夏休みの宿題といえばいろんなものがあるとは思いますが、読書感想文や自由研究といった、「普段の学校生活では出されない宿題」もありますよね。
読書感想文と聞くと、少しハードルが高いように感じてしまうかもしれませんが、名作というのは自然と人の心に残るもの。物語というものは日常に潜んでいるものです。皆さんや私が大好きなゲームにだって、実は名作たちの影響があるのです!
そこで今回は、ゲーム作品に登場する小説をご紹介します。せっかくの夏休みですし、ゲームだけでなく、ゲームに影響を与えた作品にも触れてみるのはいかがでしょうか?
『ポケモン ファイアレッド・リーフグリーン』-スティーヴン・キング「スタンド・バイ・ミー」
2004年にGBA向けに発売された『ポケットモンスター ファイアレッド・リーフグリーン』は、ポケモンシリーズ初代にあたる『ポケットモンスター 赤』『ポケットモンスター 緑』のリメイク作品です。
2026年2月27日にはニンテンドースイッチ向けにダウンロード配信が開始されましたので、これを機にプレイされた方も多いのではないでしょうか?筆者もその1人です。
さて。本作では主人公の性別や名前を決めたのちにゲームが開始し、テレビを見ているシーンからスタートするのですが、このテレビを調べると「おとこのこが4にん せんろのうえをあるいてる…」という文言が表示されます。
これは、映画「スタンド・バイ・ミー」のワンシーンを指しているのです。
映画「スタンド・バイ・ミー」は、スティーヴン・キングの中編集「恐怖の四季」に収録されている中編小説「スタンド・バイ・ミー」の映画化作品です。
ベストセラー作家ゴードン・ラチャンスが、12歳のときに体験した、生涯忘れることのない2日間の物語。
「スタンド・バイ・ミー」はポケモンのみならず、『MOTHER』『ファイナルファンタジーXV』にもオマージュされているシーンが登場する名作です。
映画も名作ですが、せっかくの夏休み、原作本も読んで読書感想文を書くのはいかがでしょうか?
『Back to the Dawn ~ブレイク・ザ・アニマル・プリズン~』-スティーヴン・キング「刑務所のリタ・ヘイワース」
同じくスティーヴン・キングの「恐怖の四季」からもう1作ご紹介。「刑務所のリタ・ヘイワース」という小説なのですが、小説を元にした映画「ショーシャンクの空に」の名の方が聞き覚えのある人も多いかもしれません。
「刑務所のリタ・ヘイワース」がどういう作品なのかというと、脱獄ものではあるものの活劇のような冒険的な脱獄ではなく、脱獄自体は割と地味寄り。どちらかというと、脱獄犯と語り手の友情を描く、ヒューマンドラマにフォーカスを置いた、ハードボイルドな作品です。
物語の主人公は、脱獄犯であるアンドリュー・デュフレーン(以下アンディ)。そして、語り手となるのはレッドという男です。この男は刑務所内のよろず調達屋でもあります。
アンディはインテリ系な男で、刑務所内では当初孤立していましたが、少しずつ刑務所内での立場を強固なものにしていきます。でもそれは、決して暴力的な方法ではない。
そんなアンディの姿を憧憬や尊敬、それから友情を持って見つめているレッドは、とうとうアンディが脱獄したという時には彼の最大の理解者にすらなっています。決して交わらなかったであろう2人が、「たった1つの奇跡的な希望」を信じて行動を続ける漢たちの姿が何よりも眩しいです。
『Back to the Dawn ~ブレイク・ザ・アニマル・プリズン~』でも漢同士の友情が描かれます。筆者は特にキツネのトーマス編で描かれている、トーマスとレッサーパンダのリードの友情が好き!
トーマスの学生時代からの友人であるリードは弁護士で、トーマスにとって頼りになる悪友でもあります。脱獄においても様々なサポートをしてくれており、彼の活躍も実際に操作する形で体験できます。皆さんもぜひ実際にプレイされてリードの頑張りをその目でご確認ください。
『黒洞々』-芥川龍之介「羅生門」
『黒洞々|KOKUTOTO』はテンダゲームスが手掛ける、マルチエンディングのアドベンチャーゲームです。黒洞々たる夜に閉じ込められた主人公である「オレ」は、ただ生きているだけで尊厳が削られていくこの街で、「善悪の彼岸」を問いかけられながら、どうにかして生き延びる方法を探していきます。
黒洞々……なかなか聞きなれない言葉だと思いますが、実は、高校の授業でほぼ必ずと言って良いほど扱われる芥川龍之介の「羅生門」に登場している言葉なのです。
耳に残る「下人の行方は、誰も知らない。」という有名な終わりの文章の前に、「外には、ただ、黒洞々たる夜があるばかりである。」という文章があるのですね。
高校の授業でほぼ必ずと言って良いほど扱われる芥川龍之介の「羅生門」は、「生きるための悪」がテーマの作品となっています。
天災で衰微した平安時代。勤め先を解雇されて「生きるためには盗人になるしかない」とは思いつつも勇気が出なかった下人が、老婆と出会う。その老婆との問答を経た下人には盗人になる勇気が生まれ、老婆から着物をはぎ取って蹴り倒し、「黒洞々たる夜」に消えていく……というお話。
実は全体でも1万文字もない、短編小説となります。個人的には、芥川は短編の名手と言えるくらいに、短編に名作ぞろいだなと思います。『黒洞々|KOKUTOTO』には「羅生門」以外にも芥川作品の影響を感じることができます。芥川の短編集など、読んでみてはいかがでしょうか。
『ファミレスを享受せよ』-宮沢賢治「ツェねずみ」
永遠のファミレス「ムーンパレス」に迷い込む短編ADV『ファミレスを享受せよ』も、文学要素がちりばめられています。実は、ファミレスの名前「ムーンパレス」も、ポール・オースターの小説「ムーン・パレス」から来ているのです。
しかし「ムーン・パレス」は少々長めな作品です。そこで同作に登場する、もう少し気軽に読めそうな別の作品もご紹介。『ファミレスを享受せよ』の登場キャラクターの1人・ツェネズの名前は、宮沢賢治「ツェねずみ」という作品を元にしています。
そんな「ツェねずみ」が名前の元ネタなのですから、ツェネズも嫌な奴……と、いうわけでもないんです。むしろ筆者は『ファミレスを享受せよ』の登場キャラクターの中で、1番親しみを持っています。でも「ツェねずみ」っぽさも残っているという、なんとも絶妙なキャラクター……!
