先日、「TOKYO IDOL FESTIVAL 2019」の中でBerryz工房をフィーチャーしたステージが開催されることが発表された。2004年にハロー!プロジェクト・キッズの中から選抜された8人で結成され、2015年に無期限活動停止するまで、隠しきれない強烈な個性で独自の路線をひた走り、異彩を放ち続けていたBerryz工房。
8月2日(金)のTIF“スッペシャルステージ”の予習も兼ねて、今なお愛され続けるBerryz工房の歴史を名曲とともに振り返る。
Berryz工房は、小学生を対象にしたオーディションで合格した、ハロー!プロジェクト・キッズ15名の中から選抜されたグループだ。結成が発表されたのは2004年1月、メンバーは清水佐紀嗣永桃子徳永千奈美須藤茉麻夏焼雅、石村舞波、熊井友理奈菅谷梨沙子の8名(ここで選抜されなかった7名は、のちに℃-uteとなった)。そして同年3月3日には、1stシングル「あなたなしでは生きてゆけない」でCDデビュー。無邪気な女の子たちがクールに「一度や二度 キッスしたくらいで 浮かれている自分が怖い」「一生あなたの事 愛したい」と歌うギャップに、ファンは大きな衝撃を受けた。15年経った今も色褪せない、プロデューサーつんく♂のコーラスも含め、印象深いデビュー曲だ。

そこから3ヶ月連続でシングルをリリース、7月には1stアルバム『1st 超ベリーズ』を発売し、2004年だけで6枚のCDを出している。そして2005年3月には、初めてオリコンシングルランキングで10位以内にランクインした6thシングル「スッぺシャル ジェネレ~ション」を発売。与えられた曲とともに、ただただ必死に前へ進む彼女たち。しかしながらステージの上では、名だたる先輩たちにすら「余所見なんて 許さないわよ」と言わんばかりの堂々としたパフォーマンスを見せていた。

デビューから1年のあいだだけでも、長く愛される素晴らしい楽曲がたくさん生まれており、実際にこの頃の楽曲の多くは、彼女たちが曲中で描かれる少女たちの年齢を追い越してもずっと、歌われていた。個性豊かな楽曲の中には思いっきり背伸びをしたものもあれば、憧れの恋を歌ったり、そのときどきで等身大の彼女たちを描いた曲もある。
例えば8thシングル「21時までのシンデレラ」は、彼女たちが若いが故に生まれたもの。というのも、18歳になるまでは深夜の芸能活動に規制がある。幼いメンバーたちが“アイドルでいられる時間”を、“魔法が解けてしまう”シンデレラに置き換えて、つんく♂が曲にしたのではないかと言われているのだ。そしてこの曲は、最年少の菅谷が18歳になってからしばらく、ライブで披露されることはなかった。そしてその封印が解けたのは、2015年3月3日、Berryz工房ラストライブの日だった。

そしてこの「21時までのシンデレラ」は、石村にとって最後のシングルとなる。2005年10月に彼女が卒業してから無期限活動休止のそのときまで、Berryz工房は形を変えることはなかった。その後もコンスタントにリリースやライブツアーを行い、2007年には当時の最年少記録でさいたまスーパーアリーナでの単独コンサートを開催。着実に経験を積み、若いからだけでなく、実力も注目されるようになる。2007年3月に発売された13thシングル「VERY BEAUTY」は、当時の彼女たちの歌唱力を堪能できる1曲だ。特に印象的なのは、グループ随一の美貌を持つ菅谷が「また 鏡を見つめてる ああ どうしてこんな顔よ」と歌うこと。美しい彼女でさえも普通の女の子と同じ悩みを持つのだと気づかされ、そしてそれに共感したハロー!プロジェクトの後輩たちが今も歌い継いでいる名曲だ。


7人はアイドルとして、女性として着実に成長し、10代とは思えない実力と貫禄を身につけていく。しかし、当時のハロー!プロジェクトは全盛期ほどの勢いはなく、ライブの規模が大きくなることも、リリースする曲が大きなヒットを飛ばすこともなかった。しかし、Berryz工房という名前が新たな層に知られるきっかけとなった出来事がある。それはアニメ『イナズマイレブン』のエンディングテーマに彼女たちの楽曲が使われたことだ。2009年6月発売の20thシングル「青春バスガイド」から24thシングル「シャイニング パワー」まで1年半ほど、アニメとともに彼女たちの楽曲が流れ続けた。『イナズマイレブン』はゲームを原作としたサッカー少年たちを描いた作品で、当時の少年たちにとても人気があった。たとえBerryz工房というグループを認識していなくとも、実は彼女たちの曲を聞いていたという人も多いだろう。

