【写真】ももクロの「お弁当お持ち帰り事件」をモチーフにした『ももクロの弁当と平和 』表紙
新型コロナウイルス感染拡大によって、春先からイベントやライブの開催がどんどん難しくなっていった2020年。4月に『緊急事態宣言』が発令されると、完全にエンターテインメント業界はストップせざるを得なくなってしまったのだが、それに先立って、いち早く予定されていたイベントの中止・延期を発表したのが、ももいろクローバーZだった。
毎年、春・夏・クリスマスに大きなライブを開催してきた、ももクロ。
春は地方自治体とタッグを組んでのコンサート(今年は福島県で開催予定だった)、夏はドームクラスの大会場での大規模ライブ(今年は西武ドーム2DAYSがアナウンスされていた)、そしてクリスマスもさいたまスーパーアリーナなどの大箱で開催。これが活動の基盤となっていた。
これに加えて、メンバーの佐々木彩夏や高城れにのソロコンサートも毎年恒例となっていたが、こちらも開催が見送られた。すでにチケットを発売済みだった高城れにのソロコンサートは一旦、6月に延期されることが発表されたが、のちに2021年への再延期が決定。春の段階では、ここまでコロナ禍が長引くとは予想されておらず、3月から4月にライブを予定していたアーティストの多くがとりあえず6月に延期、という方針をとっていた。
運営サイドはあくまでも「安心・安全」を確保したうえでのライブ開催を大前提とし、6月には安全対策の指針としてMSRS(ももクロ新リアルライブ世界秩序)なるガイドラインを医療関係者の監修のもとで公開した。
ライブを開催するために、アーティストは、スタッフは、そして観客はどこまで、なにを対策すべきなのか? ということを明文化したもので、本当に細かいところまでしっかりと明記されている(状況に応じて、常に内容はアップデート中)。
こういう明確な指針が示されたことで、ファンはライブが開催されなくても納得する。
ここまで安全面を考えた上での延期や中止の決定であり、メンバーの身に危険が及ぶようであれば、ライブの開催は求めない、という考え方だ。
ずっとライブを最大の武器として活動してきたももクロだけに、その武器を封じられてしまったら大ダメージを被ると考える方も多いかもしれないが、そういった部分ではファンを含めて、びっくりするぐらい冷静に事態は推移していった。
その裏にはライブの延期を発表するときに、必ず延期される日時と会場もセットでアナウンスされたことも大きい。これを「詳細は後日発表」とやっていたら、ファンはきっとザワザワしていただろう。ハッキリと「〇月〇日に延期」と発表することで、とりあえず焦ることはなくなるし、こんな状況下だから、たとえ再延期になっても文句を言う人は少ないだろう。
もっといえば2019年のクリスマスに百田夏菜子が『新国立競技場でライブをしたい』とファンの前で宣言していることも大きかった。
このとき「いつまでに」と期間を区切っていれば話は別だが、その部分には言及していないので、2019年の時点で新国立競技場はメンバーやファンのあいだで「2020年以降の目的地」として共通認識された。先々の約束ができているから、ファンも落ち着いていることができる。もちろん、みんなライブが見たくて見たくてたまらない気持ちになっていることはわかるのだが、ここで強行突破して、未来の約束が叶わなくなってしまったら元も子もない。
ももいろクローバーZは、2020年の夏、安全対策の指針として医療関係者の監修のもとで公開したMSRS(ももクロ新リアルライブ世界秩序)なるガイドラインに則って、西武ドームでのライブも観客数を5000~7000人に絞って開催することを検討していたが、7月に首都圏での感染者数が再拡大しはじめたことを受けて、中止することを決めた。
ここから、ももクロは配信ライブへと大きく舵を切っていく。
すでに6月25日に配信での「無観客ライブ」を開催してはいたが、あくまでも通常のライブを中継するような形式だった。
これが7月に行われた佐々木彩夏のソロイベント『A-Channel』から、配信に特化した「無観客だからこそできる演出」へと方向転換していく。
『A-Channel』は「ライブ中継」という概念を一旦、捨てるところからはじまった。最初から無観客とわかっているのであれば、客席を作らなくてもいい。だったら、会場となったライブハウスのフロアをメインステージにしてしまえ、という逆転の発想だ。
さらにそのメインステージすらも数曲しか使わない。
