「励ましのつもりだったのに、なぜ?」。新人指導のなかでかけた一言が、思いがけず“ハラスメント”と受け止められてしまった……。


今回は、そんな価値観のずれを感じてしまった女性のエピソードをご紹介しましょう。

新入社員のボソボソ語尾が気になる

会社員の辻佳苗さん(仮名・30歳)は、4月に配属された男性新入社員・山田さん(仮名・23歳)の話し方が気になっていました。取引先や上司への受け答えでも語尾が崩れて聞こえることが多く、社会人としては見過ごせないと感じたといいます。

「滑舌があまり良くなくて、早口でボソボソ話しているせいもあるのですが、語尾が全部『~っす』と聞こえるんですよね。指摘してみたところ、本人的には敬語で『~です』と言っているつもりだと分かり驚きました」

新入社員にかけた“一言”がセクハラ認定されてショック!「褒め...の画像はこちら >>
悪気はなく、むしろきちんとしている“つもり”だと分かったからこそ、佳苗さんは頭ごなしに叱るのではなく、あくまでサポートする姿勢で関わろうと考えました。

「じゃあ、もっと口を大きく開いてハッキリゆっくり発音してみようか?」と、なるべく優しく接するようにしたといいます。

部署ではここ数年、新人が短期間で辞めてしまうケースが続いており、指導の仕方には特に神経を使っていました。

「なので、なるべく笑顔を心がけて『そうそう! 上手になってきたね』などと褒めながら指導するようにしていたんです」

つい付け加えた一言で、こんな事態になるなんて

しかし山田さんは、指摘されるたびに表情を硬くし、徐々に不機嫌さを隠さなくなっていきました。返事は小さく、視線も合わせてくれない。周囲が声をかけても無言で立ち去ることもあり、職場の空気は次第にぎこちなくなっていったそう。

それでも関係を悪化させまいとした佳苗さんは、空気を和らげようとして、指導の際につい余計な一言を付け加えてしまいました。

「『山田さんはイケメンでかっこいいんだから、敬語が使えて仕事がもっとできるようになれば、彼女もきっと喜ぶと思うよ』と彼を持ち上げるつもりで言ったら、露骨に不愉快な顔をされてしまって」

新入社員にかけた“一言”がセクハラ認定されてショック!「褒めて励ましただけなのになぜ?」
画像はイメージです(以下同)
その場は静かに終わりましたが、後日、山田さんはハラスメント窓口へ相談していました。「容姿や恋愛に触れるセクハラ発言を受けた」と訴えたのです。佳苗さんには事実確認の連絡が入り、最終的に上司から注意を受けることになりました。
記録上は“指導時の不適切発言”として扱われたそう。

佳苗さん自身は、相手を傷つけようという意図は全くありませんでしたし、むしろ励ましのつもりだったといいます。

「正直、この程度でセクハラ? と思いましたが……たしかに山田さんの見た目のことや、彼女のことなどプライベートに踏み込み発言をしてしまったのは良くなかったなと今では思っています。そして、子どもに話しかけているような言い方もしてはいけないと気づくことができました」

“受け止め方の違い”があることをまず理解

現在の職場では、「容姿」や「恋愛」といった個人的な領域に触れる発言はハラスメントと判断される可能性があります。かつては“褒め言葉”や“場を和ませるための冗談”と受け止められ、自分たちが先輩や上司に言われてきたかもしれませんが、考えをアップデートする必要があるのです。たとえ悪意がなくても、上下関係のある立場からの言葉はどんな内容も圧力になり得る……それが今の基準です。

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ハラスメント
佳苗さんの感覚は「悪気がなければ大きな問題にはならない」「励ますつもりなら伝わるはず」という時代のまま止まっていたのかもしれません。一方で山田さんは、「仕事の指導とは関係のない、容姿や恋愛の話題に触れられた」「子どものような失礼な扱いをされた」と感じた可能性があります。

今のコンプライアンスでは、どちらが正しい・間違いというよりも、そうした“受け止め方の違い”があることをまず理解し、その感覚を軽く扱わない姿勢が大切なのではないでしょうか?

相手の感じ方に耳を傾けながら、伝え方を見直していく

この一件以降、佳苗さんは山田さんへの言葉遣いの指導から手を引き、必要最低限の業務連絡しかしなくなったそうです。

善意や励ましのつもりでも、その受け止め方は人それぞれ。時代とともに、職場で求められる距離感や言葉選びも少しずつ変わってきていきます。

「これくらい大丈夫」と思っていた一言が、誰かにとっては重く感じられることもあるのかもしれません。だからこそ、相手の感じ方に耳を傾けながら、伝え方を見直していくことが、これからの職場ではより大切になっていくのではないでしょうか。


<文・イラスト/鈴木詩子>

【鈴木詩子】
漫画家。『アックス』や奥様向け実話漫画誌を中心に活動中。好きなプロレスラーは棚橋弘至。著書『女ヒエラルキー底辺少女』(青林工藝舎)が映画化。Twitter:@skippop
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