文芸誌『小説新潮』での連載をまとめたエッセイ集の第2弾『どうやら僕の日常生活はまちがっている』(新潮社)を上梓した、ハライチ岩井勇気。その観察眼と毒っ気で独自のポジションを築く異能の芸人が語る「お笑い」、そして仕事とはーー。
取材ラッシュ疲れの愚痴も溢れるド直球インタビューをここに掲載。(前後編の後編)

【写真】新作エッセイが大ヒット中のハライチ・岩井勇気

──岩井さんは、深夜バラエティ『ゴッドタン』での“腐り芸人”の顔もあれば、爽やかな朝の子ども向け番組『おはスタ』の“イワーイ”としての顔もあります。求められるキャラの違いに対して、ジレンマを感じたりすることもありますか?

岩井 ほぼないっすね。自分を偽ってキャラづけしたことはあんまりないし、ゴッドタンの岩井と、おはスタのイワーイに違いがあるとすれば、テンションの高さぐらい。言っていることが矛盾しないよう、自分としても一貫性を保つようにはしています。

そもそも俺、自分ではめちゃくちゃ“陽キャ”だと思ってるんで。ゴッドタンでは腐ってることも言いますけど、楽しいときは普通にテンションも上がるし、それがイワーイってだけで。おはスタでも、たまにボケ回答みたいなのを求められることもありますけど、自分が面白くないと思ったら言わなかったりもします。

──相手が子どもでも姿勢は変わらない。

岩井 子どもって「子どもとして扱われてんな」って意外と気づくじゃないですか。だからたとえば、澤部(佑)と俺で2時間子どもと一緒にいたら、たぶん俺のほうが彼らには好かれると思いますよ。まぁ、澤部の嫁には悪影響だと思われてるんで、あいつの子どもにはまったく会わせてもらえてないですけどね(笑)。


──ひと頃は「じゃないほう芸人」のような括られ方をされることも多かったと思いますが、仕事量なども含めて、ご自身としてはここ最近の状態をどうジャッジされていますか?

岩井 俺自身はあんまり忙しかったことないし、「忙しいでしょ?」って言われてもピンと来ないっていうか。お笑いとかアニメとか、好きなことをやれてるときは、仕事っていうより、遊びに行ってるみたいな感覚なんですよね。

「我慢してお金稼ぎしてます」みたいなストレスがかかると、仕事って感じもするんですけど、最近はそれもあんまりなくなってきて。まぁ、この本に関しては、プロモーションの取材だけで30本近くはやってるんで「やりすぎでしょ!」とは思ってますけど(笑)。

──取材は完全に「仕事」だと。

岩井 ですねぇ。笑顔を作って写真を撮られてるときがいちばん「仕事してるなぁ」って思います。だから言ってんですよ、新潮社さんには。「仕事なんだから、それなりの対価をくださいよ」って。だって、どっちかじゃないですか? 自分がやりたいことか、やりたくないけどそれなりのお金がもらえることか。前者なら、ギャラ100円でも全然いいんですけどね。

──(笑)。
となると、仮に仕事が減っても気持ちの浮き沈みはあまりしないほう?

岩井 焦ったりとかはあんまりしないっすね。澤部がバーッってテレビに出たときも何にもジタバタしなかったんですよ。みんな、そういうときってわりとジタバタするじゃないですか。まぁ、しなさすぎるのもよくないのかもしれないですけど、俺としては「この状況で時間あんのラッキー」ぐらいに思ってて。

で、結局、サブカル系の仕事が増えて、気がついたら、アニメなんかの芸人シェアだとトップのほうになれていた。自分でも思いましたもんね。「無駄にしないよねぇ」って(笑)。

──そこで首尾一貫してきたから、コロナ禍でも「ジタバタ」せずに済んだわけですね。

岩井 実際そうなりましたけど、みんなが一斉に休みになったほうが、出し抜けるなとは思ってましたね。「これは絶対に俺が有意義に使えるやつだ」って。仮に芸人の仕事ができないってなっても、どうせなんかで稼いでいけると思ってますし、ありえないけど、もし何かの要因で「もう芸人はやっちゃいけません」ってなっても、他で成功するくらいの要領のよさは持ってるつもり。なので、あのときは「何にも見つからないでしょうけど、どうぞ筋トレして何かやってる気になって不安を紛らわせておいてください」って感じで見てました(笑)。


──ちなみに、著書『どうやら僕の日常生活はまちがっている』のプロモーション取材は「仕事」ということですが、エッセイを書くということに関しては?

岩井 嫌いじゃない、って感じですかね。連載を始めたそもそものきっかけも、単純に文章が上手くなりたいって、ただそれだけ。俺みたいなタイプがあんまり文章上手くないと、なんかキモいじゃないですか。「こいつ、この感じで拙いんかい!」みたいなね(笑)。

それと、ネットとかだとプロでもないようなやつが書いた記事もいっぱいあるじゃないですか。書いてくれってこっちから頼んでもないやつにヘンなふうに書かれたり、間違ったニュアンスで伝えられたり、こっちの思いとは違う形で世に出される。そういうストレスに比べたら、自分で書く労力のほうがだいぶマシかな、と。なんらかの声明が必要なときは、自己責任で自分で文章にして出したい。自分で書くのには、そういう理由もありますね。

──そう聞くと、こちらもプレッシャーを感じずにはいられないわけですが(苦笑)。

岩井 こうして取材を受けた以上は、どうやって書いてもらってもいいんです。見る側、読む側の受け取り方はまったくの自由。
なんで、俺の活動をどう受け取って、どう楽しんでもらってもそれは構わないと思ってます。ただ、巷には「おまえの解釈で広めんなよ」って思っちゃうことも多々あるってだけなので。

──発言の一部を切りとられて炎上、なんてこともよく起こりがちですしね。

岩井 見ていて滑稽ですけどね。憤慨してる人、怒ってる人を見ると、素人みたいなライターに怒らされて恥ずかしくないのかなって思っちゃいます。「あなた、怒らされてますよ? そのへんのヘンなやつに」って(笑)。

世の中を良くしようとか、世界を幸せにしようみたいな、そんなことのために俺はお笑いをやってないし、自分の知らない人が不幸になろうが正直知ったこっちゃないんですけど、ああいうのを見てると「大丈夫?」ってちょっと心配にはなりますよ。「おまえ怒らせんのって、そんな簡単なの?」ってね。

【前編はこちら】ハライチ岩井が語るコロナ禍の芸人「YouTubeをバカにしてたやつほど、今熱心にやってる」

(取材・文/鈴木長月)

▽岩井勇気
1986年、埼玉県生まれ。幼稚園からの幼なじみだった澤部佑と、お笑いコンビ『ハライチ』を結成、2006年にデビュー。09年の第9回 M-1グランプリで決勝進出を果たし、一躍人気者となる。近年は『ゴッドタン』(テレビ東京)の“腐り芸人セラピー”や“マジ歌選手権”でみせる毒舌ぶりで脚光をあび、エッセイの執筆の他、ゲームの原作、プロデュースや漫画原作など、サブカル分野でも精力的に活躍中。
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