HOMINISオリジナル企画「花澤香菜をつくる6つのピース」。花澤香菜という表現者を形づくる6つのピースをひとつずつひもといていく本企画。
声にコンプレックスを抱いていた頃のこと、現場で少しずつ見つけていった表現の楽しさ、作品ごとに変わっていった役との向き合い方、そして今も大切にしている柔軟さ。節目となった作品を振り返りながら語られた言葉からは、ひとつひとつの経験を糧にしながら、自分自身の表現を更新し続けてきた歩みが見えてくる。長く第一線で愛され続ける理由を、あらためて感じさせるインタビューとなった。
――花澤さんは14歳で声優のお仕事を始められてから、今年で23年目になります。ここまでの歩みを振り返って、今どんな思いがありますか?
「23年っていう言葉は、なんだかいろいろ感じさせてしまう感じがして、ちょっと気恥ずかしいんですけど、あまり自覚はないんです。本当にあっという間に、そんなに時が経ってしまったなという感覚ですね」
――改めて、花澤さんにとって声優という仕事はどんな存在になっていますか?
「お仕事という枠を超えて、生活の一部みたいな存在ですね。ずっと楽しいんです。もちろん、つらいことがないわけではないですけど、それでももっとうまくなりたいなと思うし、もっと続けたいなと思える。そういうものに出会えたことが、本当によかったなと思います。もともとは子役としてお仕事をしていたんですけど、その中で声優という仕事に巡り合えたのは、本当に奇跡みたいなことだなと思っていて。
――最初から、自分の声が強みだという感覚があったわけではなかったんですね
「全然なかったです。14歳だったので、私が起用されているのは、等身大のお芝居を求められているからなんだろうなと思っていて、自分の声そのものを意識することはあまりなかったです。とにかく声優の現場に行くこと自体が初めてだったので、見よう見まねで、教えてもらいながらやっている状態でした。17歳の時に『ゼーガペイン』でカミナギ・リョーコを演じた時も、自分の声がどうこうというより、17歳だから17歳の役をいただけた、という感覚のほうが強かったですし、その時の自分にできる精いっぱいが、そのまま役に残っていく感じでした。今でもたまにゲームなどでリョーコを演じさせてもらうことがあるんですけど、そのたびに『リョーコの声って何だろう』と向き合うことになるんです。でも、あれはあの時の等身大の私でしかないと思っているので、当時のことを思い出しながら演じています」
――そのくらいの時期から出演作も一気に増えていきましたよね
「本当にラッキーだったと思います。でも、14歳の頃に出会ったスタッフさんや、一緒にお仕事をしていた方たちが、まるで保護者みたいに見守ってくださっていたんです(笑)。『頑張って成長してね』という感じで接してくださって、そのご縁がずっとつながっていたんだと思います。だから、皆さんの寛大さには感謝しかないですね。その時期は、本当にたくさんチャンスをいただいて、オーディションもたくさん受けさせてもらっていました」
――これまでたくさんの作品に出演されてきた中で、花澤さんにとってターニングポイントになった作品を挙げるとすると、どの作品が思い浮かびますか?
「本当に1つには絞れないんです。
――花澤さんの中でその意識が変わったタイミングはありましたか?
「『ポテまよ』ですね。そこで初めてアフレコの楽しさを知りました。アドリブも入れていいんだとか、ギャグ作品だから現場でみんなに笑ってもらえるのがすごくうれしいとか、そういうことを知って、『こんなにクリエイティブなお仕事だったんだ』と感じたんです。それまでは、監督の意図通りに、噛まずに、きちんとセリフを言わなきゃ、みたいなことに縛られていたんですけど、それが逆に表現を狭めてしまっていたんだなと、『ポテまよ』で教えてもらいました」
――作品を重ねる中で、声優としてのお芝居に対する考え方も少しずつ変わっていったんですね
「そうですね。あと、新海誠監督の『言の葉の庭』もすごく大きかったです。新海監督作品にどうしても関わりたくて、年齢制限があると聞いていたんですけど、マネージャーさんに『ダメ元でもいいので出してもらえませんか』とお願いしたんです(笑)。当時の自分は対象年齢より下だったんですけど、それでも受けさせてもらって、参加できたことが本当にうれしかったですし、その分プレッシャーもありました」
――それだけ新海監督作品への思い入れが強かったんですね。
「実際にある公園が舞台になっている作品だったので、そこに何度も足を運んだりもしましたし、アフレコのやり方もいろいろ工夫しました。20代前半の頃って、同じような役柄をいただくことが多かったんです。妹キャラとか、ヒロインとか、かわいい子とか。そういうイメージが自分についていたからこそ、キャラクターごとにどう違いを出していけばいいのか分からなくなってしまった時期があって......」
――"花澤香菜さんのイメージ"が定着していたからこその難しさでもあった
「そうなんです。その時に信頼している音響監督さんに相談したら、『例えば今日、靴下を左右違うものにしたら、それだけで昨日とは違うよね』と言われたんです。そういう小さな積み重ねで違う人間が生まれていくんだよ、と。その言葉で、私は外側の記号ばかり見ていたのかもしれない、とすごく反省しました。しかも、自分の中で作るものだけじゃなくて、周りの役者さんも毎回違うわけだから、相手の芝居をちゃんと聞いて反応していけば、同じように見えるポジションの役でも全然違う人物になっていく。そのことを教わった時期でもありました。『言の葉の庭』で雪野先生を演じる時は、ある出来事をきっかけに日常がうまくいかなくなっている人物だったので、その気持ち悪さみたいなものを自分の中に残しておきたくて、左右の靴を逆に履いて現場に行ったりもしていました。自分なりのやりやすさや工夫を考えて、実践し始めたのがあの頃だったので、あの作品をきっかけに少し変わった感覚はありますね」
――10代から20代前半にかけての経験が、今の花澤さんのベースになっているんですね
「すごくなっています。でも、28、29歳ぐらいで1回、波が止まった感覚もあったんです。
――長く仕事を続ける中で、日々欠かさずやっていることや、大事にしている心構えはありますか?
「自分の中のルールはあります。すごく基本的なことですけど、体調管理ですね。あとは滑舌のために、7時間は絶対に寝るようにしています。どれだけチェックが終わっていなくても、7時間は寝ると決めています。それから、体調管理のために運動したり、時間を絶対に守ることだったり、社会人としての礼儀もそうですし、あとは探求心も大事にしています。
――花澤さんのお話を聞いていると、その柔軟さも表現を続けてこられた理由のひとつなのだと感じます
「性格もあると思うんですけど、私は『絶対にこうしたい』という強いこだわりが、そこまであるタイプではないんです。むしろ、自分でも思っていなかった方向に進んだほうが面白いと思うことのほうが多くて。『こばと。』の時に、監督から『なぜ私を選んでくださったんですか』と聞いたことがあるんですけど、その時に『オーディションで、このセリフを想定とは違う方向に表現していたのが面白かった』と言っていただいたんです。監督が思い描いているものに応えながら、そこに自分でも予想していなかったような面白さを加えられたら一番いい。そういう表現は、自分の強みにしていきたいなと思っています」
取材・文=川崎龍也 撮影=MISUMI
放送情報
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