「計画がずさん。交付金の目的になっていない。

効果が不透明ーー。そもそも、計画も確認しない制度として創設されたんですか」

5月30日の参議院予算委員会の審議で、立憲民主党の蓮舫議員は国が地方自治体に給付した約4.4兆円の「新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金」の使途について、政府を厳しく追及した。

その中で、交付金がコロナ対策や地方創生とは関係がないと思われる事業を指摘。そのあきれた使い道と莫大な費用が波紋を呼んでいる。

その事業はいずれも首をかしげたくなるものばかり。福井県の「ハッピーマリッジ応援事業」には、結婚の機運醸成を目的に、カタログギフト贈呈やウエディング動画作成などに1億8000万円もの交付金が投入されている。

長崎県川棚町の「幹部公用車の購入事業」に至っては、町長等幹部職員が移動する際の感染リスクを回避するために、トヨタ・アルファードを386万円で購入。さすがにこれでは町民のための交付金とは言えないだろう。

愛知県が県立学校のトイレ改修事業を目的に交付を受けた18億6800万円は、使われずにほかの対象事業に充当されたという。

自治体の事業計画とは、事前・事後に精査されることもなく、後で帳尻を合わせさえすればよいというものなのだろうかーー。

じつは、蓮舫議員が指摘したこれらの資料には、もとになるデータがある。NPO法人「Tansa」が、インターネット上で公開している「全国の無駄遣いワースト100事業」という報告書だ。

地方創生臨時交付金が使われた約6万5000事業、3兆円分を徹底調査し、データベース化している。

「コロナ対応のためにきちんと交付金を使っている自治体ももちろんあるのですが、細かく見ていくと、コロナとの関連性が疑わしい事業も少なくありません。国会で蓮舫さんも言っていましたが、この制度は規模の小さい自治体に対してより手厚く交付金が配られる仕組みになっているため、町や村で小規模な無駄遣いが散見されるようです」

こう語るのは、地方創生臨時交付金の無駄遣いを追及するTansaの辻麻梨子さんだ。

蓮舫議員が指摘した以外にも、「なぜこれがコロナ対策、地方創生と結びつくの?」と、言いたくなる例はいくつもある。

本誌が着目したのは次の5件。見た目のインパクトも強いこれらの事業について、各自治体はどのような目的でコロナ交付金を投入したのかを取材した。

山形県舟形町】国宝『縄文の女神』陶製レプリカ2体製作/669万9000円(うち一般財源20万9000円含む)

「コロナ禍の中で、行動が制限され、国宝『縄文の女神』の見学に行きづらい状況が続くことが想定されるため、縄文の女神の陶製レプリカを製作。各学校や公共施設等に展示することで、子どもや住民が身近に縄文の女神に触れる機会を増やし、郷土愛を育むことを目的としています」(舟形町まちづくり課企画調整係)

群馬県神流町】ARや映像、音声などで恐竜化石展示のガイドを行う専用アプリの開発/1787万5000円(うち一般財源5万5000円を含む)

コロナ対策との関連性については、「コロナ収束後に備えた活動や新しいチャレンジ。(交付金)活用事例集の“映像産業を軸とした観光・産業振 興と地域ブランディング事業”」と回答。事業目的は「経済活性化のため、恐竜化石という貴重な資源を活かし、ARや映像、音声などでガイドを行うアプリを製作し、幅広い集客チャレンジを図る」(神流町総務課)

■巨大イカモニュメントに2695万円

石川県能登町】巨大イカモニュメントを製作/2695万円(うち一般財源195万円含む)

「当町は、日本三大イカ釣り漁港として『能登小木港のイカ』が基幹産業となっております。ところがイカの不漁、コロナ禍で魚価も下落するなど、漁業の存続が危ぶまれる状況となりました。イカモニュメントは、国が示した(交付金)活用事例『3.経済活動の回復』の中の『地域の魅力磨き上げ事業』に該当するもので、コロナ禍が収束後に町内経済の回復に寄与することを目的として製作を行いました」(能登町ふるさと振興課)

広島県呉市】公共施設「グリーンピアせとうち」収入減の補塡/6322万6000円

「呉市の公共施設であるグリーンピアせとうちは、緊急事態宣言の発出等、新型コロナウイルス感染症の拡大による影響を受け、売上収入が大きく減少し、著しく運営に影響を来す状況となりました。

施設の維持管理を含めた公共施設の適切な事業継続のため、その指定管理者に対し、交付金を活用して支援金を給付したものです」(呉市企画部企画課)

広島県三次市】公用車10台購入:「マツダスクラムバン」5台、「マツダ3」3台、「マツダ2」2台/1612万6426円

「感染拡大により、令和2年春ごろには多くの産業が低迷し、広島県に本社を置くマツダ(株)も4月と5月の国内生産台数が前年比で約80%以上減少。自動車販売、関連部品等を製造する企業も大きな影響を受けました。交付金を活用しマツダ車を購入することで、低迷していた自動車産業を支援。地域経済、雇用そして地域活性化に好循環を生む契機の一つとなる事業であったと考えています」(三次市総務企画部企画調整課)

5つの自治体の回答はおおむね「コロナ後の経済回復」「地域活性」「地元企業支援」というものだった。コロナ感染予防の啓蒙活動、医療体制拡充など、必要な事業はほかにもありそうなものだが……。

■役場のエレベーター改修も交付金で!?

前出の「ワースト100事業」の中には、コロナ交付金がすっかり自治体の一般財源のように使われているケースも。

岩手県普代村では、交付金(1430万円)が「役場のエレベーターの改修費」に充てられている。

はたして、これでも“地方創生”といえるのだろうか?

「地方自治体の行政や議会が機能不全に陥っていると言わざるをえません。事業目的は後付けで、国からお金を取ってくることが最優先にされているという印象です」(前出・辻さん)

交付金の財源は国債や税金=私たち国民のお金だ。物価上昇、エネルギー高騰、円安など、家計負担が深刻さを極めるなか、これ以上の無計画なばらまきはどうかやめてもらいたい。