2009年以降は海外でのライブが増え、韓国やタイ、アメリカなどでライブやイベントに出演。それが縁になったわけではないと思うが、2012年リリースの29thシングル「cha cha SING」では、タイの大スターが歌う楽曲をカバーしている。ファンとともに歌って踊れる、彼女たちの代表曲ともいえる1曲だ。思えば彼女たちは若すぎるデビューが故に、その成長や変化はすべて見守られてきた。その中でBerryz工房はいわゆる“アイドル”のイメージに屈せず、各々が自分らしさを貫くための試行錯誤をしていた。
それがひとつのグループとしてまとまり、Berryz工房としてやりたいことやできることが見えてきたのが、この頃じゃないかと思う。「踊る阿呆だけど ただのバカじゃない」、むしろ数多くのアイドルが並び立つこの時代に必要な、アイドルとしてのとてつもない強さを持ったグループに、彼女たちはなっていた。

2012年以降、「WANT!」や「アジアン セレブレイション」「ROCKエロティック」、「1億3千万総ダイエット王国」など、彼女たちのカッコよさとユニークさを生かした楽曲が次々と生まれる。特にその魅力を感じられる1曲として挙げたいのが、「ゴールデン チャイナタウン」だ。派手さがあるわけでもなく、真似しやすい振りがあるわけでもないのだが、この曲を平然と、しかしとてつもなくカッコよく歌えるのが彼女たちのすごさだと思う。「ダイヤモンドのベッドで眠れ 時は勝者の味方」なんて歌詞が似合うアイドルはなかなかいない。他の追随を許さない、孤高ながらユーモラスな道を歩んだ彼女たち。それはアイドルファンだけでなく、同世代の女子たちにも響き、少しずつ女性ファンも増やしていった。

アイドルとしても、グループの形としてもひとつの完成形に近づいていた2014年8月。彼女たちから、翌年の春をもって無期限の活動停止に入ることが発表される。この発表の少し前、「普通、アイドル10年やってらんないでしょ!?」という曲がリリースされている。「普通、アイドル10年やってらんないでしょ!?」、でも私たちはまだまだ続けていくよ、という思いがあるのかと思っていたが、その活動をもっと見たいと望まれるタイミングで、ひとまず幕を引くことを決めた彼女たち。
「ママになった友達だっているのが 現実」と華々しいだけじゃない現実を描いたこの曲は、発表と前と後では聞こえ方が大きく変わったのだった。

そして2015年3月3日、Berryz工房は武道館でラストライブを行った。最後の曲を涙で歌えなくなる彼女たちを、これまで7人に支えられてきたファンが、歌声で優しく包み込んだ。振り返るとBerryz工房のファンは、彼女たちに鍛え上げられてきたように思う。ステージの上にいる彼女たちはとにかく強かった。まだ10代、20代の女の子なのに、この人たちに着いていけば間違いないと思わせてくれるのだ。そして彼女たちは、自分たちが面白いと思うものや好きなものを、ステージの演出や衣装などの形にして、見ている側に伝える実力があった。“大人たちに作られたもの”だったアイドルが、“それぞれの個性を発揮する”ことが面白さや人気に繋がるようになったことは、Berryz工房の功績が少なからずあると思う。

無期限活動停止後、今もステージに立つ人、芸能界を引退した人、母になった人……とそれぞれの道を歩む7人。ステージでの彼女たちの信念は、ハロー!プロジェクトの後輩たちへ着実に受け継がれている。「TOKYO IDOL FESTIVAL 2019」での“スッペシャルステージ”が果たしてどのような内容になるか分からないが、7人のタフな精神は楽曲を通して、今を頑張るアイドルたちに伝わるだろう。そしてそれが、アイドルとしての新たな自分を見つけるきっかけや、大きなパワーになることもあるかもしれない。
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