【芸能界クロスロード】


 各局が秋の番組改編期に向け動き出すなか、やはり注目はフジテレビ。失墜した信頼を取り戻すにはまず高視聴率の番組を作ること。

そんな期待を込めて発表されたのが“月9”だ。


 フジの代名詞だった“月9”も近年は不振続き。中居正広問題で名前が取り沙汰されたひとりだった大多亮氏もプロデューサー時代に高視聴率を叩き出したが、「大多カラーを払拭するためにもそろそろ“月9”の看板を下ろす時期」の声が出始めていたが、結局、6月に還暦を迎えた沢口靖子を主役に抜擢した。


 沢口がフジの連ドラに出演するのは実に35年ぶり。起死回生を狙うフジに呼応するように沢口は「新たな役にチャレンジできることがうれしかった」と意欲を示している。 話題性は十分だが、沢口といえば、昨年のシーズン24まで25年間務めたテレビ朝日の「科捜研の女」のイメージが強い。テレビ関係者によれば、「科捜研は正式に終了を発表していないが、事実上終わったことから沢口はフジの出演を了承した。ただ、アイドルグループが解散ではなく活動休止という形をとるように、単発ドラマで放送する可能性を残している」という。


 テレ朝から鞍替えする沢口のために用意した月9は「絶対零度~情報犯罪緊急捜査~」。上戸彩沢村一樹が主演を務めた人気シリーズの第5弾を沢口が引き継ぐ。今回は科学捜査官から情報犯罪やサイバーテロに立ち向かう刑事。アクションシーンにも挑むという。

フジに移っても刑事モノは変わらないが、沢口にとっては賢明な選択だと思う。


 若手女優ならひとつの役が定着するのを嫌い、新たな役に挑戦するものだが、沢口ほどのベテランにして刑事モノが定着した今、他のジャンルに臨むほうがリスクも伴う。むしろ、新たな刑事モノで押し出すほうが新鮮でもある。沢口をサポートする脇役も揃った。


 今やドラマに欠かせない名脇役の安田顕朝ドラヒロインを務めた黒島結菜、シリーズのレギュラー横山裕も引き続き出演する。後は沢口の名前にかかる。高齢者を中心に沢口には一定の固定ファンはいるが、若い人に沢口の月9にどれだけ関心を持たせることができるかがポイントになる。



「もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう」

 もうひとつの目玉ドラマが三谷幸喜の参戦。25年ぶりに民放ゴールデンプライム帯の連ドラ脚本を務める「もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう」という三谷らしい長いタイトルの青春群像劇。主演は菅田将暉。共演も二階堂ふみ神木隆之介浜辺美波小池栄子と主役クラスの豪華な顔ぶれだ。


 現在の演劇界で監督の名で俳優を呼べる三谷とはいえ、連ドラでこれだけの俳優が揃うのは「大河」をもしのぐほど。

「最低でも2桁視聴率」とフジの三谷に懸ける思いは沢口以上かもしれないが、三谷にとっても負けられない作品だ。


 最近の三谷は映画のほうの評判があまり芳しくない。昨年の長澤まさみ主演の「スオミの話をしよう」は、期待したファンも言葉を失い、悪い評判しか聞かれなかった。タイトルも含め凝り過ぎで失敗したかのようでもあった。


 今年7月公開の「おい、太宰」も不入りだった。主演の田中圭永野芽郁と不倫騒動の渦中だったとはいえ、三谷マジックも「限界」を思わすものだった。


 地上波ドラマは3年前の大河「鎌倉殿の13人」以来だが、巻き返すチャンスにドラマを選んだように見える。若手俳優中心で臨んだ夏ドラマは不発に終わったフジ。秋は実績ある沢口と三谷の手腕に託す。


(二田一比古/ジャーナリスト)


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