今や日本の音楽シーンは、ストリーミングサービス全盛の時代。今年5月に突如Spotifyが発表した、「Gacha Pop」という名の新しいプレイリストが日本の音楽ファンの間で話題となっている。
プレイリストにはYOASOBIや藤井風といった日本のヒットメーカーの楽曲がズラリと並んでいるが、我々の知る「J-Pop」と一体何が違うのだろうか。今回はその秘密を探っていこう。

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「Gacha Pop」の実態を語る前に、まず注目したいのがストリーミングサービスにおけるプレイリストの重要性だ。

先述した通り、今や多くの人がストリーミングで流れてくる音楽を聴いている時代。そのため楽曲のヒットにはプラットフォームのレコメンドが必要不可欠となり、Spotifyが発信する公式プレイリスト「Today’s Top Hits」に選ばれることは、現代においてヒットソングの絶対条件とも言われている。

つまり公式のプレイリストは単なる曲の寄せ集めという意味を超え、一種の巨大マーケティングと言えるものになっているのだ。

そして近年、YOASOBIや藤井風、Ado、米津玄師といった日本のアーティストは、国内外問わずストリーミングサービス上で大きく再生数を伸ばしている。

例えば昨年の「第73回NHK紅白歌合戦」でも披露された藤井風の『死ぬのがいいわ』は、Spotifyの様々なプレイリストに取り上げられ、2022年に世界中で大ヒットした楽曲だ。

アジアとヨーロッパを含む23の国と地域でバイラルチャート1位を獲得し、月間リスナー数1,000万人を突破するなど世界的に注目を集めている。

こうした中、彼らのような新世代の日本のミュージシャンを「J-Pop」というローカルなジャンルで捉えるのは極めて難しい。海外市場に向けた新たなジャンルが必要なのではないかと、日本の音楽関係者の間でも度々議論されていた。

そこに現れたのが「Gacha Pop」というSpotifyの公式プレイリストだったのだ。


カバーアートにAdoを起用し、プレイリストの説明には「What pops out!? Roll the gacha and find your Neo J-Pop treasure. (何が出るかな? ガチャを回して新しいJ-Popの宝を見つけよう)」とガチャガチャのイメージを想起させる文が添えられている。今までのJ-Pop観とは一線を画すように、イメージはポップでどこか子供っぽい。

また選ばれたアーティストもYOASOBIや藤井風、きゃりーぱみゅぱみゅ、カネコアヤノ、星野源など、海外で話題になったJ-Popの人気曲が「何でもあり」の様子で集まっている。

ロックからテクノまで様々なジャンルのアーティストがピックされた「Gacha Pop」の特徴を一概に語るのは難しいが、大まかに言えば「非洋楽志向」であることが挙げられるだろう。

そもそもJ-Popは洋楽の影響を受けたメロディ・コード進行・リズムを持つ音楽を、昭和歌謡から区別するために作られた「洋楽志向」的なジャンルだった。

それに対して「Gacha Pop」はフル英語詞の曲がほとんどなく、サウンドも高音域の音数が多い、音節が多い、コード進行が複雑……など、洋楽とは一線を画した特徴のものが多い印象。こうしたサウンド感を「Gacha Pop」とブランディングすることで、グローバル市場に日本の音楽を広めていく入り口にしようという、プラットフォーム側の意図があるのかもしれない。

ちなみに日本の音楽リスナーの間では、「Gacha Pop」のプレイリストに対する批判の声も見受けられる。とはいえ議論の的になっている時点で、数ある目的の1つは達成しているといった見方もできるのではないだろうか。

一方で海外メディアからの反応を調査すると、「Gacha Pop」について言及している記事はほとんど見当たらない。今後、プラットフォームが日本のミュージシャンを海外向けにどう展開させていくのか注視していきたいところだ。

新ジャンルが今後の音楽シーンにどのような影響を及ぼすかは定かでないものの、新しいダイナミズムを形成することは間違いないだろう。
「Gacha Pop」がその新たな波となり、日本の音楽が次の世代へと進化していくことを期待したい。

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