『おかえりモネ』第15週「百音と未知」
第71回〈8月23日(月)放送 作:安達奈緒子、演出:一木正恵〉

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百音(清原果耶)がついに中継キャスターデビュー。『あさキラッ』のキャスターを辞めることになった朝岡(西島秀俊)の代わりを莉子(今田美桜)が引き継ぐことになり、莉子の仕事を百音が引き継ぐ。リハーサルでは「きのこが! きのこが!」と声が裏返ってうまくいかない百音だったが、本番では――。
清原果耶の知的で爽やかな表情は起きぬけに良い水のようだった。
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未知、東京へ――
<やみくもにも信じたよ きちんと前に進んでるって>BUMP OF CHICKENの主題歌「なないろ」の月曜日しか出てこない冒頭の歌詞が響いた。百音は“きちんと前に進んでる”。一度は悩んだものの中継キャスターをやることを決意した百音。菅波(坂口健太郎)との関係もゆっくりながらちょっとずつ進んでいる。
そんなとき未知(蒔田彩珠)が東京にやって来た。表向きは静岡に研修に行く途中に立ち寄ったことになっているが、亜哉子(鈴木京香)に百音と菅波の仲を偵察するよう指令を受けたのであった。
都会にまったく興味のない未知。中目(中目黒)と聞いて「目黒のサンマ」しか浮かばない。いまどきの若者でもこんな子もいるのかもしれない。「いっぺん頭から魚はずそう」と言う百音自身も原宿にも中目にも行っていないような気がする。

「ほんと、くそ度胸ありますね」
未知に菅波に会いたいと言われ、百音は菅波に電話をする。中継キャスターの準備はうまくいっていないが「やりたいことがはっきり見えているんです」(だから頑張れる)と言ったあと、おずおずと「今週末。おひまですか」と切り出す。「ほんと、くそ度胸ありますね」と菅波の顔がみるみる生気に満ちていく。このときの表情は、従来なら女性から男性から誘いの言葉ないしは告白されて嬉しい顔のようで、『モネ』では百音と菅波の役割を意図的にひっくり返しているように感じる。
なかなかはっきりしない男性の気持ちをヒロインがじりじりして待ち、やっと言ってくれて嬉しいというパターンはドラマにおけるひとつのパターンであるが、『モネ』では自分から言えない菅波が百音から積極的になってくれて気が楽になる。
菅波、しっかりしろとも思うが、「#俺たちの菅波」派は彼のこの積極的でないところこそ好ましいのである。ものごとに男性からとか女性からとか決まりなんかない。
正式にお付き合いをする前に妹に会わせるという(その前に父にもたまたまだが会わせている)、家族間に秘密がなく極めて折り目正しい。それを「くそ度胸」と感じる菅波の感性もまた素朴過ぎるほど。彼自身はきっと一緒に帰ったり蕎麦屋に行ったりするまでにものすごく逡巡し、どういうふうに声をかけるべきか悩みに悩んだに違いない。そのうえ百音に手を触れることはまだできていない己のふがいなさに苛立っているのだろう。
百音に勉強や生き方を教えてきた年上の菅波だが、「先生、また言いすぎています」と百音にたしなめられるなど、いつの間にか百音にかなわない感じになっている。百音を導いているようで、じつは百音に助けられている。そこが『モネ』の良いところのひとつでもあって、菅波みたいな悪気はないが口の悪い人物に、百音のように真っ向から対抗しないで静かな口調でたしなめるとうまくいくものだと教えてくれる。

「おはようございます」
従来の役割をひっくり返しているといえば、百音と莉子。リハーサルでは百音はうまくいってなくて、莉子はひとつも問題がなかったが、本番では意外な展開に……。百音は、清楚なメイクで、髪を風になびかせ、「おはようございます」と発声も落ち着いた明るさで聞きやすく登場。今までと別人のように堂々と進行していく。耳にはイヤリングもして、ワンランク大人になった。それを、亀島の家族、登米の森林組合の人たちは大喝采で観ている。
「キノコがにょきにょき」と練習していたときはうまく言えなかった百音だが、「今朝の東京は冬、間近といったところです」と本番で伝えるときはなんのひっかりかりもない。「キノコがにょきにょき」だと顔がギクシャクしてしまうという、語る言葉で人間は変わるという人間の心と身体の関係をよくわかったまったく優れた台本だし、清原果耶もそれを見事に演じている。
一方、莉子は、ワンランク仕事が上になった証しのようにヒールの高い靴を履いて本番に臨むが、それがもつれてしまう。ここは朝岡の代わりをすることがかなりのプレッシャーであることを表しているようにも感じる。がんばれ莉子。
(木俣冬)
番組情報
連続テレビ小説『おかえりモネ』
2021年5月17日(月)~<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送
出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら
作:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami