日本のサーフシーンに名を刻む、凄腕のプロサーファーたち。彼らの活躍のそばには、サーフフィルマー青木 肇(あおき・はじめ)の姿がある。
「一銭にもならない」サーフフィルムを撮りつづける理由
Welcome to the crew, KEITO !! / film by Hajime Aoki–20歳からフィルマーとして活動されている青木さん。その経緯をお聞きしたいです。
青木:地元平塚の海でサーフィンしているときに、仲間内でビデオカメラを回して、お互いのライディングを撮りあっていたんですよ。それが妙に楽しくて。もともとウェットスーツのデザインの仕事もやっていたこともあって、根っからの凝り性なんでしょうね。独学でカメラを学び始めて、気づいたら今に至る。そんな感じです。
–他ジャンルの仕事との兼ね合いはいかがですか?
青木:現在は3つの会社で取締役をしながらフリーランスとしても活動していて、TVCM・ブランドイメージ動画からドラマのオープニング映像まで、幅広く請け負っています。割合は通常の仕事が80%、サーフフィルムが20%くらいですね。しかしサーフフィルムでの収入は微々たるもので、ほとんどお金にはなっていません。
–それでもサーフフィルムを撮りつづけているのはなぜですか?
青木:シンプルに好きだからというのもあるんですが、他にもちゃんと理由があって。サーフフィルムが僕の名刺代わりになっているんです。
–詳しく聞かせてください。
青木:実は僕が普段している仕事は、サーフフィルムを観た人からいただくことが多くて。自然の海や、その波の上で滑っているサーファーを撮ってる人って映像業界でも珍しいみたいで。
–2020年にXperiaのアンバサダーに任命されていますが、その一環ですか?
青木:はい。そうです。愛知県・田原市で行われたWQS(Billabong 田原プロ)でダイジェスト映像の製作を担当していたときに、その大会のスポンサーがXperiaさんだったんですよ。で、作った映像を気に入ってもらってからというもの、CMの仕事をいただけるようになったりして。その流れでアンバサダーにも任命いただきました。

–なるほど。別ジャンルといえば、青木さんは2018年に放送された大河ドラマ『西郷どん』のオープニング映像も担当されていましたね。
青木:はい。「Surfrider Foundation(サーフライダー・ファウンデーション)」の映像を見て、NHKの大河ドラマ担当の方からオファーをいただきました。僕が所属しているクリエイティブ集団「L.S.W.F(Land Sky Water Film)」代表、中村豪さんとともに製作しています。
–オープニングを拝見しましたが、映像の美しさに目を奪われました。
青木:ありがとうございます。今までの大河ドラマはCGやアニメーションが多用されていましたが、ドラマ『西郷どん』は、ドローン空撮を使用したリアルな映像美が特徴です。

–どちらもサーフフィルムが元になって、別の仕事につながっていると。若手のフィルマーには夢のある話ですね。
青木:そうですね。サーフフィルムが別業界への入り口になっているというか。とにかく今の若い人たちに伝えたいのは、どんな仕事でも、ひとつひとつ丁寧に向き合ってほしいということ。誰が見てくれているか、わかりませんからね。
–日本のサーフフィルム業界については、どう思われますか?
青木:海外のように、フリーサーファーのサーフトリップにスポンサーが付けば、もっと業界が潤うし、いいフィルマーも出てくるんじゃないかなと。けど、まだ日本にはそのカルチャーというか、機運がない。競技サーフィンのアスリートだけではなく、フリーサーファーやビッグウェーバーや、その人たちの行動にもっと注目してもらいたいです。それに見合うポテンシャルのある波が、日本にはありますから。
普段の撮影について

–撮影機材についても教えてください。
青木:メインはソニーのムービーカメラ「PXW-FS7」です。サーファーのライディングを撮るときは、これに600mmの望遠レンズを付けて撮影しています。彼らは数十メートル先の沖合でサーフィンをすることもあるので欠かせません。

