レビュー
「正しい」ことは、誰にとっても「正しい」とは限らない。
『組織不正はいつも正しい』という本書のタイトルはどこか不穏に感じられる。
ではなぜ、本書は組織不正を「正しい」というのだろうか。それは不正をはたらいた人々がその行動を「正しい」と考えていたからに他ならない。組織の不正が報じられるとき、多くの人が頭に思い浮かべるのは不正を通じて私欲を肥やそうとする悪人だろう。たしかに、悪意や私利私欲で不正に手を染める者はいる。しかし、それだけでは組織の不正全てを説明できないことを本書は指摘する。そこで、組織の不祥事について研究し、立命館大学経営学部にて教鞭をとる著者は「正しい」という概念に注目したのである。
不正をした者は「正しい」ことをしているつもりだった。あるいはそれは組織の中では間違いなく「正しい」ことだった。しかし、それが知らず知らずのうちに社会の正しさとかけ離れていたり、あるいはあまりにも厳しい基準としての正しさに適合しなかったりするために、不正が生まれてしまう。
こうして「正しさ」という切り口から不正を見つめなおすことで、不正をより深く考えることができるのだ。
本書の要点
・組織不正は、個人が意図的に起こすものと考えられてきた。しかし、近年の研究では必ずしも当事者が不正を自覚しているとは限らないということが明らかになってきた。
・三菱自動車とスズキの燃費不正問題は、国が定めた測定法を使っていないことが問題だった。しかし、この国が定めた測定法は実施が非常に困難なものだった。
・組織の中の一個人が「正しさ」を追求し、他の人々が同調していくことで、それが組織を揺るがすような大きな不祥事にまで発展する現象を、本書では社会的雪崩(ソーシャル・アバランチ)と呼ぶ。
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