引っ越し先でいきなり“ちょっと怖い住人”に出会ってしまったら、あなたならどうしますか?

 今回は、そんな新生活の幕開けにいきなり出鼻をくじかれてしまった女性のエピソードをご紹介しましょう。

新生活のワクワクを切り裂いた怒鳴り声

 春のやわらかな空気に包まれた引っ越しシーズン。三枝菜穂さん(仮名・31歳)は、新居となるマンションの前で、運び込まれていく荷物を眺めていました。


「今日からここで暮らすのか、と新生活を想像してワクワクが止まりませんでしたね」

 見慣れない外観、まだ自分の匂いのしない部屋。これから始まる日々に胸を弾ませていた、その時……。

新居で遭遇した“怒鳴る住人”に恐怖…でも直後に知った「大声の...の画像はこちら >>
「ちょっと! ちょっと!」と甲高くよく通る声が響き渡りました。振り向くと、50代ぐらいの男性が大股で腕を大きく振りながら、一直線にトラックへと向かってきたそう。

「その男性は『おいおいおい! トラックそんなところに停めるなよ! もっとあっちに移動させろ』と有無を言わせない口調でまくしたてながらこちらを睨み、場の空気が一気に張り詰めたんですよね」

 引っ越しスタッフが驚いて頭を下げ「申し訳ありません、すぐ終わりますので」と謝ります。

「ですが男性は首を振り『そういう問題じゃない!』と食ってかかってきて、すごく怖かったんですよ」

 男性は腕を組み、険しい表情のまま一歩も引きません。まるでここが自分の縄張りであるかのような威圧感だったそう。その言い方はキツく、相当怒っているように見えたので菜穂さんは戸惑ってしまいました。

男性が怒った理由は何だったのか

「するとその時『どうしました?』と、白髪頭の管理人さんが様子を見に来てくれたんですよね」

 穏やかな声とともに現れた管理人は、慌てる様子もなく状況を見渡しました。菜穂さんが事情を説明すると、管理人はトラックの位置、そしてそのすぐ脇にある花壇へと視線を移し「なるほど」と呟いたそう。

 そして管理人はスタッフに優しく「もう少しだけトラックを前に動かせますか? そうしたら花も安心できそうなので」と言いました。

「スタッフはすぐに対応し、トラックを少し移動させてくれました。すると男性は、腕を組んだまま満足そうに頷いて『最初からそうすればいいんだ』と言って建物へ戻っていったんですよ」

 まるで嵐のように現れて、嵐のように去っていくその様は、相変わらずどこか不機嫌そうで、近寄りがたい空気をまとっていたそう。


 ほっと胸をなで下ろしながらも、菜穂さんの中にはまだ小さな不安が残っていました。

怖いと思った住人の「意外すぎる一面」

 その後ろ姿を見送ったあと、管理人は菜穂さんに『驚きましたよね』と申し訳なさそうに言ってきました。

「私は『ちょっと……このマンション大丈夫かなって思ってしまいました』と正直に言うと、管理人さんはくすっと笑って花壇を指差したんです」

 そこには色とりどりの花が、丁寧に手入れされた様子で並んでおり、まだ新しい土の匂いが残るその花壇は、どこか人の手の温もりが感じられました。

新居で遭遇した“怒鳴る住人”に恐怖…でも直後に知った「大声の理由」にホンワカが止まらない
※画像はイメージです
「管理人さんは『さっきの男性は、このマンションの“花壇係”のような存在でね。住人の子ども達と植えた花を、とても大切に育てていて、水やりも草取りも、全部彼が1人で担当しているんです』と教えてくれました」

 怒鳴り声の印象とは裏腹な一面に、菜穂さんは思わずハッとしてしまったそう。

「さらに『あの男性はせっかく可愛がっている花に、トラックの排気ガスが思いきりかかっていたのが許せなかっただけで……ちょっと言い方が不器用だけど悪い人ではないんですよ』と聞いて、驚いてしまって」

不器用な優しさがつないだ新生活

 あの強い口調の奥にあったのは怒りではなく、“守りたいもの”があったからこそ。さっきまで“怖い住人”に見えていた男性の印象がガラッと変わったそう。

「そして管理人さんが『このマンション、見た目より優しい人が多いんですよ。だから心配しなくても大丈夫ですからね』と穏やかに言ってくれて、私を安心させてくれたんですよね」

 春の風が花々を揺らし色とりどりの花びらが小さく揺れる。新生活へのワクワクを、もう一度感じられた菜穂さんなのでした。

<文・イラスト/鈴木詩子>

【鈴木詩子】
漫画家。『アックス』や奥様向け実話漫画誌を中心に活動中。好きなプロレスラーは棚橋弘至。
著書『女ヒエラルキー底辺少女』(青林工藝舎)が映画化。Twitter:@skippop
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