朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第15週「1976-1983」
第72回〈2月11日(金)放送 作:藤本有紀、演出:橋爪紳一朗〉

※本文にネタバレを含みます
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ひなた、おしんになる
“無愛想な男”(本郷奏多)が回転焼きを買いに来た。無愛想というか、いくら客でもこんなに上目線な客はいかがなものか。いやな客が帰ったあとに塩を撒く風習のようにひなた(川栄李奈)は「たあ!」とエア一刀両断する。【レビュー一覧】朝ドラ『カムカムエヴリバディ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜72回掲載中)
この無愛想な男とひなたの出会いは、安子(上白石萌音)と稔(松村北斗)との爽やかな出会いとはまったく違う。さらに言えば、るい(深津絵里)が錠一郎(オダギリジョー)を“宇宙人”と思ったことともちょっと違う。感じのいい稔、へんな錠一郎、失礼な青年と代を追うごとに店先での出会いの印象が悪くなるのは日本人の堕落であろうか。
教養や礼儀が失われていく。それもこれも日本が平均的に裕福になって牙を抜かれたからかもしれない。幼少時、英語が話せなかったひなただが、外国語がプリントされた服を当たり前に着ている。それも時代の変化であろう。
テレビでは連続テレビ小説『おしん』の主人公おしん(小林綾子)が貧しい農村に生まれ、奉公に出される場面を放送している。有名な筏で川を行く回(第7回)である。ちょうどおしんと桃太郎(野崎春 / 立はたつさき)は7歳で同じ年。どんなに貧しくても桃太郎を奉公に出すことはしないでおこうととぼけたことを言う錠一郎に、あんたに甲斐性がないからだよと多くの視聴者が思ったことであろう。
錠一郎とおしんの父(伊東四朗)はある意味同じである。
おしんほどの貧しさではないとはいえ、大月家も裕福というほどではない。たしかに一恵(三浦透子)と小夜子(新川優愛)と比べても自由に使えるお金は少なそうだ。高校3年生になって進路を考えたとき、お金のかかる進学ではなく就職したほうがいいのかもしれない。でも自分が何をしたいのか思いつかない。
ひなた「私は高校生で、桃は小学生。お父ちゃんとお母ちゃんとあの家で暮らしていたい」
一恵「そんなん『サザエさん』の世界にしかあらへんえ」
かつて安子がいつまでもこの家での生活が続くことを願ったように、ひなたも今の暮らしが続けばいいと思っている。それが彼女が幼少時から見ていたTVアニメ『サザエさん』に象徴されている。サザエさん一家はまったく年をとらず一年間、四季の行事を延々繰り返し続けている。
サザエさん一家は父と婿はサラリーマンとして働いて、サザエさんと母は専業主婦。平屋の一軒家はなかなか広く快適そうで、安定した生活が続き、いやなことはほとんど起こらない。それは1969年から放送されていまだに続いているのだからすごいことだ。
一恵と小夜子に家業の回転焼きを継げばいいではないかと提案されたひなたは、るいに頼んで焼かせてもらうがうまくできず落ち込んでしまう。落ち込んでまた映画村に行くと、そこでひなたは運命の出会いを――。
『おしん』の放送画面が出てくるだけでなくパロディまで入るのは画期的。今年亡くなった橋田壽賀子先生への最大限のリスペクトであろうか。亡くなったからできたというわけではないと思いたい。
(木俣冬)
【前回の朝ドラ】『おかえりモネ』の全レビューを見る
番組情報
連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』
2021年11月1日(月)~<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送
制作統括:堀之内礼二郎 櫻井賢
作:藤本有紀
プロデューサー:葛西勇也 橋本果奈 齋藤明日香
演出:安達もじり 橋爪紳一朗 深川貴志 松岡一史
音楽:金子隆博
主演:上白石萌音 深津絵里 川栄李奈
語り:城田優
主題歌:AI「アルデバラン」
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami