“外務省のラスプーチン”と呼ばれた諜報のプロが、その経験をもとに、読者の悩みに答える本連載。今回はトランプ大統領の指示によるベネズエラ急襲と変わりゆく国際秩序について。
米軍のベネズエラ急襲で国際秩序は変わったか?
★相談者★空(ペンネーム) 会社員 39歳 男性新年早々にトランプ大統領の指示のもと、米軍がベネズエラを急襲、マドゥロ大統領と夫人を拘束したことがいまだに自分の中で消化しきれません。常識的に考えれば、完全なる侵略行為ですが、経済を崩壊させて国民を不幸にした独裁者がトランプ政権によって排除されたことを喜んでいるベネズエラ国民がいるのも事実でしょう。「犯罪者と薬物をアメリカに送り込んだテロリスト」という言い分で他国の元首を拉致するのがアリなら、米軍はどんな国でも侵略できるでしょう。一般の人は、今回の問題を国際法の視点から見るべきか、それともベネズエラ国民の視点で見るべきか、それともトランプ政権のもとで変わる新たな国際秩序の世界という視点で見るべきか、どうしたらいいのかアドバイスをください。
佐藤優の回答
1月初めに起きたアメリカのベネズエラ攻撃は世界を震撼させました。今回の事態は、あなたが言う「新たな国際秩序の世界という視点」で見るのがいいと思います。ベネズエラのマドゥロ大統領夫妻の拘束と関連して、1月4日、大統領専用機内で行われたトランプ大統領の発言のうち、以下のくだりがとても興味深いです。〈ベネズエラへの攻撃との整合性を問われると「(批判してきたのは)地球の裏側の国への介入だ。ベネズエラは我々の領域だ。それが(西半球での権益確保を追求する)『ドンロー・ドクトリン』だ」と述べた。かつて米国が南北米大陸と欧州大陸の相互不干渉を訴えた「モンロー主義」に、自らの名前「ドナルド」を加えてもじった表現だ。〉(1月5日朝日新聞デジタル版)
モンロー主義には、棲み分けに基づく帝国主義という要素があります。
実を言うと、トランプ氏によく似た考えで戦争外交を展開したのが大日本帝国です。日本で総力戦体制構築の設計図を書いた一人である永田鉄山の戦略思想が興味深いです。
〈永田鉄山による国家総力戦体制論(国家総動員論)に示されるのは、ジレンマに満ちた国家像である。ひとたび総力戦が開始されると、国家の存続、国民の安全のためには、その国の軍事、経済、政治、社会生活、文化などのすべてを動員して戦わなければならない。これが「総力戦」の出発点のはずである。ところが、総力戦を前提とすると、「国民と国家を守るための戦争」であるはずのものが、「戦争のための国家」へと反転してしまう。
国家と国民を防衛するための戦争によって、「戦争のための国家」に変貌しまったのが現在のロシア、ウクライナ、イスラエルです。今回、アメリカもその仲間に入りました。戦争ではなく、外交で勢力均衡を維持するのが日本の取るべき道です。
★今週の教訓……米国の軍事介入を最も喜んでいるのはロシア
―[佐藤優のインテリジェンス人生相談]―
【佐藤優】
’60年生まれ。’85年に同志社大学大学院神学研究科を修了し、外務省入省。在英、在ロ大使館に勤務後、本省国際情報局分析第一課で主任分析官として活躍。’02年に背任容疑で逮捕。『国家の罠』『「ズルさ」のすすめ』『人生の極意』など著書多数
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