【関連写真】熊崎晴香、昨年発売した1st写真集カット【3点】
数か月前。ある日の劇場公演終わりのこと。熊崎晴香が私のもとへ近づいてきた。
「お疲れ様です。今日の公演どうでしたか?」
熊崎は挨拶を欠かさない。それに、公演の出来を必ずと言っていいほど聞いてくる。自分たちがどう見えているのか、気になるのだろう。
他愛ない話を数分した後、急にこんなことを言い出した。
「私ってどうすればセンターになれますかね?」
これには言葉を窮した。
かわいければ? ダンスが上手ければ? 人気があれば? グループのセンターとはタイミング、グループの方針、ファンの支持、知名度、メディア露出、その曲のイメージに合っているかどうかなど、あらゆる角度からスタッフが検証して、結論を出すものだ。
熊崎は非の打ち所がないアイドルだ。性格は真面目。パフォーマンスはピカイチでパワフル。踊りながら歌う体力もある。昨年には1st写真集も刊行している。さ行の発音に弱く、噛み癖がある。それがアイドルとして必要なチャームになっている。
グループ内でも人気は上位。
SKE48は10月2日に発売される33rdシングル『告白心拍数』のセンターに熊崎晴香を指名した。スタッフからセンターに立つことを知らされると、帰宅して家族と大喜びした。
熊崎「もうお祭り騒ぎです。リビングで輪になって、ぐるぐる回りながらわっしょいわっしょいって(笑)」
熊崎はSKE48の6期生である。
熊崎「大阪でツアーがあった日、同期で食事に行ったんです。その場でセンターになったことを伝えたら、ずっと応援してくれていた(井田)玲音名は泣きながらお好み焼きを食べていました(笑)」
そもそもなぜ熊崎はセンターになりたいと思うのだろう。
熊崎「研究生だったとき、母が劇場公演を観に来てくれました。家に帰って感想を聞いたら、『頑張っていたのはわかるけど、見えなかった』と言われました。ショックでした。当時の私は一番後ろで踊っていたんです」
熊崎の定位置は3列目の真ん中だった。3列目とは一番後列を意味する。それは踊るときも、集合写真を撮影するときも変わらなかった。
熊崎「端っこのほうがまだマシだと思いました。3列目の真ん中って前の人と重なってしまうから、ファンの方に見てもらえないんです。
その後、コンサートで1曲だけセンターで歌う機会があった。
熊崎「これが気持ちよかったんです。前にはファンの方しかいないんです。ここにいたいって思うじゃないですか。そうだ、私って目立ちたがり屋だったなって、小中学校時代を思い出しました」
それは心の奥にしまっていた願望だった。小学校ではソフトボールのピッチャーに立候補した。背番号1をつけたかったからだ。学芸会では主役に立候補した。中学校の合唱コンクールでは全校の指揮者だった。すべては目立ちたかったからだ。
熊崎「学芸会の演技が褒められたのをきっかけにして、これはいいかもしれないと思い、お芝居に興味を持ち、ドラマ『中学生日記』に出たこともあります」
NHK名古屋放送局が制作をしていた『中学生日記』。
その『中学生日記』への出演が終わっても、熊崎は芸能界入りを夢見ていた。中3に進級してしばらくすると、友人から誘われて、SKE48劇場へ行くことになった。そこではなぜかファンがSKE48に応募するためのオーディション用紙を配っていた。
熊崎「私たちが若いから、そのファンの方もノリで渡したんじゃないですかね。その日はただ受け取っただけでしたけど、後日、母が『この前もらったやつ、受けてみたら?』と提案してきて。私も芸能界に入りたかったから、受けてみることにして。そしたら合格したんです」
目立ちたがり屋、『中学生日記』、オーディション。すべてが直線で結びついて、熊崎はSKE48の制服衣装に袖を通すことになった。2012年の秋だった。
当時のSKE48は、1期生・松井珠理奈と松井玲奈による「W松井」の時代だった。人気も知名度も圧倒的だった。
2015年の夏に玲奈が卒業してからは珠理奈による1強時代が始まった。そんな中、私もセンターに立ちたいとぶち上げたのが、5期生の古畑奈和と6期生の熊崎だった。
熊崎「ファンの方を前にして初めて宣言したのは、私の生誕祭の日でした。2016年だったかな。何の功績も挙げていない私がそんな大それたことを言うのに緊張しました。でも、『センターになりたいです!』と思い切って宣言できたのは、若さだったと思います。昔の自分に感謝しています。そこで宣言できたから、ずっと目標に向かって走ることができたんです」
正確に言えば、配信でセンター宣言をしたことは二度あった。しかし、ファンを目の前にして言葉にするのとは、緊張の度合いが違う。
ところが、その宣言から長い長い道のりが始まることを当時の熊崎はまだ知らなかった。
【後編はこちら】“諦めの悪いアイドル”SKE48熊崎晴香が苦節12年で出した初センターという答え「私には時間がない」