ギザの大ピラミッド建設法を再現。建造物内部の謎の「空洞」との新たな関連性を明らかに
Image by Istock <a href="https://www.istockphoto.com/jp/portfolio/IslamMoawad?mediatype=photography" target="_blank">Islam Moawad</a>

ギザの大ピラミッド建設法を再現。建造物内部の謎の「空洞」との...の画像はこちら >>

 ギザの大ピラミッドはどのように建てられたのか。この4500年来の謎に、スペインの独立研究者がコンピューターシミュレーションで挑んだ。

 ピラミッドの縁に沿ってらせん状に延びる多重の傾斜通路という建設モデルをはじめて数値的に再現することに成功した。

 さらにこのモデルは、内部に存在する謎の「空洞」の位置とも一致することが判明し、空洞の正体は傾斜通路を埋め戻した跡だった可能性があるという。

この研究成果は『npj Heritage Science[https://www.nature.com/articles/s40494-026-02405-x]』誌(2026年3月7日付)に掲載された。

クフ王の大ピラミッド建設の謎

 紀元前2560年ごろ、エジプトのギザに建てられたクフ王の大ピラミッドは、ギザに並び立つ三大ピラミッドの中で最大の石造建造物だ。

 もとの高さ146.5m(現在は138m)、底辺230mという圧倒的なスケールを持ち、カフラー王、メンカウラー王のピラミッドとともにギザ台地にそびえ立っている。

 推定230万個の石灰岩と花崗岩のブロックで構成されており、古代世界の七不思議のひとつに数えられ、現在も残る唯一の建造物でもある。

 最大の謎は、どうやってこれほどの建造物を完成させたかだ。

 クフ王の治世は約27年とされており、その期間内に建設を終えるには、1~3分に1個というペースでブロックを積み続ける必要があったと計算されている。

 これまでの有力説は「巨大な傾斜通路を外側に作り、石を引き上げた」というものだった。

 しかしこの説には致命的な弱点がある。

 傾斜通路を作るための大量の資材が使われたはずなのに、その痕跡が周辺からほとんど発見されていないのだ。

 また傾斜通路が高くなるほど角度が急になり、重いブロックを引き上げる作業効率が大きく下がるため、一本の外部傾斜通路で建設するには少なくとも50年かかると試算されている。

 クフ王の27年という治世とは、どう考えても合わない。

謎は謎のまま、4500年が過ぎた。

[画像を見る]

傾斜通路はピラミッド内部に組み込まれているとする新説

 スペインのバレンシアの独立研究者、ビセンテ・ルイス・ロセル・ロイグ氏は、従来の説が抱える矛盾に気が付いた。

 「傾斜通路を外につくるなら、なぜその痕跡がないのか」。

 その謎を探るべく、手書きのスケッチから本格的な3Dコンピューターシミュレーションへと研究を発展させた。

 ロイグ氏が着目したのは、傾斜通路をピラミッドの外ではなく、建造物の4つの縁に沿って内側に組み込むという発想だ。

 ピラミッドを積み上げながら縁に沿ってらせん状の傾斜通路を建設し、完成に近づくにつれて順番に埋め戻していく。

 傾斜通路が建造物の一部として組み込まれているため、完成後に撤去しても外部に残留物が生じない。

 これがこれまでの説で説明できなかった「痕跡がない理由」への答えだ。

 ロイグ氏はこの仮説を「統合エッジランプ(IER)モデル」と名付け、手書きのスケッチから本格的な3Dコンピューターシミュレーションへと発展させた。

 ブロック1個単位で建設プロセスを再現できる環境を構築し、条件を変えながら数値的な検証を重ねた。

[画像を見る]

複数の傾斜通路を並行稼働させ27年以内の建設を可能に

 IERモデルの核心は、ピラミッドの4面すべての縁に傾斜通路を設け、複数の経路で同時に作業を進める並行建設にある。

 一本の傾斜通路しかない従来説では、石を運ぶ経路が詰まれば作業全体が止まってしまう。

 4辺同時進行なら最大16本程度の傾斜通路を活用でき、下層部の広い作業台では複数の経路が同時に機能する。

 建物が高くなり作業スペースが狭まるにつれて傾斜通路の本数を柔軟に減らしていく仕組みだ。

 4mをやや下回る幅の傾斜通路は、石を乗せたそりと空のそりが同時にすれ違える双方向仕様になっている。

 ただし角を90度曲がる箇所では、そりをいったん止めて方向を変える必要があるため、作業の流れが滞りやすい。

 ロイグ氏はこの問題を解決するために、角の部分に広い踊り場を設けてチームが安全に方向転換できるようにすると提案している。

 踊り場も傾斜通路も、建設の進捗に合わせて撤去する。

 シミュレーションの結果、この方法で大ピラミッドの主要建設を14年以内に完了できることが示された。

 石の採掘や運搬、季節的な作業休止期間を加味すると20~27年となり、クフ王の治世とも符合する。

この発想には考古学的な裏付けもある。

 エジプト中部のハトヌブ採石場では、古代エジプト人が岩盤に直接傾斜通路を刻み、荷重を分散するための杭穴を設けた痕跡が確認されている。

 またエジプト・ソハーグ県にある第5王朝時代のシンキ・ピラミッドでは、4面に1本ずつ計4本の垂直傾斜通路の跡が残っており、多面同時建設の先例として研究者たちの注目を集めている。

