『おかえりモネ』第10週「気象予報は誰のため?」

第47回〈7月20日(火)放送 作:安達奈緒子、演出:梶原登城〉

『おかえりモネ』第47回 東京編、ここが宮城編と変わった
イラスト/AYAMI
※本文にネタバレを含みます

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東京に出てきたその日に、百音((清原果耶)朝岡(西島秀俊)の所属するウェザー・エキスパーツの仕事の手伝いでテレビ局(J テレ)に行く。夜の報道番組『ニュースJ』のスタッフがインフルエンザになったため、助っ人で入ることになったのだ。何もかも見たことのない環境に戸惑う百音だったが、オンエアが着々と近づいてくる。
神野マリアンナ莉子(今田美桜)が朝岡の代わりに天気予報を読むと張り切るが……。

【レビュー一覧】『おかえりモネ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜第47回掲載中)

「インフルじゃないよね?」

百音でなくても別世界に来た気分になる東京編。海も山も空も見えない世界。人と機械にあふれた世界――テレビ局。セットとNHKの局内とを混ぜて撮影しているようである。

ふいに現実の世界が現れ、登米や亀島がファンタジーの世界だったように思える。内田(清水尋也)がくしゃみをしそうになり止めると、野坂(森田望智)がキッと「インフルじゃないよね?」と反応し、内田は「花粉症です!」と慌てて強調するところなんて2020年の現実そのもの。
ただし、「インフル」は「コロナ」に置き換えられるが。そして、ドラマはまだ2016年。コロナの前の時代であるのだが……。そう、コロナ禍前は、花粉症なのにインフルを疑われていたのであった。懐かしい。

内田はマスクして仕事に励むが、ついに大きなくしゃみを。
こういう現実味のある場面は印象に残る。

野坂「花粉症だよね?」
内田「花粉症です」
野坂「……スギ?」
内田「ブタクサ……」
百音「まだスギかヒノキ」
内田「ヒノキ」
百音「はい 4月なんで……」

やっと百音が山の知識を生かすことができた。このやりとりが面白い。ぼそっとした言い方に味わいがある。

『おかえりモネ』第47回 東京編、ここが宮城編と変わった
写真提供/NHK

「ハラスメント講習受けたことあります?」

現実味があるといえば、社会部記者の沢渡公平(玉置玲央)。ちょっとぼさぼさの髪で、態度は横柄な感じで、いかにも記者ふう。「莉子ちゃん」と「ちゃんづけ」で馴れ馴れしく語りかけ、「見てる、じっくり」と顔を接近させ、野坂に「ハラスメント講習受けたことあります?」ととがめられる。


気にせず、今度は野坂を形式的に褒めるが、「いい加減、女性の笑顔はドン引きと表裏一体と覚えてください」と野坂は手厳しい。それでもどこ吹く風という様子。

沢渡を演じている玉置玲央がクールで知的な感じなため、あまりいやな感じもしなかったが、演じる人によってはすごくいやらしい感じにもなるだろう。「この程度でいちいちいやがるタイプじゃないでしょ」なんてセリフ、女性を見下している。莉子がニコニコ応対しているので、増長してしまうのである。それに引き換え野坂は毅然と沢渡に対応する。


玉置玲央は、土曜ドラマ『ひきこもり先生』で主人公(佐藤二朗)のひきこもり友だち役、『モネ』の脚本家・安達奈緒子の書いた土曜ドラマ『サギデカ』では振り込み詐欺グループのリーダーを演じていた。劇団・柿食う客の一員として活動していて、身体表現の豊かさに定評があり、テレビドラマでも印象的な動きをよくしている注目株だ。

『おかえりモネ』第47回 東京編、ここが宮城編と変わった
写真提供/NHK

野心ある神野マリアンナ莉子

浅岡のピンチヒッターで天気予報の原稿を読むことになった莉子。自分で原稿も書くと積極的。沢渡に馴れ馴れしくされても表情を崩すことなく、極上のキラキラの笑顔で反応する。

リハーサルもすごくよくできた。「こなれててうまい。
心配する必要なかったね」と高村(高岡早紀)に褒められる。隙を見せず、頭の先からつま先まで気合を入れているが、本番前、百音が小道具の指し棒を渡したとき、手が震えている。

せっかく頑張って本番に臨もうとしたが、急なニュースが入って天気予報が短縮され、莉子の出番はカット。ちょっとさみしそうな莉子。その様子を百音は静かに見つめている。

まったく知らないところに投げ出され、突然、働かされているのに、黙々と事務仕事をしていて、過度に優秀な感じでもなく、ドジっ子でもなく、空気のように存在する百音はわかりやすいヒロインぽさがないが、そこがいいところでもある。


東京編、ここが変わった

風景も変わったが、セリフで回していく構成が宮城編との大きな違いである。これまで宮城編ではセリフに頼らず、登場人物の表情など画で心情を感じさせるようになっていたが、東京編になったら、野坂の「インフル?」「花粉症?」から、「いい加減、女性の笑顔はドン引きと表裏一体と覚えてください」など印象的なセリフが用意されるようになった。意味があるようでないような、あってもなくてもいいけれど、それがリズムを生み出す。これが一般的なテレビドラマ調である。
(木俣冬)

『おかえりモネ』をさらに楽しむために♪








番組情報

連続テレビ小説『おかえりモネ

2021年5月17日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら

:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami