吉岡里帆と永山瑛太が出演するタイムパトロールラブコメディー『時をかけるな、恋人たち』(カンテレ・フジテレビ系)が10月10日(火)よりスタートする。吉岡里帆が主人公・常盤廻(ときわ・めぐ)を、その恋人で未来からやってきたタイムパトロール隊員・井浦翔(いうら・しょう)を永山瑛太が演じる。


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公式サイトで廻が「“辻褄合わせ”が大得意」と紹介されている通り、“辻褄合わせ”が本ドラマの一つの大きなテーマとなるのは間違いないだろう。脚本を務めるのは、数々の時間SF・伏線回収の名作を手掛けてきたヨーロッパ企画の上田誠。今年公開の映画『リバー、流れないでよ』では、「2分間を一生繰り返す」という脚本が話題を呼んだ(しかも繰り返される2分間はノーカット撮影)。『時をかけるな、恋人たち』も1話から様々な“仕掛け”が施されたドラマになるはずで、どの回も見逃せない。

今回はドラマを120%味わうために、上田誠が手掛けた過去作から彼の脚本の魅力を探りたい。

最初に紹介したいのは2005年に公開された映画『サマータイムマシン・ブルース』(元々は上田誠の戯曲が原作で、映画の脚本も務めた)。
大学のSF研究会に所属する学生たちがタイムマシンで「今日」から「昨日」に戻ったことで、次々と起こる騒動を軽妙に描いた青春SFコメディ映画だ。主人公の甲本を永山瑛太が演じ、ヒロインの春華に上野樹里ムロツヨシ真木よう子などが脇を固めた。

見事に散りばめられた伏線とそれを回収したときのカタルシスが秀逸なのはもちろんだが、今回指摘したいのは、この作品の真骨頂とも言うべき伏線回収の過程で感じさせてくれるノスタルジー。

多くの時間SF作品の場合、大切な人との約束を果たすためや世界を滅亡から救うために時空を超えるが、SF研究会の面々が変えたい過去は、大学生活の本当に何気ない、ありふれた真夏1日。(以下、映画のネタバレを含みます)

例えば、「昨日」で部員たちが野球を終えて銭湯に向かうシーンで、クーラーを消し忘れたため1人が部室に戻りスイッチをオフにするが、その直前、スクリーンにはリモコンに触れる謎の手が映し出される。話の中盤に判明するのだが、その時に使えたリモコンは、壊れる前に戻って甲本たちが取り戻したからこそ置けたリモコンであったのだ。
そう、その手の正体は「今日」の彼らだったのだ。

また、学生時代の甘酸っぱい恋愛の一シーンにも伏線が。冒頭、「昨日」で春華をデートに誘った甲本は「彼女に悪いから」と断られる。「彼女なんていないのに、なぜ?」と会話に違和感を残すが、これも後半で回収されることになる。

甲本はタイムスリップする中で辻褄を合わせるために「彼女がいる」と嘘をつかざるを得ない場面があり、その場に居合わせた春華は甲本には彼女がいるのだと勘違いしてしまう。そう、冒頭でデートを断ったのは「今日」から来た未来の春華だったのだ。


くだらない日常だけど、どこを切り取っても戻りたくなる……。『サマータイムマシン・ブルース』で描かれる伏線回収はそんな日常の一コマ。歳を重ねた大人こそ、その過程にノスタルジーを強く感じることだろう。「昨日」と「今日」を行き来するタイムトラベル脚本で上田誠は、どんなに些細な1日だって全力で生きるに値することを教えてくれるのだ。

『サマータイムマシン・ブルース』のスタッフが再集結した2009年の映画『曲がれ!スプーン』(こちらも上田誠の戯曲が原作)も見逃せない。こちらは伏線回収の妙だけではなく、上田脚本の“温かさ”も感じさせてくれる作品となった

長澤まさみが演じる主人公・桜井米は、超常現象番組『あすなろサイキック』のAD。
幼い頃から超能力の存在を信じているが、番組の募集に来るのはテレビで注目を浴びたいだけの“なんちゃって超能力者”ばかり。そんな矢先のクリスマス、米は偶然にも本物のエスパーが密かに集まる場を訪れることになる。(以下、映画のネタバレを含みます)

本物のエスパーは注目を浴びると被害を受けるため、番組ADの彼女に能力をバラすわけにはいかない。しかし、その集会に居合わせた”なんちゃって超能力者”が、純粋にエスパーを信じてきた米の変わらぬ子供心を裏切ってしまう。そこで、落胆する米を救うと決心したエスパーたちが、自分たちの能力であることを上手く隠しつつ、サンタクロースを空に飛ばして彼女に見せてあげる、というストーリーだ。

大人になると、多くの人が子供時代に抱いていた夢や幻想を信じるのをやめてしまうし、人と変わっていれば除け者扱いされることもある。
そんな大人社会を揶揄しつつ、上田誠がスポットライトを当てたのは「大人になったからこそ、大人の対応ができる大人のかっこよさ」だ。それをコミカルに描くからこそ、誰もがかつて持っていた子供心をくすぐられつつ、平和な解決策を提示してくれる脚本に救われた人も多いだろう。

この世にはまだない面白いものを作るために、偏ったことをなるべく表現するよう心がけているという上田誠。『時をかけるな、恋人たち』ではどんなカタルシスとどんなメッセージを見せてくれるのか、今から楽しみでならない。

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