失恋はつらい。いつか時間薬が癒してくれるとわかっていても、胸にぽっかりと開いた穴を埋めてくれる存在を求めてしまっても、無理のないことかもしれない。
中国では失恋を経験した若者を中心に、AIを使って元カレ・元カノのバーチャルな「人格」をつくるのがトレンドになっているそうだ。
このAIによって生成された人格は、話し方や言い回し、さらにはちょっとしたコミュニケーションの習慣まで模倣するという。
つまり、過去の恋愛をデジタルで再現し、元恋人の人格をコピーした仮想の相手と、まるで恋人同士のように会話することができるのである。
元カレ・元カノのコピー人格をAIで再現するツール
話題になっているのは、GitHub上で公開されている「前任.skill(ex-skill)[https://github.com/perkfly/ex-skill]」というモジュールだ。
中国語で「前任」は元恋人、そしてここでいう「skill」とは、AI用の人格パッケージや知識モジュールのような意味だそうだ。
そして最近、「蒸留前任」という言葉も登場した。この「蒸留」とは、「大量の情報から本質だけを抽出する」という、中国語圏のAI界隈の言い回しなんだとか。
具体的には、ユーザーが持っている元カレ・元カノとのチャット履歴や写真などから、その人の「話し方」や「感情の動き方」、「考え方」などを抽出。
まるでクローンのように、「その人っぽく振る舞う、AIによる元カレ・元カノのコピー人格」を作ってしまおうという試みなのである。
話だけ聞くと、多くの人は「AIカレシ・AIカノジョみたいなもの?」と思うかもしれない。だが「蒸留前任」は、単なる恋愛チャットbotではない。
説明によると、「前任.skill」は元恋人に関するデータを読み込んで、その人物設定や記憶、会話スタイルを生成する仕組みになっているそうだ。
ユーザーはWeChat(LINEのようなチャットアプリ)のトーク履歴やiMessage、SMS、写真やSNSへの投稿など、ありったけの元恋人の情報をAIに学習させる。
こうして誕生した「元カレ」「元カノ」は、その口調や口癖、微妙な言葉遣いのニュアンスまで模倣してくるほか、かつて共有した「思い出」も再現できるという。
このモジュールは、いわば「生物学的な記憶」を、亡霊のようにAIの中に呼び戻すようなものだと言えるかもしれない。
今のところスマホアプリは出ていない模様
そんなものが気軽に使える時代になったのか!と感動したかもしれないが、現状ではまだスマホアプリのように気軽に使えるものではないようだ。
導入するにはGitHubからファイルを取得し、対応するAI環境へ組み込む必要がある。現時点では、スマホアプリなどがリリースされているわけではない。
さらにユーザーは、過去ログや画像といった元恋人に関するデータを自分で集め、AIに読み込ませる作業を行う必要がある。
あるユーザーは、この作業に一晩費やしたと語っている。そして「元カノ」がようやくWeChatに「現れた」とき、思わず「努力した甲斐があった!」と叫んだそうだ。
このように、導入にはある程度の知識や手間が必要なことから、現地では25~45元(約500~1,000円)程度を支払い、代行を請け負うサービスも出てきたらしい。
元々は「AI同僚」を作るためのものだった
実はこのモジュールは、上海人工知能実験室のAIエンジニア、周天一(ジョウ・ティエンイ)氏が開発した「同事.skill(Colleague.skill)」というオープンソースプロジェクトに端を発している。
こちらはチャット履歴や会議の記録、資料や業務関係の文書などから、「同事(同僚)のAI分身」を作るために開発されたものである。
つまり、もともとの目的は退職した同僚の持っていた知識やノウハウのデータを「蒸留」し、他の人が使えるように、職場に残すことだったのだそうだ。
そこで同僚を「蒸留」できるなら、元カレ・元カノもできるのでは?といった方向に話が広がっていった結果、登場したのが「前任skill」「蒸留前任」だったという。
こういったskillには、さまざまなものが登場している。
面白いのは「反蒸留skill」である。これは「同事.skill」への対策のようなもので、自分に関する情報から「本当に重要な部分」を抜き取って隠す目的で作られた。
