こうした食中毒について一定の知識があり、アルコール消毒など自己流の警戒や対策をしている家庭も多いだろう。しかし、時には「予想外の原因で食中毒に」「対策をしたつもりが無意味」といった可能性もけっしてゼロではない。このような危険性について、ミサクリニック六本木本院の院長・寺井美佐栄氏に話をうかがった。
鶏肉、卵、牛乳以外で気をつけるべきなのは…
寺井院長は美容皮膚科を本業とする一方、日常生活の習慣や環境が体調に与える影響について患者と話す機会が多く、特に食中毒を含む体調不良と食事保存などとの関係も強く実感しているという。まずは食中毒についての概要を寺井院長に説明していただいた。原因となる病原体(細菌・ウイルス・寄生虫など)は数多いが、なかでも以下の6つが代表的だ。(1) 黄色ブドウ球菌:手洗いの不徹底で感染の可能性、毒素が加熱しても分解されない
(2) ボツリヌス菌:土壌や砂中に分布、自然界でも最強の毒素を持ち危険、進行すると呼吸停止
(3) ノロウイルス:牡蠣など二枚貝で中毒事例、集団感染しやすく冬に多発
(4) 腸管出血性大腸菌(O157):加熱不十分の肉などから感染、死亡事例あり
(5) カンピロバクター(※細菌):生の鶏肉などから感染、まれに神経合併症(ギラン・バレー症候群)を起こす
(6) アニサキス(※寄生虫):刺身や生魚から感染、発症が数時間以内と早い
いずれも感染後に発症すれば腹痛・下痢・発熱・嘔吐など重篤な症状を引き起こし、とりわけ子供や高齢者にとっては危険である。こうした病原体をシャットアウトするにあたり、特に注意すべき食材や料理は何か。
「鶏肉や卵、牛乳および乳製品は皆さんイメージしやすいと思います。意外と油断できないのがカット野菜やサラダ。
「洗わない」と「放置」に要注意
続いて、食品を扱う日々の行動面については、どのようなポイントに気をつけるべきだろうか。「まず、生肉や魚は常温で長く放置しないように。買って帰る時も、エコバッグ内で汁漏れすると他食品に付いて、二次汚染を起こしかねないので気をつけてください。冷蔵時は食品の詰めすぎによる冷気の循環不足、過度な長期保存、不適切な温度設定が菌増殖の原因です。-15℃以下の冷凍なら細菌はほとんど活動停止しますが、自然解凍や再冷凍・再解凍の繰り返しに避けましょう」
このほか、調理中も気になる点は多い。肉や魚を切った後のまな板や包丁を、洗わないまま他の食材に使うと、菌が移る原因になりうる。加熱不十分な食材は内部に菌が残り、これも食中毒のもと。手洗いが不十分なまま調理や食事をすると、言うまでもないことではあるが、手についた菌が食材や口に移って不衛生。総じて「食材・料理を常温で長時間放置」「(食材・調理器具・手を)よく洗わない」が危険である。
対策をしても実は「効果が薄い」ケースも
ところで、食中毒を防ぐためにスプレーで調理器具などのアルコール消毒を行っている人もいるだろう。しかし、寺井院長が言う所によると、これでも病原体を100%防げるわけではない。「スプレーする対象によってはアルコール消毒の効果が弱く、特にノロウイルス感染症などはアルコールが効きにくいことで知られています。『アルコール消毒さえしていれば大丈夫』という思い込みは危険です。
また、食材にはそれぞれ消費期限が設定されている。過度に時間が経った食品での食中毒リスクを減らすうえで大事な目安だが、かといって消費期限内であれば大丈夫とも限らない。
「表示されている期限は、適切な保存状態が保たれている状況が前提です。持ち歩きや常温放置をしていた場合、その前提は崩れてしまいます。購入後は速やかに冷蔵し、持ち歩きが長い日は保冷剤・保冷バッグを使いましょう。開封後は期限に関わらず早めに消費してください」
また、病原体を滅菌するうえで、しっかりと食材に火を通すことは確かに大切ではある。しかし、火を通しさえすれば問題なしと考えるのは早計だ。
「チャーハンやパスタのような火を通した食品も、意外と食中毒の原因としてよく知られています。原因となる菌は自然界に広く存在し、加熱後も芽胞の形で残る場合があり、作ったあと室温で放置すると増殖して毒素を作ります。『一度火を通しているから安心』とは言い切れません」
レジャーに潜む“菌増殖”のリスク
このほか、夏季のレジャーについて特に顕著となる食中毒リスクと、その対策も寺井院長に訊ねたところ、以下のとおりであった。(1) 山のハイキングやキャンプ
リスク:保冷不十分な食品を長時間持ち歩くと、食品の温度が上がって菌増殖しやすい。
対策:保冷剤・保冷バッグを活用し、調理後早めに食べるか、できるだけ現地調理。
(2) 海や川での釣り
リスク:釣った魚を常温で放置すると、鮮度が急速に低下。
対策:釣った直後すぐ締めて内臓を処理し、氷やクーラーボックスで速やかに冷却。生食は避け、十分に加熱。
(3) 野外でのBBQ、グランピング
リスク:生肉の加熱不足やトング・箸の使い回しによる交差汚染が起こりやすい。鶏肉であればカンピロバクター食中毒などの原因にも。
対策:生肉用と食べる用で器具を分ける/中心までしっかり加熱する。
(4) 屋外フェス、大規模イベントなど
リスク:ケータリングなどで購入後、すぐに食べず長時間持ち歩くと食品の温度管理が不十分に。手指の衛生状態も悪化しやすく、ノロウイルスの可能性も。
対策:購入後はできるだけ早く食べ、食前に手指消毒や手洗いを徹底。
ここまで紹介してきた内容を意識しておけば、食中毒に陥る可能性を大きく下げられるはずだ。参考にしていただければ幸いである。
デリバリー普及がもたらす危うさ
「例えば、2020年以降の新型コロナウイルス流行では、外食・外出の機会が激減したため「Uber Eats」などアプリによる出前・宅配が一般化しました。しかし、これも調理後から喫食までの時間が長くなったり、温度管理が不十分だったりすると、食中毒の危険性が高まります。ほかには健康志向の高まりによって食品の低加熱や生食がもてはやされる傾向もありますが、これも一定のリスク要因となり得ます」
その反面、食品の冷蔵・冷凍技術やパッケージング技術も確実に進化しており、細菌の増殖を抑える工夫は進んでいる。従来より安全に食品を扱える環境は一般家庭レベルでも整いつつあるが、こうした中で食中毒を避けるために最も大切なことを、寺井院長へ最後に質問した。
「食中毒対策は普段の基本習慣の積み重ねが何より重要。食品保存や衛生管理の技術は進歩していますが、最終的に健康を守るのは日々の基本的な意識です。温度管理・時間管理・衛生管理といった基本を大切にしましょう。正しい知識をもとに、安心して食事を楽しみながら、内側から整った健やかな状態を維持していただければと思います」
ただでさえ暑さによって体力を奪われ、体調も崩しがちな夏場に、食中毒までもらってしまっては目も当てられない。まずは身近な所から用心しておこう。
<取材・文/デヤブロウ>
【デヤブロウ】
東京都在住。2024年にフリーランスとして独立し、ライター業およびイラスト業で活動中。
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