「オリコン=音楽ランキング」。そんなイメージを持つ人も多い中、現在のオリコンの成長を支えているのが「顧客満足度ランキング」だ。
なぜ音楽分野からスタートした企業がこの領域に進出し、さらなる成長を遂げられたのか。今回は株式会社oricon ME(オリコン エムイー)代表取締役社長・柏崎祐樹氏に、顧客満足度調査の立ち上げの経緯と成長のポイントについて話を聞いた。
○「音楽のオリコン」が「満足度ランキング」を始めた理由
――かつてオリコンといえば「音楽ランキング」そのものを指す言葉でしたが、なぜ「顧客満足度調査」(CS事業)にも力を入れるようになったのでしょう。その経緯やきっかけについて教えてください。
顧客満足度調査事業はちょうど20年前、2006年から本格的にスタートしたのですが、2003年に発刊した『患者が決めた!いい病院』という書籍がひとつの転機になったと思っています。
当時のオリコンは、音楽ランキングと、それに関連する雑誌事業がメインでした。ただ、着メロや着うたが伸び始め、音楽の聴かれ方が多様化していくなかで、ランキングビジネスの新たな形を模索していた時期でもあったんです。
そんなときに『患者が決めた!いい病院』が反響を呼び、「まだ可視化されていない領域に客観的なデータを用いることで、社会的な価値を生み出せるんじゃないか」と確信を得られたことが、今のCS事業に繋がっています。
――2006年のスタート時は、どのようなジャンルから始められたのですか?
最初は「英会話スクール」「人材派遣会社」「結婚情報サービス会社」「エステティックサロン」 の4ジャンルでした。消費者センターなどに寄せられるクレームが比較的多いとされるジャンルや、ネット上の検索連動型広告で1クリックあたりの単価が高いジャンルですね。
――当時の社内では、「音楽のオリコンが、なぜ英会話のランキングを?」という戸惑いもあったのではないでしょうか。
それはあったと思います。
外からの反応も厳しかったですよ。最初はこちらから「こういうランキングを発表します」と各企業へご説明に行くのですが、「なぜオリコンがそんなことをやるんだ」「勝手にランキングを作るな」「うちの順位が低いのはどういうことだ」「株価に影響したらどう責任を取ってくれるんだ」と、お叱りを受けることのほうが圧倒的に多かったですね。
中には「いくら払えば1位になれるんだ」といった問い合わせもありました。まずは、私たちの真意と仕組みを理解していただくまでに、相当な時間を要しましたね。
○怒号から始まった信頼構築、KPIに採用されるまでの道のり
――そんな逆風のなかで、どのように信頼を勝ち取っていったんですか?
1社1社、丁寧に説明を重ねるしかありませんでしたね。音楽ランキングで培ってきた「公平なデータを基に、きちっとしたランキングを出す」という姿勢は、ジャンルが変わっても共通しているんだということを伝え続けました。
――何か印象的に残っている当時のエピソードなどがあればお聞かせください。
私がまだ一営業マンだった2009年頃、ある企業に調査結果の説明に行ったときのことですね。担当者の方は前向きだったのですが、翌日に呼び出されて伺うと、専務さんが烈火の如くお怒りで……。私はてっきり「褒められるのかな」と思っていたのですが、「市場のことも知らない人間が勝手なことをするな。
――激怒されたと……。そこから、関係は修復できたんですか?
