2023年にアラスカ沖の深海底で発見された、謎の金色をしたぷよぷよの球体「ゴールデンエッグ」の正体が、2年半の調査を経てついに判明した。
米国立海洋大気庁(NOAA)とスミソニアン国立自然史博物館の科学者たちが形態解析とDNA解析を組み合わせた結果、深海に生息するイソギンチャクの一種が岩に付着するための基部の残骸だったことがわかった。
この研究成果はNOAAが『bioRxiv[https://www.biorxiv.org/content/10.64898/2026.04.17.719276v1.full]』(2026年4月17日付)に発表し、現在査読の準備を進めている。
アラスカ深海で発見された謎の金色球体「ゴールデンエッグ」
2023年8月、米国立海洋大気庁の深海調査プロジェクト「Seascape Alaska 5」の調査中に、調査船オキアノス・エクスプローラーから遠隔操作の無人探査機が水深3,250mの海底に送り込まれた。
探査機のカメラが捉えたのは、岩に張り付いた直径約10cmの金色をしたオーブ状の球体だった。表面は皮膚のような質感を持ち、上部には穴が開いていた。
当時カラパイアでもこの発見を紹介し、大きな反響を呼んだ。
科学者たちは死んだ海綿動物か、何かの卵の殻ではないかと推測するにとどまり、正体はまったくわからなかった。
探査チームのメンバーは、触れたときに何かが飛び出してこないよう祈るばかりだと語り、当時の困惑をよく表していた。
球体はその後、吸引装置で慎重に採取され、スミソニアン国立自然史博物館へと送られた。
解明は予想以上に難航
スミソニアン国立自然史博物館に届いた球体の分析は、すぐには結論が出なかった。
NOAA水産局の動物学者で国立分類学研究所の所長を務めるアレン・コリンズ博士は、通常の分析プロセスで謎は解けると考えていた。
しかしこの球体は、形態学、遺伝学、深海生物学、バイオインフォマティクス(生物学のデータをコンピューターで解析する学問)など、複数の専門分野にまたがる複雑なケースだった。
そこで科学者たちはまず、球体の物理的な構造を調べた。
球体には典型的な動物の器官が見当たらず、繊維状の素材に刺胞細胞:外敵を攻撃したり獲物を捕らえたりするための特殊な細胞)が多数含まれていた。
この特徴から、クラゲやサンゴ、イソギンチャクなどが属する刺胞動物の仲間である可能性が浮上した。
さらに詳しく調べたところ、スピロシスト(spirocyst)と呼ばれる特定の細胞が確認された。
スピロシストはイソギンチャクやサンゴの触手に存在する細胞内小器官で、糸状の構造を放出して獲物の捕獲や付着に使われる。
この細胞はイソギンチャクやサンゴが含まれる六放サンゴ亜綱[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%AD%E6%94%BE%E3%82%B5%E3%83%B3%E3%82%B4%E4%BA%9C%E7%B6%B1]というグループにしか存在しないものだ。
次にDNA分析が行われたが、球体の表面に付着していた他の微小生物のDNAが混入したため、最初の結果は不確定なものになった。
そこで全ゲノム配列解析という、生物が持つすべての遺伝情報を読み解く手法に切り替えた。
そこでようやく動物のDNAが確認され、深海イソギンチャクの遺伝物質が大量に含まれていることが判明した。
また、2021年にシュミット海洋研究所の調査船ファルコー(R/V Falkor)の遠征で採取されていた別の類似標本も合わせて分析したところ、同様の細胞構造が確認された。
正体は深海イソギンチャクの基部だった
2つの標本のミトコンドリアゲノム(細胞内のミトコンドリアが持つDNAで、種の同定に広く使われる)を解析した結果、既知の深海イソギンチャクの参照ゲノムとほぼ一致した。
こうして2年半にわたる謎がついに解けた。
球体の正体は、深海イソギンチャクの一種「リリカンサス・ダフネアエ(Relicanthus daphneae)」が岩に付着するために使う基部(きぶ)の残骸だった。
イソギンチャクは体の底部に岩などにくっつくための基部を持っており、移動する際や死んだ後にその基部だけが残されることがある。
今回発見された金色の球体は、まさにその残骸だったのだ。
球体に開いていた穴については、イソギンチャクが移動した跡か、あるいは捕食者が侵入した痕跡である可能性が考えられているが、詳細はまだわかっていない。
リリカンサス・ダフネアエは紫やピンク、赤色の触手を持つ巨大な深海イソギンチャクで、同種の個体が黄金色の基部の上に存在することはこれまでにも確認されていた。
ただし、イソギンチャクの上部がなく、基部だけの状態で発見されたのは今回が初めてのケースだった。
深海にはまだ多くの謎が残されている
NOAAは今回の成果について、深海探査の意義を改めて示すものだと位置づけている。
NOAA海洋探査局の局長代行であるウィリアム・モウィット大尉は、DNA配列解析などの高度な技術によって深海の謎をより多く解き明かせるようになっていると述べた。
海の資源が経済成長や国家安全保障、地球環境の持続可能性にどう貢献できるかを理解するためにも、探査を続けることが重要だと強調した。
NOAAによると、海洋に生息する動物種のうち、約91%はまだ人類に発見・分類されていない[https://oceanservice.noaa.gov/facts/ocean-species.html]という。
ゴールデンエッグの正体はイソギンチャクの基部の残骸であることがようやくわかったが、地球の深海にはまだ大量に無数の謎が眠っているのだ。
References: Scientists reveal identity of mysterious ‘golden orb’ collected during NOAA expedition[https://www.noaa.gov/news/scientists-reveal-identity-of-mysterious-golden-orb-collected-during-noaa-expedition]











