太陽系の端に位置する冥王星よりもさらに外側の宇宙空間には、無数の小天体「太陽系外縁天体」がある。
そのひとつ「2002 XV93」に大気が存在することが、国立天文台の有松亘講師率いる研究チームにより確認された。
これは、日本国内の複数地点から観測を行ったことで発見したものだ。
直径約500kmというこの小天体は理論上、大気を保持できるサイズではなく、なぜ大気が存在するのかは謎のままだ。
この研究成果は『Nature Astronomy[https://www.nature.com/articles/s41550-026-02846-1]』誌(2026年5月4日付)に掲載された。
小さすぎて大気が持てないとされてきた太陽系外縁天体
太陽系には8つの惑星があるが、その外側にも無数の小天体が存在している。
海王星の軌道より外側に広がるこの領域に漂う天体を「太陽系外縁天体」と呼ぶ。現在までに数千個が確認されており、準惑星である冥王星もその一つだ。
太陽系外縁天体は太陽から非常に遠く、表面温度はマイナス220℃以下という極低温の世界だ。
活動や変化がほとんどなく、長い間「静かで死んだような世界」と考えられてきた。
冥王星には地球の10万分の1程度のわずかな大気があることが知られているが、他の太陽系外縁天体では大気はまったく見つかっていなかった。
冥王星は直径2,377kmと比較的大きく、表面重力もある程度強いため大気を保てると考えられてきたが、それより小さな天体での大気の保持は不可能と思われていた。
日本3か所の観測で大気の存在を確認
2024年1月10日、海王星軌道の外側の軌道を公転しているエッジワース・カイパーベルト内に位置する太陽系外縁天体「2002 XV93」が、遠くにある恒星の手前を通過するという現象が起きた。
2002 XV93は2002年に発見された太陽系外縁天体で、冥王星と同じく海王星との軌道共鳴によって冥王星族に分類される。
直径は約500kmと冥王星の5分の1ほどで、観測時には地球から約55億km、地球と太陽の距離の約37倍という遠方に位置していた。
表面温度はマイナス226℃と推定され、極めて過酷な環境にある小天体だ。
これを「恒星食」という。月が星を隠す現象と同じ原理で、天体が恒星の前を横切ることで星の光が遮られる。
国立天文台石垣島天文台の有松亘講師が率いる、プロとアマチュアの天文家からなる研究チームは、この恒星食を京都市、長野県木曽町、福島県三春町の3地点から同時に観測した。
もし2002 XV93に大気がなければ、恒星の光は天体の固体表面に隠れた瞬間に突然消えるはずだ。
ところが長野県木曽町の観測では、恒星が隠され始める時と背後から出現する時の両方で、約1.5秒間にわたって星の明るさが徐々に変化した。
福島県三春町の観測では、恒星が天体の縁をかすめるように通過したが、やはり緩やかに暗くなった後に元の明るさへ戻った。
この緩やかな明るさの変化は、光が薄い大気の層を通過する際にわずかに屈折し、減衰したことを示している。
データを詳しく解析した結果、2002 XV93には冥王星の100分の1ほどの気圧を持つ、極めて薄い大気が存在することが明らかになった。
地球の大気圧と比べると約500万~1000万分の1という、想像を絶するほど薄いものだ。
天体が小さすぎて大気は1000年以内に消える
2002 XV93の直径は約500kmで、冥王星の5分の1ほどしかない。
天体が小さければ小さいほど表面重力は弱くなり、大気を構成するガスの分子が宇宙空間へ逃げ出すのを引き留めることができない。
計算によれば、2002 XV93の大気は何も補充されなければ1000年以内に宇宙空間へ散逸してしまうという。
今観測された大気は、はるか昔から存在していたものではなく、ごく最近になって何らかの原因で生まれたか、補充されたものでなければならない。
ではその大気はいつ、どのようにして生まれたのだろうか。
ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による観測では、2002 XV93の表面に大気の材料となりうる凍結ガスの痕跡は確認されなかった。
太陽熱によって表面の氷が蒸発し大気を作り出すというシナリオは成り立たない。
大気の成分としては、メタンや一酸化炭素といった揮発性の高い物質が有力視されているが、詳細はまだ解明されていない。
天体衝突か内部ガスか、大気誕生の2つの仮説
現時点で研究チームが考える大気の起源は、大きく2つのシナリオに絞られている。
1つ目は、天体内部からのガス放出だ。2002 XV93の内部深くには、現在も凍結または液体の状態でガスが存在している可能性がある。
何らかの地質活動や内部の熱によってガスが表面へと運ばれ、大気を形成したというシナリオだ。
もしこれが正しければ、太陽系外縁天体が「静かで変化のない世界」という従来の見方は大きく覆されることになる。
2つ目は、彗星の衝突だ。
彗星は氷と岩石でできた小天体で、太陽に近づくと熱でガスを放出して尾を引くことで知られている。
そのような彗星が比較的最近、2002 XV93に衝突し、大量のガスを放出して一時的な大気を形成したという可能性だ。
どちらのシナリオが正しいかを判断するには、さらなる観測が必要だ。
有松講師は「太陽系外縁天体が活動性や変化のほとんどない世界だという従来の見方を覆した発見で、今後の追観測によりこの大気がどのようにして生まれたかを解明するとともに、他の太陽系外縁天体でも大気の有無を調べていきたい」と語っている。
太陽系の果てに眠る無数の小天体には、まだまだ不思議と謎が盛りだくさんのようだ。
まとめ
この研究でわかったこと
・冥王星以外の太陽系外縁天体に、初めて大気の存在が確認された
・発見された大気は地球の約500万~1000万分の1という極めて薄い
・天体が小さすぎるため、大気は補充がなければ1000年以内に消えてしまう可能性まだわかっていないこと
・大気がどのようにして生まれたのか
(天体内部からのガス放出か彗星衝突か)
・大気の成分はメタンや一酸化炭素と推測されるが、詳細はまだ不明
・他の太陽系外縁天体にも大気が存在するかどうかは不明
References: Nature[https://www.nature.com/articles/s41550-026-02846-1] / Outer solar system object has an atmosphere but shouldn’t[https://www.eurekalert.org/news-releases/1126619] / 冥王星以外で初めて、太陽系外縁天体に大気を発見[https://www.nao.ac.jp/contents/news/science/2026/20260505-prc-detail.pdf]











