朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第6週「1948」

第30回〈12月10日(金)放送 作:藤本有紀、演出:二見大輔〉

朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第30回 稔はいないのに安子はなぜ英語を学ぶのか、渾身の問いへの回答
写真提供/NHK

※本文にネタバレを含みます

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世良公則×金子隆博 贅沢な「オン・ザ・サニー・サイド・オブ・ザ・ストリート」

進駐軍のパーティーのステージで堂々と「オン・ザ・サニー・サイド・オブ・ザ・ストリート」を歌った定一。さすが世良公則だった。

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しかも、原曲ではなくオリジナルな編曲で、通な感じがした。
定一、じつは歌手だったのかと思ったが、演出を担当した二見大輔さんによるとそういう裏設定はないという。それはともかくとして、あのムードある曲がどうやってできたのだろうか。
歌のある場面は、あらかじめ音だけ録って当て振りするやり方が一般的ですが、今回は世良さんの熱量をワンテイク目で撮りたかったので、事前にご本人に相談し、本番でライブのように歌っていただき、安子が定一の歌の熱量をどう感じるか、そこに勝負を賭けました。


上白石さんは本番前のドライリハーサルからすでに泣いていて。僕もドライで泣くというはじめての経験をしました。「オン・ザ・サニー・サイド・オブ・ザ・ストリート」を進駐軍のライブハウスで歌うとき、原曲だとムードが落ち着いてしまうので、多少お祝いモードに曲調とピッチを変えています。この場面用に金子隆博さんに編曲してもらいました。曲のグルーヴ感によって芝居の音頭やリズムも変わるので、前奏や間奏の長さも変えています。それを世良さんに事前にお渡しして、微調整してもらっています。

金子隆博は、米米CLUBのメンバーとしておなじみで、サックス奏者であり、BIG HORNS BEEというビッグバンドのメンバーとしても活動するジャズの心も深く理解しているミュージシャン。金子隆博×世良公則バージョンの「オン・ザ・サニー・サイド・オブ・ザ・ストリート」は涙が出るほど染みた。CD発売してほしい!と思ったら、ジャズアルバムが12月8日にすでに発売されたようで、筆者はさっそくポチってしまった。


サイレントナイト

ロバート・ローズウッド(村雨辰剛)安子(上白石萌音)が案内された場所は進駐軍のパーティー会場だった。

華やかな雰囲気に「これがアメリカなんですね」と安子はショックを受ける。以前、制作統括の堀之内礼二郎さんに取材したとき、“戦時中は誰もが日本は勝つと信じていたから、生活が苦しかったり身近な人が亡くなったりしても、勝つため仕方ないと心を慰めることもできましたが、戦後は価値観がひっくり返り、信じていたものが信じられなくなった人が多かった。『こんな結果になるならなぜ戦争をしたのか……』と、アメリカの豊かさを目の当たりにすればするほど徒労感に苛まれ、多くの日本人は心の支えを失っていました。”と言っていて(ヤフーニュース個人より)、そんなとき「カムカム英語」が日本人を励ましたのだそうだ。このパーティー風景を見て、安子はまさにアメリカの豊かさを目の当たりにしたわけである。

だが、日本とはまるで違う雰囲気ながら、アメリカの人たちも同じように、大事な人を亡くして哀しんでいることを安子は知る。「サイレントナイト」をたぶんこの場のアメリカ人たちは鎮魂の気持ちで歌っている。それが安子に染み込んでいく。

ロバートの妻も戦争が原因で亡くなっていた。でも彼は、妻がいたからいまの自分がいると、安子もまたそうであろうと言う。第29回の安子のWhy my hazband is not with me anymore? 「もう夫はいないのに、どうして英語を勉強しているんでしょうか?」の渾身の問いに対する答えであった。

たとえ、この世から肉体がなくなってしまっても、その人との出会いが“今”を作っている。
無駄だったことなんてひとつもないのである。安子は稔との出会いを思い出す。



朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第30回 稔はいないのに安子はなぜ英語を学ぶのか、渾身の問いへの回答
写真提供/NHK

定一もまた、アメリカの音楽が好きで、でもアメリカに負けて息子まで奪われた(帰って来てない)ことに折り合いがついていない。その苦しみを進駐軍のステージで歌うことで晴らす。日本人が圧巻な歌唱でアメリカ人に注目される快挙である。

それを少年(柊木陽太)が瓶をトランペットのようにして愉快に聞いている。この少年を定一は邪険に扱っていたが、期せずして少年を救っているのである。少年役の子役の名前が、クリスマスにつきものの「柊」+ひなたの「陽」であることがピッタリ過ぎ。

あの日、「あなたとひなたの道を歩いていきたい」と追いかけた安子に稔が「安子ちゃん、メリークリスマス」とやさしく微笑む。この「メリークリスマス」は新録だそうで、洒落たプレゼントという感じがした。

この回想と妄想と定一の歌唱と拍手と歓声が混ざり合って、素敵なフィナーレだった(まだ終わりじゃないけれど。第6週のフィナーレという意味です)。

(木俣冬)

『カムカムエヴリバディ』をさらに楽しむために♪




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番組情報

連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ

2021年11月1日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

制作統括:堀之内礼二郎 櫻井賢
:藤本有紀
プロデューサー:葛西勇也 橋本果奈 齋藤明日香
演出:安達もじり 橋爪紳一朗 深川貴志 松岡一史
音楽:金子隆博
主演:上白石萌音 深津絵里 川栄李奈
語り:城田優
主題歌:AI「アルデバラン」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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