1つ前に紹介した「羅生門」よりも短い作品でサクッと読めます。著作権の切れた文学作品が公開されている青空文庫でも読めますので、インターネットの息抜きに読んでみてはいかがでしょうか?
ちなみに、「ツェねずみ」は、同じく宮沢賢治の「クンねずみ」という作品の中で、新聞記事として掲載されています。少し不思議な感じですが、「同じ作者さんが制作しているゲームの名前が、別のゲームで出ている」みたいな、そんな感覚に近いかも?
『スナフキン:ムーミン谷のメロディ』-トーベ・ヤンソン「ムーミン谷の夏祭り」
トーベ・ヤンソンによる「ムーミン・シリーズ」に登場するキャラクター・スナフキンを主人公とした、アドベンチャーゲーム『スナフキン:ムーミン谷のメロディ』。これは原作シリーズのいろんな作品を元に作られているのですが、中でも「ムーミン谷の夏まつり」という作品がメインとなっています。
「ムーミン谷の夏まつり」では、ムーミン谷に火山の噴火と洪水という、ダブル災害が襲い掛かってきます。ムーミンたちが暮らしている家が水没してしまったため、流れてきた家に移り住むのですが……その家はなんと、「劇場」だったのです!舞台監督フィリフヨンカの妻・エンマの存在もあり、劇を知らないムーミンたちは、お芝居をしてみることに。
しかし途中でムーミントロールとスノークのおじょうさんがはぐれ、勘違いから逮捕されるという、とんでもない事態になります。果たして、ムーミンとスノークのおじょうさんは無事に家に帰ることができるのでしょうか?劇は公演されるのでしょうか?そして、ムーミン谷が水没してしまっても、旅に出ていたスナフキンとムーミンは、再び会えるのでしょうか?
2026年発売予定の『ムーミン:ムーミン谷の夏まつり』も、「ムーミン谷の夏まつり」を原作としています。トレーラーを見る限り、『ムーミン:ムーミン谷の夏まつり』の方がより原作に近い印象を受けます。
同じ作品を題材にしつつも、トレーラーから既に両作品の違いが見られます。
『かまいたちの夜』-アガサ・クリスティ「そして誰もいなくなった」
ミステリーの女王、アガサ・クリスティ。彼女は数々の名作を残しましたが、中でも「そして誰もいなくなった」は名作中の名作と言っても良いでしょう。孤島を舞台に、マザー・グースの「十人の小さな兵隊さん」になぞらえて10人の登場人物たちが殺されていき、そして誰もいなくなる……。アガサ・クリスティの代表作としてだけではなく、クローズド・サークルと見立て殺人の代表作としてもその名をはせている作品です。
「クローズド・サークル」というのは、ミステリーにおけるジャンル名で、何らかの事情で外界から孤立した状況のことを言います。また、見立て殺人というのは、歌などに沿って起こる殺人のことです。
クローズド・サークルと一口に言いましてもいろいろあります。「孤島に旅行に来た人たちが嵐で帰れない」「スキーをしに来たは良いものの天候により外に出ることがかなわない」などなど……そう。チュンソフトの名作『かまいたちの夜』も、クローズド・サークルな状態なのです。
『かまいたちの夜』は、スキー旅行に出かけた主人公・透くん(名前変更可能)と、そのガールフレンドである真理ちゃん(こちらも名前変更可能)が、滞在先のペンション「シュプール」で起こる殺人事件に巻き込まれるサウンドノベルです。
1人また1人と犠牲になっていく、恐ろしい殺人事件……。シュプールは吹雪によって閉鎖空間になり、自衛のためにも自分たちで殺人事件を解決しなくてはなりません……。
ちなみに続編にあたる『かまいたちの夜2 監獄島のわらべ唄』ですと、孤島でクローズド・サークル状態、そしてわらべ唄に沿った見立て殺人が起こるという、こちらも「そして誰もいなくなった」に近い設定になっています。
影響を受けたのは間違いありませんが、もちろん全く同じ展開ではありません。『かまいたちの夜』をプレイ済みでも「そして誰もいなくなった」を楽しめますし、その逆もまたしかりです。どちらか片方しか知らない、という方は、ぜひこの機会に触れてみてはいかがでしょうか。


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