世界中で敬愛される漫画界の巨匠・手塚治虫の代表作でありライフワークでもあった『火の鳥』。その望郷編が『火の鳥 エデンの花』として初のアニメーション映画化され、11月3日に劇場公開される。
制作期間7年という年月をかけてSTUDIO4℃が完成させた、この壮大な愛と冒険のスぺクタル巨編でアニメ声優に初挑戦した窪塚洋介。本作にかける思いや、手塚作品について、そして本作品のテーマでもある「愛」を語ってもらった。

【写真】『火の鳥』でアニメ声優初挑戦する窪塚洋介の撮り下ろしカット【6点】

『火の鳥 エデンの花』は、わけあって地球から逃亡してきたロミ(声:宮沢りえ)と恋人のジョージ(声:窪塚洋介)が、荒涼たる辺境惑星エデンに降り立つところから始まる。新天地に辿り着いた未開の地で苛酷な生活を送りながらも、互いを慈しみ労わり合って暮らすふたり。ところがある日、不慮の事故でジョージは命を落としてしまう。残されたロミが一人息子のカインのために選んだ道は――。


「声優をやりたいなって思ってたんですよ。まさか最初の仕事が手塚先生の作品で、STUDIO4℃さんの制作のものとは思ってなかったんで『俺、持ってんな』ってちょっと思いました」と感慨深く漏らす窪塚が、手塚治虫作品に初めて出会ったのは小学校高学年の頃。友人の家にあった『火の鳥』だったという。

「今って我々もまぁまぁ危機感を持ってるじゃないですか。地球、大丈夫かなって。それを、バブルもまだ始まってないような時代に、警鐘を鳴らさなきゃって描きだしたことが、もう凄いですよね。
あの壮大なテーマ、命とか宇宙とか人とかの真理と神秘を、漫画っていうエンターテインメントの手段でメッセージしてくれて。醜い鼻を持って何世代も生きるとか、時に残酷な表現も込みで、子ども心にトラウマになるようなエピソードを添えて届けてくれて、手塚先生は本当に偉大な人だと思います」

自らが声をあてたジョージというキャラクターに「若気の至り」というコメントを寄せた窪塚。若い頃の自分に重なり共感する部分があるという。

「かつては、(若気の至りを)まき散らしてましたよね。『世界を良くしたい』って思いに、嘘はなかったと思うんだけど、今思うとやっぱりポーズの部分もすごくあったなって思う。例えばボブ・マーリーやジョン・レノン、先人たちが世界を良くしようとしたことへの憧れやかっこよさを意識してた。
彼らを真似して、中身がないのが一番ダサいってわかってるから、自分の言葉でしゃべろうとはしていたけど、その行為自体が若気の至りだったと思う。今はもっと身近なところで、ひとりひとりがやらないと世界はなかなか変わらないって思っていて。自宅でコンポストを始めたりしたんですけど、そういう行為の積み重ね、すごいさりげないことや他愛のないことでも、70億人が出来た時には変わるよねって」

ほどよい具合に肩の力が抜けた様子で、自らが演じたジョージというキャラクターについて語る窪塚だが、一方で運命に振り回されてもなお強く生きるロミには、妻を重ねる。

「妻は俺に対して、いろんな役をやってくれてるなって。妻であり、友達でもあり、母であり。母っていうのは、子供の母っていうこともあるし、自分のかあちゃんみたいなところもある。
迷惑もかけてるし、大変無様な姿も見せてしまってますが、とても誇れる存在です」

妻には「本当に感謝してる」という窪塚。だからこそ、敬意を持って暮らすことを大切にしている。

「『ありがとう』と『アイラブユー』をすごく言うようにしているんです。自然と口から出るようにはなっているけど。これは妻だけじゃなくて娘にもそう。最近は(息子の)愛流には言ってませんけど。
お互いにちょっとこっ恥ずかしいし、今は背丈も俺よりでっかくなっちゃって(笑)。でも、言葉にすることは大事だと思うし、言葉にするためには、心で本当にそう思ってないと、口先だけで言ってるみたいになるのでよくないと思う」

もうひとつ心掛けているのは、“バーカウンターの法則”だ。

「人と向き合うとき、心と心を、バーカウンターで座っているように隣り合うようにしていますね。向き合わないで、隣り合う。これは家族にもそうだし、誰にでもそう。仲間やスタッフともそうだし、世の中とも。
対面で向き合うとお互いの嫌なところや見なくていいところまで見えて、本質じゃないところに気を取られたりする。『自分と向かいあえ』っていいことのように言われがちだけど、だったら『自分に寄り添う』のほうが芯を食ってるんじゃないかなって。例えば夫婦で、子どもにとって何がベストかという話をするとき、向かい合うと『お前のそこが……』とか、子どもとは関係のない話になりがち。

子どもが本質なんだから、夫婦は隣り合ったほうがいいし、世の中をより良い世界にしたい時に『向かい合って角突き合わせて話しましょうよ』は違う。横並びになるというのは、『そういう意見もあるんだ、じゃあ、それとこれとミックスして』ってことが出来る立ち位置。肩も組めるし、ケツも叩けるし、突っ込みも入れられる」

隣り合うこと、寄り添うこと――窪塚の家族愛が伝わってくるが、同じ役者の道へと進み始めた長男の窪塚愛流に対しては、どんな思いを抱いているのか。

「嬉しいのと、不安なのとありますけどね。でも、嬉しいかな。僕はあいつに、勉強しろってあんまり言ったことはないんですけど、本だけは読めって言ってきたんですよ。だけど、彼はそれをしてこなかったんです。だから漫画すら読めない。『お父さん、このコマの次ってこっちなの?』とか言ってくるんですよ。野球のルールも未だわかってなくって、大丈夫か?と思っているんだけど。でも、彼の人生だし、自業自得で自分に戻ってくるからいいんじゃないって考えていたんだけど、最近、ちょっと彼がへこむことがあって、タイミングが来たと思って、がっつり話したんですよ。お前、中身がなかったら30歳まで持たないぞ、と」

生まれ持っての輝かしい資質と、窪塚洋介の息子という恵まれた出自。しかし、芸能界の厳しさを知っている窪塚だからこそ、息子に伝えておきたいことがあったという。

「みんなの声が『愛流くん、すごいじゃん、かっこいいじゃん』ばかりじゃねぇよと。今、お前がすげぇ切羽詰まってるのはなんでかわかるか?それは本を読まなかったからだと伝えました。今からでも読めば30歳までには取り戻せるから、今日から心を入れ替えて本を読め。小説でもノンフィクションでも漫画でもいいから、自分が読みたいものを読めと。文字は、一文字一文字が経験値になるから、全部読み終えたらレベルがあがって、大きな出来事を成せたりするようになる。RPGでいったらボスを倒せるようになる。文字にいっぱい触れて強くなれよと」

幼い頃に漫画で触れた「火の鳥」のキャラクターを、大人になって演じることになった、そんな巡りあわせの窪塚ゆえの説得力だ。最後に映画公開に向けてのコメントをもらった。

「『火の鳥』には、今我々が聞くべきメッセージが込められています。心に刺さる作品だと思うので、ぜひ劇場で観て、今を生きる力に変えてもらえたら最高です」

取材・文/大泉りか

『火の鳥 エデンの花』
11月3日(祝・金)新宿バルト9他 全国ロードショ
配給・宣伝:ハピネットファントム・スタジオ
(C)Beyond C.

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