『おかえりモネ』第6週「大人たちの青春」

第27回〈6月22日(火)放送 作:安達奈緒子、演出:桑野智宏〉

『おかえりモネ』第27回 ノリノリで百音の父母の青春恋物語を話して聞かせる田中 元気になってよかった
イラスト/AYAMI
※本文にネタバレを含みます

本気で気象予報士の資格をとろうと菅波(坂口健太郎)の助けでスケジュールを立てた百音(清原果耶)。あっという間に冬が来た。百音にとって登米で過ごす初めての冬。
でもお正月は気仙沼に帰る。

【関連レビュー】『おかえりモネ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜第27回掲載中)

明けて2015年1月。百音は、登米で知り合った田中(塚本晋也)から聞いた父・耕治(内野聖陽)と母・亜哉子(鈴木京香)の馴れ初めを未知(蒔田彩珠)に話して聞かせる。時代は80年代、父と母の「青春」物語。ノスタルジックな雰囲気が漂って、ちょっと雰囲気が変わった。

田中さん、元気になってた

第26回でひどい発作を起こして倒れた田中だったが、菅波の適切な処置で持ち直し、冬になっても元気で写真を撮り、百音になにかとまとわりついている。

田中は実は、耕治の旧知の人物で、自身が経営するジャズ喫茶に百音を呼び、昔の耕治の写真にさり気なく気づかせる。要件は、森林組合にテーブルと椅子を作ってもらうことではあるが、きっと、百音が写真に気づくと狙っていたに違いない。テーブルと昔話、どっちが本題なのかも定かではない。

百音はまず有名なジャズプレイヤーの写真に気づき、父の英才教育の片鱗を見せる。それから耕治の昔の写真に驚く。自分の正体(耕治と亜哉子の知人)を明かした田中からノリノリでふたりの過去を語られて、百音は複雑な思いにかられながら目と口を丸くする。

百音からそれを又聞きする未知も聞きたいような聞きたくないようなと複雑な表情。
いまやすっかり落ち着いた感じの両親の若い頃の生々しい恋愛の話を聞くのがこそばゆい少女たちの感覚が瑞々しい。

ジャズ喫茶はタイムマシーンのよう

田中さんのジャズ喫茶は昼間でも薄暗く、間接照明が灯っている。セピア色のような雰囲気と、百音の父母の過去のセピア色と繋がっていて、過去のエピソードに向かうトンネルのようなタイムマシーンのような役割に見える。

画面をセピア調にすることで、内野聖陽と鈴木京香が二十代の若者を演じてもそこまで無理がない。鈴木京香はザッツ朝ドラヒロインという感じで、明るく清純そう。内野聖陽はロン毛でティアドロップ型のサングラスに革ジャンでイキってる感じ。「たたずまいが迫力があってほんとカッコよかった」(by 田中)。『あさイチ』で大吉が映画『ランボー』の頃のシルベスター・スタローンのようと言って、SNSを盛り上げた。

耕治と亜哉子の恋はすんなりいったわけではなかった。亜哉子が耕治に夢中になって告白したが、「地元の島に忘れられない人がいます」とクールに去っていく。付き合っている人がいます、ではなくて、忘れられないだけってところに可能性があるわけで。

付き合ってる人がいるのに横恋慕したら、亜哉子が悪女になってしまう。朝ドラだからできるだけそれは避けたいであろう。
しかも、忘れられない人を想い続けてストイックを気取っている耕治の純情さみたいなもので、彼の好感度も上がるのであった。

ちなみに、内野の出世作である朝ドラ『ふたりっ子』でも彼は主人公に惹かれながらその双子の姉からも迫られてストイックな振る舞いをする役を演じていた。そのときは銀縁眼鏡でめっちゃ細かった。

『おかえりモネ』第27回 ノリノリで百音の父母の青春恋物語を話して聞かせる田中 元気になってよかった
写真提供/NHK


『おかえりモネ』第27回 ノリノリで百音の父母の青春恋物語を話して聞かせる田中 元気になってよかった
写真提供/NHK

「振り返るパターンありですよ」

父母の恋バナと平行して、百音と菅波の関係も描かれるが――こちらは「熱伝導」以降の進展はないようだ。

2014年暮れ。雪がちらちらと舞い、背景に控えめながらイルミネーションが灯る夜、東京に戻っていく菅波と、診療所の前で語る百音。ロマンチックな展開にならないふたりを、森林組合の人たちやカフェ「椎の実」の人たちが隠れて見守っている。去っていく菅波に「振り返るパターンありですよ」と期待する翔洋(浜野謙太)。「振り返れー振り返れー」と念じるが……。

百音と菅波も、耕治と亜哉子もすんなりとはいかないようだ。

みんな大好き、大逆転

流行りに乗らず、淡々と我道を行くように感じる『おかえりモネ』だが、「きゅん」要素が入ってきて、『ドラゴン桜』的受験もののムードもあり、さらにここで日曜劇場でおなじみ「大逆転」ありとほのめかす。逆転ものは『半沢直樹』で盛り上がったわけだが、第1シリーズが放送されて盛り上がった同年2013年には朝ドラでも『あまちゃん』で「おらたちの大逆転」というサブタイトルがあった(第21週)。この週を、モネ第6週の演出家・桑野智宏が担当していたら――と思ったら、桑野担当週は第20週であった。惜しい。


初詣の百音と未知のおみくじは「中吉」。お正月くらい大吉にしてくれたらいいのにね……というふたりの大逆転はあるだろうか。
(木俣冬)



※『おかえりモネ』第28回のレビューを更新しましたら、Twitterでお知らせします

番組情報

連続テレビ小説『おかえりモネ

2021年5月17日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら

:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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