制作側の考えでは、「会社があなたのデータを蒸留するのは、あなたを代替可能な部品にする」ためだという。
そこで「反蒸留skill」は、自分が持つ知識やノウハウの核心部分をskillから削除し、「一見まともだが、核心部分だけ抜け落ちた無害な資料」に変換してくれるのだ。
元恋人の情報からそれっぽい人格を生成
話を「前任.skill」に戻そう。このモジュールの仕組み自体は単純だ。長年のチャット履歴などをAIに渡すと、AIは「その人らしい返答パターン」を組み立てていく。
例えば「どんな言葉をよく使うか」「どういう時に怒るか」「どういうテンションで返信するか」「どんな話題が好きだったか」といった具合である。
説明を読むと、制作側はわりと本気でユーザーの元カレ・元カノの人格「らしさ」を再現しようとしているらしい。
ユーザーが会話を始めると、「元カレ・元カノならどう感じるか」をAIが判断し、過去の記憶を検索。その人らしい口調で返答を返すのだ。
だがもちろん、これは本人の記憶や人格を直接コピーしているわけではない。
実際に「前任.skill」を使ってみたユーザーからは、さまざまな声が寄せられている。「よかった」という声もある反面、「辛さが増した」という人もいるようだ。
- 脳死した恋人を救い戻したようだったよ!
- 現実では言えなかったことを、ようやく言えた
- もう一度別れを経験したような感覚になって、逆に前へ進むことができた
- なんてことだ。これって、自分を地獄に送るのと何が違うんだろう
- 確かに彼女に似ているよ。でも結局、彼女ではなかったんだ
- もし今の恋人のデータをAIに食わせて、そのAIと会話できるなら、無限に「会話の練習」ができるってことじゃない? そして最終的に完璧な返答を選べるなら、「余計な一言」を発してしまって「元恋人化」する未来を回避できるかもしれないね
- この「蒸留」の技術を使って、2100万以上のトークンを使って、ついに君を作り出した! でも、これで君は僕のところへ戻ってきてくれたのかな。本当に君が恋しいよ
- 前任skillであなたを「蒸留」できるって知って、本当に心が揺れた。抑えていた感情がまた溢れてきたし、やっぱり私はまだ完全には吹っ切れてなくて、あなたと話し続けたいんだって思った。でも、これは結局「あなたに似ているだけ」で、本物のあなたじゃないんだよね
- 何万件ものチャット履歴を読み込ませて、ようやく元恋人を再現できた。でも「なんで私を選んでくれなかったの?」って聞いたら、「はっきり聞いてどうするの? 答えはあげられない」って言われた。妙にリアルで辛くなった
個人情報や倫理面での懸念も
一方で、過去のチャット履歴や写真、SNS投稿など極めて個人的なデータをAIに渡すことへの抵抗感も強い。
中国語圏のSNSでは、「本人の同意は必要ないのか」「別れた相手をAIとして持ち続けるのは健全なのか」といった議論も起きている。
また、「ある意味、浮気なんじゃない?」「AIへの依存を深めるのでは」といった危惧の声も上がっている。
この「前任者.Skill」の説明には、「君のためなら、僕は1万回だってあの夏の日に戻りたい」というフレーズが書かれている。
なんだか思わず胸がキュンとしてしまいそうな、人によっては刺さりまくりそうなフレーズなんじゃないだろうか。
失恋の乗り越え方は人それぞれだ。自力で前へ進んでいける人もいれば、癒しや慰めが必要な人もいるだろう。
だが、元恋人のAIコピーを作って会話するという方法は、健全なやり方とは言えない気もする。みんなはどう思うかな。
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References: China trend of AI replicas of exes sparks debates about emotional cheating, attachment[https://www.scmp.com/news/people-culture/trending-china/article/3352015/china-trend-ai-replicas-exes-sparks-debates-about-emotional-cheating-attachment]











