『おかえりモネ』第7週「サヤカさんの木」

第31回〈6月28日(月)放送 作:安達奈緒子、演出:一木正恵〉

『おかえりモネ』第31回 新田サヤカと四人の元夫――大豆田とわ子より1回多かった!!
イラスト/AYAMI
※本文にネタバレを含みます

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2015年3月、百音(清原果耶)が登米に来て1年が経過。良いことと残念なことがあった。良いことは、学童机が4200脚完成して、納品されたこと。
残念なことは気象予報士の試験が不合格だったこと。

【レビュー一覧】『おかえりモネ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜第31回掲載中)

森林組合では若きプロジェクトリーダーとして期待され、気象予報士の勉強も引き続き行う百音。そんな時、サヤカ(夏木マリ)が足を骨折し、百音はまたひとつ目標を増やす。

「春ですね」

菅波(坂口健太郎)は百音が晴れ晴れした顔をしていることに気づくが、それは学童机の納入で、試験には落ちたことを知る。その時のリアクションがじつに味わいがある。

百音「先生、来ました、はがき。予報士試験の」
菅波「どうでしたか」
百音「落ちました」
菅波「でしょうね」
百音「はい」
菅波「……春ですね」
百音「フフ……そうですね」

こうしてふたり、空を仰ぐ。なんて上品な優しさよ。そして何気なく見えて、こういうほうが芝居としてはハードルが高い。しかもここ、ロケではなくセットである。実際には空なんてないのである。そんな作りものの中で、これだけの叙情性。非常に見応えのある場面だった。


百音、居眠りする

試験には落ちたが、森林組合の仕事は忙しい。登米の木材を利用した学童机は高評価で、プロジェクトリーダーとして期待され、大人たちからけっこう持ち上げられている百音。

気象予報士の試験は、年に2回あって、最初の1月は勉強が間に合わないので捨て、次にかける予定だった。だから勉強はまだ続く。

森林組合の仕事が忙しく、百音は勉強中にうとうとしてしまう。菅波は、少し休んだほうがいい、森林組合の仕事がおろそかになったら本末転倒だと冷静に注意する。

森林組合の仕事も1年経って、やりがいが出てきて、期待されているが、気象予報士になったら森林組合の仕事はどうするのだろうか。そんな時にさらに百音にやることができて……。

百音、自動車免許取得を目指し始める

サヤカがケガしてしまったので、車の免許をとって代わりに運転しようと考える百音。登米に来たときは自分がすべきことが見つからずにいた百音だが、今度は逆にすべきことの選択肢に迷うようになってきた。

森林組合の仕事もやりがいがあるし、みんなも期待してくれる。気象予報士の仕事にも興味がある。老いたサヤカの世話もしてあげたい。どれもこれも誰かの役に立つ仕事である。
百音は人の役に立ちたい人だから迷う。

菅波に言われた「あなたがいてよかった」という言葉が百音をもうひとつの選択肢に縛ってしまったともいえるだろう。他人のためは尊いけれど、他人の感謝に依存してしまうと主体性が失われてしまう一例である。でも決して悪いことではなくて、こうやって他人のためになることをモチベーションにして、百音は、いろんなことを学び身につけているのだから。

『おかえりモネ』第31回 新田サヤカと四人の元夫――大豆田とわ子より1回多かった!!
写真提供/NHK


『おかえりモネ』第31回 新田サヤカと四人の元夫――大豆田とわ子より1回多かった!!
写真提供/NHK

サヤカは森の神の使い?

植樹祭を企画したサヤカ。樹齢300年のヒバを伐る前に、次世代の木を残そうと、そしてそれを百音に見せたいと考えたのだ。老木をサヤカの世代に、若木を百音の世代にたとえて描いているのは明白で、世代交代が行われようとしている。

サヤカが植樹祭の準備をしていて骨折してしまった。元気なようでそれなりにお年なのである。菅波に背負われて戻ってきて、菅波に手当を受ける。

百音に髪の毛を拭かれ、「ワシャワシャふかないで。捨て猫じゃないんだから」と文句を言うサヤカ。未熟な百音だが、菅波は「こういうときは誰だってひとりは不安です。
あなたがいてよかった」と言う。「あなたのおかげで助かった」という言葉は麻薬と注意していた菅波だが、この場合は、誰かが誰かのそばにいるだけで尊いということだろうか。

サヤカは、山には神様がいて、「私は山の神様から山を預かってるの」「私は山の神様の怒りを鎮めるために、ここに無理やり連れてこられたの。そしてその役目を継ぐのは、モネ。(小声で)あなたよ」とまことしやかに言って百音を驚かせる。真剣な顔をする百音に「ピュアだね」と笑うサヤカ。

急にジブリの世界のような話になるところであった。『モネと森の魔女』みたいな。いや、冗談ではなく、そろそろ朝ドラにもファンタジーものがあってもいいのかもしれない。体験も嗜好も違う者たちが世代を超えて共に楽しめるのはファンタジーではないだろうか。

サヤカの世話を懸命にする百音をサヤカは「忠犬」のようだとからかう。捨て猫と忠犬。
ほのぼのする。

第7週の演出はチーフの一木正恵。しっとり、ゆったり、水彩画のように時間の流れを描く演出家。面白いセリフがあっても決してドタバタ描かない。サヤカと山の神様の話のところなんて、雷雨は入っていたけれど、もっと大げさに漫画っぽくもできるところをそうしないストイックさ。媚びず、釣らず、我道を行く印象。NHKの良心だと筆者は思っている。

新田サヤカと四人の元夫

サヤカは過去、4回結婚していたことが判明。しかも各々半月で離婚していた。『大豆田とわ子と三人の元夫』より回数が多い。
(木俣冬)

『おかえりモネ』をさらに楽しむために♪

番組情報

連続テレビ小説『おかえりモネ

2021年5月17日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら

:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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