フィリピン・ダバオ市の中心部からエンジン音を響かせ、山側を目指して走り出すこと約2時間。都会の喧騒が遠ざかるにつれ、景色は鮮やかな緑へと塗り替えられていきます。
今回ご紹介するのは、観光ガイドブックには滅多に載ることのない、地元の人々に熱烈に愛される秘境中の秘境、マラウェル・ホットスプリングです。ここは洗練されたリゾート施設とは無縁の場所ですが、そこにはフィリピンの自然と人々の温かさが凝縮された、最高の癒やし空間が広がっています。

その他の写真:2026年4月20日撮影

 この温泉へ向かう道中、まず知っておかなければならないのは、ここへはジプニーで行くことができないという点です。ダバオ中心部から片道約2時間の道のりは、まさに冒険そのもの。自家用車で訪れる際も、入り口付近で細心の注意が必要です。温泉の入り口にはかなりの急勾配が待ち構えており、車高の低い車では苦戦を強いられます。例えば、フィリピンで人気のトヨタ・アバンザのような車種だと、地面と車体のお腹を激しく擦ってしまうリスクが非常に高いため、車で向かうのであれば最低地上高に余裕のあるSUV車を強くお勧めします。こうした厳しい地形ゆえに、小回りの利くバイクこそが地元民にとっての唯一無二の相棒となっているのです。

 現地に到着すると、まず驚くのがその驚異的なコストパフォーマンスです。施設利用料は1人わずか20ペソ。日本円にして約56円という安さです。さらに、家族やグループでのんびり過ごすためのコテージ使用料も220ペソ、日本円で約616円と、驚くほどリーズナブルな価格設定になっています。
こうした手軽さも、週末に多くの地元民がわざわざ遠路はるばるバイクを走らせてやってくる理由の一つなのでしょう。

 目的地でまず圧倒されるのは、空を覆い尽くさんばかりにそびえ立つ見事な竹林です。風が吹くたびに竹の葉が重なり合い、サラサラという心地よい音を奏でます。その合間を縫うように斜面を下りていくと、そこには手作り感あふれる竹製のコテージと、清らかな水の流れが見えてきます。マラウェルの最大の魅力は、大自然の中で冷たい川と温かい温泉を同時に楽しめるという贅沢な環境にあります。

 まずは岩場を豪快に流れる小川へ足を入れてみましょう。こちらの水温は約30度。南国の強い日差しにさらされた体には、この少しぬるめの水温が驚くほど心地よく感じられます。水は透き通っており、川底の石まではっきりと確認できるほどです。地元の子どもたちが元気いっぱいに川遊びをし、大人たちが水しぶきを浴びて笑い合う光景は、見ているこちらまで心が解きほぐされるようです。

 川で火照った体をほどよく冷やした後は、いよいよお目当ての温泉浴槽へと移動します。コンクリートで囲われた素朴な浴槽には、岩の間から湧き出た源泉が絶え間なく注がれています。
こちらの温度は約36度。日本の熱い温泉に慣れた身には少し低く感じるかもしれませんが、熱帯のフィリピンではこの温度がベストマッチです。のぼせることなく、いつまでも浸かっていられるような絶妙な温かさで、体の芯から疲れがじわじわと抜けていくのが実感できます。竹林から差し込む木漏れ日を眺めながら温泉に浸かる時間は、まさに至福のひとときです。

 お腹が空いてきたら、レンタルしたコテージで現地スタイルのピクニックを楽しみます。ここにはレストランやカフェはありません。訪れる人々は自分たちで食材や薪を持ち込み、石を積んで作った即席のかまどで豪快に料理を始めます。大きな鍋で炊き上げられるご飯の匂いや、薪の火で調理される香ばしい煙が漂い、周囲は活気にあふれます。竹で作られたベンチに座り、家族や友人と円を囲んで食べる食事は、どんな高級料理よりも贅沢に感じられます。時には近くを歩く鶏の声や、地元の人々が奏でるギターの音が聞こえてくることもあり、ゆったりとした時間が流れていきます。

 マラウェル・ホットスプリングには、現代的な便利さは何一つありません。しかし、そこには自然と共生するフィリピンの豊かな日常があります。
清流で遊び、温泉で癒やされ、火を囲んで笑い合う。そんなシンプルな過ごし方が、いかに心を豊かにしてくれるかを教えてくれます。ダバオの街を飛び出して、SUVやバイクを駆り、風を感じながらこの秘境を目指してみてはいかがでしょうか。帰り道、再びエンジンのキーを回したときには、体も心もすっきりとリフレッシュされ、明日への活力が満ち溢れていることに気づくはずです。
【編集:Eula】
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