『おかえりモネ』第16週「若き者たち」

第76回〈8月30日(月)放送 作:安達奈緒子、演出:梶原登城〉

『おかえりモネ』第76回 亮が本音を言えるのはなぜ百音だけなのか 明日美の言葉が胸に響く
イラスト/AYAMI
※本文にネタバレを含みます

※『おかえりモネ』第77回のレビューを更新しましたら、Twitterでお知らせします


しんどい日々に耐えかねて「もう全部辞めたいわ」と自棄になった亮(永瀬廉)。だが、気を取り直して新宿から高速バスに乗って気仙沼に帰ることにしたと亜哉子(鈴木京香)から聞いた百音(清原果耶)は一日だけ休ませてあげたくて亮を連れ戻しに行く。

【レビュー一覧】『おかえりモネ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜第76回掲載中)

何も知らず、前日仕事で中止になったデートをやり直そうと汐見湯にやって来た菅波(坂口健太郎)未知(蒔田彩珠)は百音が亮のところに行ったと含みをもたせて告げる。


百音、未知、そして明日美(恒松祐里)、3人それぞれの思いが部屋に充満し息詰まる緊張感。とりわけ百音と未知の間に立って気遣う明日美を支持する声がネットで多くあがり、Twitterトレンド1位になった。

「りょーちんバス乗せないで」

百音の電話に出た亮は「俺、やっぱ百音しか言える相手いない」と涙声になる。傍らでそのその言葉を聞いて傷つく未知もまた「逃げたいんだよ、ホントは。でも逃げらんないじゃん」と百音には抱えていた本音を言っていることに自分では気づいていない。

「なんでお姉ちゃんなの?」は亮が百音に頼っていることへの嫉妬のみならず、地元から逃げるきっかけを得られたのが百音だったことにもかかっているように感じた。あの日津波を見なかったことをきっかけに百音は地元を離れた。当人はいつか地元の役に立つためにあえて地元を離れているわけだが、地元に残った亮や未知からしたら重荷を背負わず済んでうらやましいと思ってしまうのではないだろうか。

「たまにはいいじゃない、そういう格好も」とおしゃれした未知に亮が言うのは、彼らがそういうよそゆきの服装をすることなく、常に地元とともに歩んでいるからで、たまにはしがらみを忘れて楽しみたいなと思っているのだ。だから仕事で千葉に来たついでに百音のところに立ち寄った。

未知が東京の象徴のような服(そうはいってもかなり素朴なもの)を投げつける心理には地元に残ったプライドと同時に残ったからといって何ができるか実感できない寂寥感であろう。

寝室を飛び出した未知は1階のフリースペースで昨夜亮が座っていた場所に座る。ここに座って彼が何を考えていたのか思いを巡らしているのだろう。


『おかえりモネ』第76回 亮が本音を言えるのはなぜ百音だけなのか 明日美の言葉が胸に響く
写真提供/NHK

百音がやってきて声をかけられずにいると、銭湯から掃除する音が聞こえてくる。宇田川さんが掃除をはじめたのだ。未知は帰らなきゃ……と立ち上がる。以前、水の音を聞くと地元を思い出すと帰り仕度をはじめた龍己(藤竜也)と同じリアクションである。ここにも亀島に生まれ育ち水産業者を生業に選んだ者の特性が出る。

亮が朝8時20分のバスに乗ると見当をつけた百音と明日美がバス停に向かおうとするが、未知は行こうとしない。亮が必要としているのは百音だと感じるからだ。

いじけている未知と一緒に残ることにした明日美。「こういう時、りょーちんが本音を言うのは百音だよ。昔からそうじゃん。なんだろうね、そういう関係。むかついた時期もあったけど」「あいつはね、カッコつけるからね、私やみーちゃんには」などとちょっとおどけた調子で言って、場をこれ以上暗くしないように気遣う明日美。
彼女もまた過去、どれだけ亮が好きでも振り向いてもらえなかった経験があるから未知の気持ちがわかるのだ。

「あいつはね、カッコつけるからね、私やみーちゃんには」は未知への気遣いと同時に強がりでもあるだろう。フラれた経験のある者なら明日美の気持ちが痛いほどわかるはず。それでも亮を思いやり、「りょーちんバス乗せないで」と百音に託す。



『おかえりモネ』第76回 亮が本音を言えるのはなぜ百音だけなのか 明日美の言葉が胸に響く
写真提供/NHK

「あのふたりは昔から通じ合って……」

亮を止める使命を負った百音は新宿に向かう。見当をつけて入った深夜営業の喫茶店に亮はいた。

「おはよう」と笑顔で言う亮。メニューを百音に差し出す。相変わらず気遣いの人である。オムライスの話などしてひととき和むふたり。想像すると、亮はモテるので女の子からぐいぐい好き好き光線を出されると、優しく受け入れようとする気遣いが働いて、自分のことが後回しになってしまう。

その点、百音はぐいぐい来ないので、カッコつけずに本音が言える。きっと他の女の子には彼女たちの好物に気を配り、オムライスやメロンソーダに目を輝かせたりできないだろう。


百音が癒やしのヒーラー的キャラになったのは奥手であったことも要因と推測できる。そんな彼女も恋を知りはじめている。その相手、菅波とデートのやり直し(サメを見に行く)をするはずだった日曜の朝。百音は菅波に連絡しないまま亮のもとへ出かけた後、菅波がやって来た。

「わかりませんでした? なんか空気感じませんでした? あのふたりは昔から通じ合って……」と未知は菅波の気持ちを逆なでするようなことを言う。その時の菅波の顔……。

それにしてもまた朝早く来た菅波。亮のバスが8時20分だとすると9時前には百音を呼びに来たのではないかと思う。生真面目なのはいいことだが、電車の乗り継ぎを心配して早めに家を出てしまうわけでもなく近所から歩いて来ることのできる距離にもかかわらず時間を早めに見計らうにもほどがある。
(木俣冬)

『おかえりモネ』をさらに楽しむために♪










番組情報

連続テレビ小説『おかえりモネ

2021年5月17日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら

:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
編集部おすすめ