最初に何曲が歌ったあと、佐々木彩夏は会場内を巡回しながらパフォーマンスする。会場の廊下や楽屋、さらにはプールにまでセットを組んでおき、それらをどんどん移動しながら歌っていく。一部、映像を合成してお届けする楽曲だけは事前に収録したが(それでも本番直前の撮って出しである)、あとはすべて生配信。まさに「ライブ」である。
佐々木彩夏が会場のあちこちで歌っているあいだに、メインステージはオープニングとはまるで違う場所に見えるように大改造。ライブのクライマックスで佐々木彩夏がそこに戻ってくる、という構成。
コロナ禍だからこそ生まれた、あたらしいエンターテインメント。
かねてから自身のソロコンをセルフプロデュースしてきた佐々木彩夏だからこそできたライブでもあったが、その路線は『ももクロ夏のバカ騒ぎ2020』にも継承。逗子マリーナ全体を舞台にももクロの4人が海や青空をバックに練り歩きながら歌い、踊る。
そして無観客だからできることとして、曲中にメンバーが衣装のままプールに続々と転落していく、という『バカ騒ぎ』の極致が映像となり、生配信されることに。ラストは4人が歌うバックで大量の花火が打ちあがり、誰もが味わうことができなかった「2020年の夏」をまるごとパッケージしたプログラムは完成。
もはや「無観客でおこなったライブを生中継する」という考え方はももクロにはなくなっていた。例年の大型ライブに代わるものとして、家でも楽しめるエンターテインメントを定期的に発信していくのが2020年下半期の活動のメインとなっていった。
11月29日に配信された『PLAY!』では最先端の映像技術を駆使して、ライブなのに、まるで新しいMVを見ているかのように感じる、という新境地を開拓。視聴者参加型と銘打たれたこの配信ライブでは何回か「次に歌ってほしい曲は?」というアンケートを二択で画面上に表示し、視聴者の応募数が多い楽曲をすぐに歌うという試みを行った。
広大なスタジオにたくさんのセットを組んでそこを移動しながらパフォーマンスするという形式のため、投票で負けてしまった楽曲のセットもちゃんと用意してあった。冷静に考えたらムダが多いということになってしまうが、配信ライブであっても視聴者との「コール&レスポンス」を成立させるために、ももクロはこういう新しい形を提案したのだ。
一方的に配信するのではなく、ファンの「声」も聴きたい。
有観客ライブが再開されるその日まで、彼女たちはひたすらファンに寄り添っていくことを最優先してきた。
こう書いていくと、なにからなにまで順調に進んでいったかのように感じられるかもしれないが、当然のことながらメンバーは深く考え、ときには悩み、それでも今、できうる限りのエンターテインメントを提供しよう、と試行錯誤を繰り返してきた。
3月から6月まで、まったくステージ活動ができなくなってしまった時期、佐々木彩夏は「正直、この期間中にみんな、ももクロのことを忘れちゃうんじゃないか」という不安に襲われ、高城れににいたっては「自分がももクロであるってことを忘れちゃってたみたい」とまで吐露している。
そういったメンバーの表には出ない言葉の数々をこのまま埋もれたままにしておくのはもったいないし「2020年のリアル」として後世に残しておきたい、と考えて、僕は『ももクロの弁当と平和』(ワニブックス・刊)という本を書いた。
基本的に本の内容はこの1年間、メンバーが舞台裏で語ってきた言葉を中心に紡いでいる。先ほど、書いた佐々木彩夏と高城れにの言葉も、当然ながら収録されている。どういうシチュエーションで、どういう表情で語られた言葉で、その発言を受けて、彼女たちがその後、どうやって活動していったかについてはぜひ『ももクロの弁当と平和』を読んでいただきたい。
有観客ライブ(なんだか当たり前のように書くようになってきたが、これこそ、コロナ禍で生まれた新語である)がまったくできなかった2020年。ライブで生きてきたももクロはなにを考え、そして、またライブで生きていこうと決断したのか? どんなにファンに会えない日々が続いても「心のソーシャルディスタンス」だけは1ミリも遠ざけようとしなかった4人の歩みは、2021年以降のまだ誰も知らない世界でも間違いなく活かされるはずだ。
【あわせて読む】佐々木彩夏、ももクロ加入から11年「最近、改めて『アイドル』について気づいたこと」

▽『ももクロの弁当と平和 』
著/小島和宏
発行/ワニブックス
発売日/12月24日
定価/1400円(税別)