい(和久井映見)から「みんなのためになることがいちばんなんだよ」と言われ、それを大人になっても行動の指針にしている。大河でも朝ドラでも「みんなのため」。
「みんなのためになること」だったら「人は動く」。私利私欲ばかりが先に立つと、人は動いてくれないのである。
「うちの利益は少なくなります。でも仕事はないよりあったほうがいいし」と言う百音。損して徳とれの精神を百音はわかっている。他所からやって来た百音だが、地域の人たちと一緒に何かをやることを学んだ。それこそが地域のコミュニティーに溶け込むいちばん大事なところである。
たくさんの人たちが力を合わせた木の伐採、乾燥、作業は活気に満ちている。出来上がった机にすりすりする子どもたち。天板のすべすべの気持ちよさが伝わってくる。
「あの子たちに水と空気を作ってやってるんだ」と川久保(でんでん)は林業の誇りを取り戻した。「林業は生き残っていかなければいけねえ」と言って帽子をかぶるタイミングと力の入れ具合に川久保の決意が滲む。
木村(アベラヒデノブ)の「広葉樹は暴れっから手作業じゃねえと作れねえ」というセリフが良かった。「広葉樹は暴れる」という実感こもった独特の言葉選びがその人の個性を作っていく。


熱伝導する菅波と百音
クマさん(山本亨)に「空気は下から」と言われたことが理解できない百音。菅波に何度言われてもキョトンとしている。菅波の教えにも熱が入ってくる。声も大きくはっきりしようとするあまり裏返りそうになる。
「接している物体はなんで均一になろうとするんですかね」と百音に聞かれて、「ダメだ! どんどんミクロの世界に突入していく」と悲鳴をあげる菅波。菅波はさっさと本題(雲ができる仕組み)に進みたいが、百音は疑問を置いておくことができない性格なのだ。
そんなふたりを「あのふたり」「まさか」「意外にあっかもよ〜」とそわそわしながら覗いているカフェ「椎の実」の従業員・菊池(佐藤みゆき)と常連客・吉田(大島蓉子)、井上(高柳葉子)、小野(関えつ子)。そこへサヤカが割って入って、いいムードをぶち壊すかと思ったら、逆に一気にふたりを近づける。
向かい合っていたふたりを狭いソファに並んで座らせ、触れ合う肩と肩のぬくもりを差して「それが熱伝導よ」とだけ言って去っていくサヤカ。
「熱伝導」について理屈優先の菅波が体で実感を得たこと、理屈で理解できない百音が肌感覚で理解すること。これは性質の違うふたりが少し歩み寄ったことでもあるし、理屈と感覚はまるで違うもののようで意外と本質において結びついているようにも感じさせる深みのあるシーンだった。触れ合ってぬくもっていくところをアニメーションにして見せることで、ふたりの関係の初々しさが増幅した。
(木俣冬)
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番組情報
連続テレビ小説『おかえりモネ』
2021年5月17日(月)~<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送
出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら
作:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami