2026年4月2日の朝、英ウェールズ南部のバンナイ・ブラヘイニョグ(ブレコン・ビーコンズ)国立公園近くの農園で、スコットランドマツの種が植えられた。
この播種は、これから始まる新たな森林の育成の最初の一歩であり、今後はさらにブナなどの英国原産の樹木4,500本が植えられることになっているという。
だがこれだけなら、よくある森林保護活動の一環であり、そこまで注目することでもないかもしれない。
今回の取り組みが特殊なのは、この森林の育成には、イギリス中のイベント会場から詰められた、人間の「尿」が肥料として使われるからなのだ。
フェス会場のトイレで集めた尿をその場で肥料に
人間の尿を肥料にする技術は、ブリストルを拠点とするスタートアップ企業NPKリカバリー社[https://npkrecovery.co.uk/]が開発したものである。
同社はロンドンマラソンや音楽フェスなどの会場に設置された携帯型コンポストトイレから数千リットル単位の尿を回収し、無臭の肥料へと加工している。
2025年4月、同社はTCSロンドンマラソンの女性用小便器から1,000リットルの尿を回収し、肥料に加工した。
さらに2025年7月には、ハンプシャーで開催された野外音楽フェスの会場に、2m×6mの小型ユニットに収めた独自の移動式処理システムを持ち込んだ。
そして700人の参加者が利用するトイレに装置を接続。尿を回収するだけではなく、イベント会場で肥料への加工までやってしまうというチャレンジを成功させた。
NPKリカバリー社の共同創設者ルーシー・ベル=リーブスさんは、同社のユニットのコンセプトについて次のように説明している。
たくさんの人が集まるフェスでは、多くの尿や廃棄物が発生します。現状ではそのほとんどがタンクローリーで運ばれ、下水処理へ回されています。そしてその一部は、最終的に川や海へ流れ込んでしまいます。
私たちのシステムでは、タンクローリーでの輸送は必要ありません。トイレで回収された尿をその場で処理し、肥料として再利用します。排水として水環境を汚すのではなく、資源として循環させるのです
その場で加工することにより、イベントで発生する下水の量を軽減し、化学薬品の使用量を最小限に抑えることができるというわけだ。
化学薬品を使わず細菌の力のみで分解
まず会場に設置されたコンポストトイレから、尿だけを分離して回収する。この時点で固形物は取り除かれ、扱いやすい液体だけになっているそうだ。
次にその尿を専用の装置に直接ポンプで送り、自然の細菌を使って分解を進め、窒素やその他の天然由来の栄養素を回収する。
その後、処理された液体を加熱して水分を減らし、濃縮する。こうして体積を減らしつつも、栄養分を残した状態に保つのだ。
トイレの裏にあるタンクから、尿を直接汲み上げています。装置がきちんとすべての尿を処理できる状態かどうか、いくつか確認も行います。
その後、尿は複数のタンクへと送られます。私たちのプロセスでは化学薬品は使いません。自然の細菌だけを利用しています
工程では、土壌の健康を改善する持続可能な素材であるバイオ炭も使用。そして最終的にでき上がるのが、窒素・リン・カリウムを含んだ、無臭の液体肥料である。
細菌による処理を終えたあとは加熱処理を行い、体積を減らして、最終的な肥料製品へと変えていきます。最終的にできあがるのは、このような見た目の肥料です
作物への試験が終わり、次は森林へ
これまでNPKリカバリー社は、尿から作った肥料を使って、小麦などの作物を育て、肥料として機能するかの実証試験を重ねてきた。
その結果、同社の肥料は一般的に使用されている代替肥料と同等の効果があることが示されたと、ルーシーさんは説明している。
そして今回、ウェールズで始まったのは、樹木に対する効果を確認するための、3年にわたる実証試験なのである。
このプロジェクトはイギリスの森林委員会(The Forestry Commission)[https://www.gov.uk/government/publications/tree-production-innovation-fund-funded-projects/successful-projects-2025]から435,627ポンド(約9,400万円)の助成金を受けて進められている。
その一環として、同社は作家でありサイクリストでもあるロブ・ペン氏が共同設立した慈善団体「Stump up for Trees[https://stumpupfortrees.org/]」と提携することになった。
この団体は過去5年間で、この地域に50万本以上の木を植えており、景観回復のために目標とする100万本の植樹の半分を達成したという。
今回のプロジェクトは、短期間で育つ作物ではなく、長い寿命を持つ樹木に対してこの技術を試験的に適用する初めての試みとなる。
廃棄物を利用して木を育てるというのは、衰退しつつある在来種をよみがえらせる、循環型の解決策だと考えています。
作物や樹木の成長に必要な栄養素をトイレに流してしまうのではなく、肥料として活用する方向へ切り替えるべきです。
そうした資源を使うことで、肥料の供給を安定させることにもつながります。そもそも、尿が不足することはまずありませんから。
3年間のプロジェクトが終わるころには、フェスの参加者たちが生み出した資源によってウェールズに若い森が育ち、今後何百年も繁栄していくかもしれないというアイデアは素晴らしいですよね
排泄物をそのままガーデニングに使うのはNG
たしかに人間が存在している限り、生理現象がなくなることはないのだから、排泄物は決して枯渇することのない素晴らしい資源だと言えるかもしれない。
今回の取り組みがメディアやSNSで拡散されると、「尿から肥料を」というアイデアに接したユーザーからは、さまざまなコメントが寄せられていた。
- 同じ会社かはわからないけど、フェスで似たやつ使ったことある。完全に無臭ではないし、穴の中を見るのはちょっと精神的にくるものがあるよね。でも仮設トイレと同じくらいには使えるし、詰まらないのはいいと思う
- アイデアとしては最高だよ。使える資源が文字どおり垂れ流しになってるわけだし。ただ、飲んだくれているフェスの客の尿からニオイを消すために何か加えてるなら、それが植物にいいとは思えない。無臭だって言い切るのは、ちょっと気になるんだ
- 意外と「おしっこ臭い」って感じはしなかったよ。たぶん液体がタンクに流れて、ほぼ毎日抜かれてたからだと思う
- いい取り組みではあるけど、まだポテンシャルをフルに活かしきれてない気がする
- 尿素の価格が上がってる今、この発想はかなり持続可能で賢いと思う
- でも、もうちょっとプライバシーに配慮した設備はなかったの?
- 全然いいアイデアだとは思えないよ。人間の排泄物が安全な肥料になるわけないよ
- その木は、コカインとかMDMA入りの尿で肥料もらって大喜びだろうな
- 現地で処理してるのはいいと思う。ただ1つ疑問。フェスって薬とかやってる人も多いよね? 化学物質の汚染って、事前に処理とかしてるの?
- 医薬品を摂取している人の尿には、微量の薬物残留物が含まれる可能性があります。ただし研究では、細菌処理や紫外線、加熱などによって、こうした化学物質は非常に低いレベルまで分解されることが示されています。
仮に尿由来の肥料で育った作物から医薬品として意味のある量を摂取しようとすると、何千食分も食べる必要があります。現在、この点についてはウェスト・オブ・イングランド大学と共同で研究を進めており、今後も継続していく予定です(ルーシーさんコメ)
かつての日本では、人間の排泄物を肥溜めで発酵させたものが、貴重な肥料として使われてきた歴史もある。
だが細菌や寄生虫、ハエの発生といった衛生面の問題も大きく、今ではとんと見かけなくなった。
なお、ガーデニングのために庭でトイレを済ませることは、決して良い考えではないと、ルーシーさんは警告している。
尿には優れた栄養素が含まれていますが、同時に病原菌や汚染物質など、安全とは言えない成分が含まれていることもあるんです
特におしっこをそのまま植物にかけると、枯れてしまうこともあるらしいので、安易に庭で試してみるのはやめておいた方がいいと思う。
References: Urine From Music Festival Toilets is Fertilizing a New Biodiverse Forest With Odor-Free Nutrients[https://www.goodnewsnetwork.org/urine-from-music-festival-toilets-is-fertilizing-new-forest/]