後日、改めて詳細な調査資料をお持ちして、外部の有識者の監修を受けていることや、統計学に基づいたロジックなどを一つひとつご説明しました。すると、逆に興味を持ってくださって。最終的には経営会議でもうちのデータを使っていただくようになり、その方が社長に就任されたときには「今年の目標はオリコンで1位を取ることだ」と、会社全体のKPIにまで据えていただいたんです。
数年後、本当にその会社が1位になられたときにご報告へ伺うと、その社長は涙ぐまれていました。現場の改善点を私たちのデータから見つけ出し、数年かけて改革された結果だったので、私にとってもオリコンのランキングの社会的意義を心の底から感じた瞬間でしたね。
――そこまでの信頼を得るには、圧倒的な「データの精度」が必要だと思います。オリコンのCS調査の信頼性は、具体的にどのような仕組みで担保されているのでしょうか。
まず、第一に「イメージ調査」ではないということです。売上高や企業の知名度は一切関係ありません。また、どこかの企業から依頼を受けて行う受託調査でもありません。
調査手法も徹底しています。ネットでの調査ですが、設問数は50問から60問に設定していて、回答し終えるまで1時間近くかかることもあります。謝礼目的だけの回答者を排除するため、フリーコメント(記述式)のコメント欄も設け、その内容が実体験に基づいているかを1件ずつチェックしています。
さらに、慶應義塾大学の鈴木秀男教授に統計学的な監修を2008年から受けており、オープンで公平なロジックを証明し続けています。営業部門と調査部門にはしっかりファイアウォールを敷いていて、営業はランキングが確定するまで順位を知ることはできません。だから、どんなに予算を持っている企業でも、順位を操作することは物理的に不可能です。
○高収益を支える3つの柱と「拡大の潮目」
――ビジネスモデルについても伺わせてください。2025年3月期にはCS事業がグループ全体の売上の約半分を占めていますが、どのように収益化しているのでしょう。
主な収益メニューは3つあります。1つめは「商標(ライセンス)」。ランキングの結果をプロモーションやIRで使っていただくための権利料です。
2つめは「Web」。弊社のランキングサイトから各企業のサイトへ送客した際のクリック課金型ビジネスで、こちらが約6億円。3つめが「データ販売」で、CS向上やマーケティングのための詳細な調査データを提供し、こちらが約1億円の売上となっています。
――やはり「商標」のインパクトが非常に大きいですね。
「商標」や「Web」は、一度契約いただくと年単位で継続して使っていただけますからね。オリコンの強みは「価格設定の維持」にあります。私たちは独自の調査とブランドにコストをかけており、それを付加価値としています。たまに企業などから「安くしてくれ」と言われることもありますが、私たちはそのようなことはせず、ブランドの価値を大切にしています。
そのせいで「オリコンは顧客満足度ランキングを出しているけど、クライアント満足度は低いね」なんて皮肉を言われたこともありますが、ここを崩してしまったら、今の収益構造は維持できません。価値を理解していただくために粘り強く説明していくことが、結果として値崩れを防ぎ、高い利益率に繋がっています。
――事業が急成長した潮目はどこにあったのでしょうか。
2015年から16年頃ですね。ランキングのジャンルを大幅に増やしました。例えば「塾」であれば、それまでは中学・大学受験の首都圏だけだったものを、高校受験をはじめ、さらに首都圏だけでなく近畿、東海などと、地域にも広げていったんです。
ジャンルが広がれば、1位の企業の数も増えますから、それだけビジネスチャンスが広がるということにもなります。2026年4月には214ジャンルまで拡大していますが、この横展開が奏功し、売上・利益ともに右肩上がりになりました。
――事業を拡大する際、リーダーとして何を基準に「やる・やらない」を判断しているのでしょうか。
主に3つの基準があって、「ユーザーニーズがあるか」「市場ニーズがあるか」、そして最後が「オリコンとの親和性」です。
例えば、「美容整形」や「レーシック」なども、調査をすれば確実にニーズがある領域です。が、万が一医療事故が起きた際、私たちのランキングを信じて選んだユーザーに対して、どう責任を持てるのか。そこを考えると、簡単には踏み込めない。なので、あえて「やらない」という判断をしています。
――ニーズがあると分かっていても、ブランドを守るために踏みとどまる、ということですね。
弊社の社名の由来は「オリジナルコンフィデンス(=絶対的な信頼)」です。そして「コンシューマーオリエンテッド(=消費者本位)」。この精神は、音楽ランキングでもニュース事業でも、CS事業でも一貫しています。
例えば最近はフェイクニュースも問題視されていますが、オリコンニュースは速報性よりも裏取りを重視します。芸能系のニュースも事務所に確認を取り、写真使用の許諾を得てから出しています。その積み重ねが芸能界やユーザーからの信頼になり、回り回って収益に繋がっているところはありますね。
○「満足度のオリコン」が当たり前になる未来へ
――今後、AIの台頭など環境の変化もありますが、CS事業をどう進化させていきたいですか。
AIについては、業務効率化の面でフル活用しています。市場調査やコメントのチェック、リリースの作成などに導入しています。また、検索結果にAIの回答が表示される「AIオーバービュー」などへのSEO対策も、Webチームが総力を挙げて取り組んでいます。
ただし、ランキングのコアとなる「回答データ」そのものをAIで作ることはありません。あくまでも、サービスを実際に体験した「生の声」を真摯に数値化することにこだわり続けます。
――最後に、オリコンがさらに強化していきたい領域や今後の展望などについて教えてください。
CS事業は20年かけてようやく認知されてきましたが、一般の方々からすれば、まだまだ「オリコン=音楽」のイメージが強い。今の新卒採用では、半数近くがCS事業を志望して入ってきますが、世の中全体で言えばまだまだです。だからこそ、伸びしろもあると思っています。あとはランキングの1位、2位の企業だけでなく、どの企業であっても「オリコンのデータを使ってどう満足度を上げるか」を当たり前に考えるようになってもらえるよう頑張りたいですね。
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