そして、陸上の接写ではXperiaを使っています。海の前後の映像を差し込むのに、新幹線や飛行機での移動中に撮っていますね。映像がきれいな上に設定を細かくいじれるし、持ち運びもラク。使い勝手がよいので重宝しています。
–撮影のときに意識されていることはありますか?
青木:常に俯瞰することです。
最もストークした“ウェーブハント”の旅

–行動を共にされているプロサーファーとは、どのようなご関係ですか?
青木:何というか、同志のような間柄ですね。プロサーファーの中でも同行することが多いのは、松岡慧斗、村上 兄弟(舜・蓮)の3人。波を求めて全国津々浦々、“ウェーブハント”の旅をしています。
–なぜその3人なのでしょうか。
青木:「バイブスが合う」と言ってしまえばそれまでで、身も蓋もないのですが、生き方や考え方がお互いに合致しているというか。僕が彼らの職人気質なところや、ハングリー精神に惹かれているだけなんですけどね。

–サーフフィルムにおける“ウェーブハント”の魅力とは何でしょうか。
青木:「足を使わなければいい絵が撮れない」というところです。波を探す旅は、いつも運がついて回ります。
–今までに一番、ストーク(興奮)した波は何ですか?
青木:ここじゃ言えませんけど、昨年、某ポイントで規格外のスウェルを目にしました。2020年は3人とも波を外していたこともあって、あれを見た瞬間、超ストークしてましたよ。僕も鳥肌が立つほど興奮しました。波の厚みとスピッツ(チューブが閉じるときにエアーと共に吹き出される水しぶき)がハンパじゃなかったんです。「ブゥワーッ」と。
–それはすごい。日本にもまだそんな所があるのですね。
青木:はい。今まで北から南まで色々なポイントを巡ってきましたが、それらが全部かすんでしまいました。あれに遭遇したのは世界中でも僕らだけかと。
–サーフフィルマーの腕が鳴りますね。
青木:でも結局、ライディングは撮れなかったんですよ。3人はゲットアウトしてチャレンジしてくれましたが、大波の目の前に岩棚があって、テイクオフは叶いませんでした。
–そうだったのですね。それは悔しい!
青木:そうですね。慧斗たちもさすがに気落ちしていました。2日間の滞在にもかかわらずノー・テイクオフでしたからね。正直、乗らなくてホッとしましたけど。あの大波と地形でコケたらどうなるか、容易に想像がつきましたから。潮回りとかウネリの向きでコンディションも変わりますし、天気図とにらめっこしながらリベンジの機会を待つことにしますよ。
映画を撮ったら、引退

–今後はどのようなサーファーを撮っていきたいですか?
青木:これは完全に好みですけど、コンペティターというよりは、ビッグウェーバー系のサーファー。“松岡慧斗2世”みたいな子が出てきたら面白いですね。
–では、どのような活動を?
青木:これまでと変わりませんね。自分が「いい」と感じた人や物を撮っていくだけです。あぁ、そうだ。某ポイントの大波にはいつか再チャレンジしたいな。あれが“ラスボス”ですね。ホント、撮ってみたい。
–その“ラスボス”が撮れた後のことも考えていますか?
青木:これ撮れたら、もう引退。それくらいの覚悟で臨みますよ。誰もが息を飲むような一世一代の大作にしたい。
–今から楽しみにしています。
青木:完成したら映画館のスクリーンでドンと流しますから。待っていてください。
青木 肇プロフィール

1978年生まれ。神奈川県平塚市出身のサーフフィルマー。クリエイティブ集団「L.S.W.F(Land Sky Water Film)」の映像ディレクター。長年のサーフィン経験をもとにした、自然美や人間の内面をコンセプトにした映像製作を得意とする。TVコマーシャルやプロモーションビデオの他、ブランドイメージ動画などを中心に活動を続けている。2018年放送のNHK大河ドラマ『西郷どん』のオープニング映像を手がけた。
text by 佐藤稜馬
photo by 村田一樹
The post 「これ撮ったら、もう引退」孤高のサーフフィルマー青木 肇が手掛ける“一世一代のプロジェクト” first appeared on FINEPLAY.