[画像を見る]

重さ50tの花崗岩をどう高所まで運んだか

 大ピラミッドの内部には、石灰岩のブロックだけでなく、王の間の天井を支える巨大な花崗岩の梁も使われている。

 重さは1本あたり50~80tにも及ぶ。これをピラミッドの高所まで運び上げる方法も長年の謎のひとつだった。

 IERモデル仮説はこの難問にも答えを用意している。

 下層部の広い作業台に短くて解体・再利用が可能な傾斜通路を設置し、キャプスタンと呼ばれる重い荷物をロープで巻き上げる回転式の装置を使って、花崗岩の梁を段階的に運び上げるという方法だ。

 シミュレーションでは、作業台には花崗岩専門のチームが動けるだけの十分なスペースがあり、通常の石灰岩ブロックの運搬を妨げないことも確認されている。

 2011~2013年にエジプトの紅海沿岸で発見された現存最古のパピルス文書「ワディ・アル・ジャルフのパピルス[https://en.wikipedia.org/wiki/Diary_of_Merer]」にも、ピラミッドの建設者たちがナイル川と運河を使って石材を運んだという記録が残っており、モデルが示す建設期間とも整合する。

[画像を見る]

建設モデルが示す空洞との新たな関連性

 IERモデルが明らかにしたのは建設方法だけではない。ピラミッド内部に存在する謎の空洞との一致も浮かび上がってきた。

 2016~2017年、カイロ大学とフランスのHIP Institute(文化遺産革新保全研究所)が共同で実施したScanPyramidsプロジェクトは、ミュオントモグラフィーという技術でピラミッド内部を調査した。

 ミュオンとは宇宙から降り注ぐ素粒子の一種で、物質を透過する性質をもつ。

 X線CTスキャンの巨大建造物版とも言えるこの技術によって、大ピラミッドの内部に大きな空洞と複数の小さな空間の存在が確認されていた。

 ロイグ氏がシミュレーションで予測した傾斜通路の経路と、ScanPyramidsが検出した空洞の位置を重ね合わせると、両者は高い精度で一致した。

 ロイグ氏はこの一致について「傾斜通路を埋め戻した際の密度の差によって生じた異常と矛盾しない」と論文に記している。

 謎の空洞は、建設後に傾斜通路を埋め戻した跡である可能性があるということだ。

 ただし「現時点では他の説明も排除できない」とも慎重に付け加えており、確定的な結論ではない。

 カラパイアでは、クフ王の大ピラミッドや、メンカウラー王のピラミッド内部にも空洞があることを以前にお伝えした、ピラミッドの「見えない内部」への関心が高まる中、IERモデルはこうした発見を読み解く新たな視点を提供している。

[画像を見る]

大ピラミッドの謎解きが古代建築研究を変える

 ロイグ氏が開発したシミュレーションプログラムは、カフラー王のピラミッド、メンカウラー王のピラミッド、ダハシュールにある赤いピラミッドや屈折ピラミッドなど、他の古代建造物の建設理論にも応用できる汎用ツールだ。

 傾斜の角度や配置といった条件の数値を入れ替えるだけで、異なる構造物の建設仮説を検証できる仕組みになっている。

 コードとデータはオープンアクセスの学術データ共有プラットフォーム「Zenodo[https://zenodo.org]」で公開されており、世界中の研究者が自由に検証・活用できる。

 ロイグ氏は「古代の建設者たちは単に石を動かしていたのではなく、複雑な最適化問題を解いていたのだ」と述べる。

 4500年前の建設者たちが直面した課題は、現代のエンジニアが取り組む問題と本質的に変わらない。

 道具も機械もない時代に、人間の知恵だけでその答えを導き出していた可能性を、このシミュレーションは初めて数字で示したものだ。

まとめ

この研究でわかったこと

  • ピラミッドの4辺の縁に沿って複数の傾斜通路を内部に組み込みながら同時に使う建設方法なら、クフ王の治世27年以内に完成できることが初めて数字で示された
  • シミュレーションで予測した傾斜通路の経路が、ピラミッド内部で発見されていた謎の空洞の位置と一致した

まだわかっていないこと

  • 内部の空洞が本当に傾斜通路を埋め戻した跡なのか、現時点では確定できていない
  • 実際にこの方法で建設されたかどうかは、今後の現地調査で検証が必要だ

References: he Great Pyramid Algorithm: New Study Proposes Integrated Edge Ramps[https://www.ancient-origins.net/news-history-archaeology/great-pyramid-construction-00102694] / A computational framework for evaluating an edge-integrated, multi-ramp construction model of the Great Pyramid of Giza[https://www.nature.com/articles/s40494-026-02405-x]

編集部おすすめ