地震はいつどこで起きるか予測が難しい。だが、東太平洋の深海底では30年以上、同じ場所・同じ規模・同じ周期で地震が繰り返されている。
米インディアナ大学などの国際研究チームがその謎をついに解明した。
断層内部に天然のブレーキとして機能するバリアが存在し、地震を毎回ほぼ同じ場所で止めることで、規模と周期を一定に保っていたのだ。
この研究成果は『Science[https://www.science.org/doi/10.1126/science.ady6190]』誌(2026年5月14日付)に掲載された。
同じ場所で同じ規模の規則正しい地震が起きる謎
地震の発生メカニズムはあまりにも複雑で、「明日ここでマグニチュード6の地震が起きる」と断言できる段階にはまだ遠い。
ところが、東太平洋の深海底には時計仕掛けのように規則正しく同じ場所で同じ大きさの海底地震が起きる場所がある。
エクアドル(南米北西部に位置する国)の西方約1,600kmの海底に走るゴファー・トランスフォーム断層では、少なくとも30年以上にわたって、マグニチュード6の地震が5~6年ごとにほぼ同じ場所で、ほぼ同じ規模で繰り返し発生してきた。
地震科学においてこれほど一定のパターンが続く断層は極めて異例で、研究者たちは長年この現象を把握しながらも、理由を説明できずにいた。
なぜここだけ、こんなことが起きるのか。
インディアナ大学ブルーミントン校のジャンホア・ゴン助教授を筆頭著者とし、ウッズホール海洋研究所、カリフォルニア大学サンディエゴ校スクリップス海洋研究所、米国地質調査所(USGS)など9つの研究機関が、30年来の謎の解明に乗り出した。
海底に機器を沈めて15年間観測
ゴファー断層はトランスフォームと呼ばれる種類の断層で、太平洋プレートとナスカプレートという2枚の巨大な岩盤が横向きにすれ違う境界に位置している。
プレートとは地球の表面を覆う厚さ数十~100km以上の巨大な岩盤のことで、地球の表面はこうした岩盤が十数枚に分かれてパズルのように組み合わさっている。
トランスフォーム断層はプレート同士が横にすれ違う境界線だ。
ゴファー断層でのすれ違いの速度は年間約140mmで、ちょうど人間の爪が伸びる速さに相当する。
ゆっくりとしたすれ違いの中で岩盤同士の摩擦エネルギーが蓄積され、限界に達すると地震として放出される。
研究チームはゴファー断層の2か所に、海底地震計と呼ばれる地震検知装置を直接設置した。
2008年と2019~2022年の2回にわたる大規模な海底観測プロジェクトで、マグニチュード6の大地震2回の前後を含む数万回の微小地震を記録した。
記録されたデータが示したパターンは、2回の観測で驚くほど一致していた。
大地震の数日から数週間前になると、断層の特定区間で小さな地震が集中的に発生する。そして大地震が起きた直後、その区間はほぼ完全に静まり返る。
12年の時間を隔てた2つの異なる断層区間で、まったく同じパターンが繰り返されていた。これは偶然ではなく、共通の物理的なメカニズムが働いている証拠だと研究チームは判断した。
断層内のバリアがブレーキとなり地震を同じ場所で止めていた
ゴファー断層には、大地震が発生する区間と区間の間に、大きな揺れを起こさず応力を静かに吸収する特定の区間が存在する。
科学者たちはこの区間をバリア(障壁)と呼んでいる。
大地震の破壊がバリアで毎回止まることはわかっていたが、なぜ止まるのかは謎のままだった。
研究チームがバリアの内部構造を詳しく調べると、通常の断層とは大きく異なっていた。
通常の断層は1本の亀裂のように走っているが、バリアでは断層が複数の細い線に分岐し、それぞれの間に100~400mの横方向のずれが生じていた。
この構造が断層内部に小さな隙間や開口部をつくり出し、そこへ深海の海水が深く浸透していたのだ。
バリアに深く浸透した海水が、地震の破壊を食い止める役割を果たす。
大地震の破壊波がバリアに到達すると、岩盤が急激にずれ動こうとする。
このとき、隙間だらけの岩盤の体積が一瞬増加し、内部を満たしていた水の圧力(間隙水圧)が急激に下がる。
間隙水圧とは岩盤の隙間を満たした水が岩盤を押し広げようとする圧力のことで、水圧が高いと岩盤はずれやすく、低いと岩盤同士が強く密着して動きにくくなる。
大地震がバリアに差し掛かった瞬間、海水を含んだ岩盤が自ら固まってブレーキをかけ、破壊の連鎖をそこで断ち切る。
これがダイラタンシー強化(dilatancy strengthening)と呼ばれる現象だ。
バリアが毎回同じ場所でブレーキをかけるから、地震は毎回同じ区間で止まる。
破壊される断層の長さが一定だから、放出されるエネルギーもマグニチュードも一定になる。
エネルギーが一定のペースで蓄積・解放を繰り返すから、地震の周期も5~6年で揃う。
時計仕掛けのような規則正しさの正体は、バリアが生み出す精密なリズムだった。
「これらのバリアは単なる受動的な地形の特徴ではありません。断層システムの能動的で動的な一部であり、バリアの仕組みを理解することで、断層における地震規模の上限についての考え方が根本から変わります」とゴン博士は述べている。
地震リスクの評価モデルの改善につながる発見
ゴファー断層は人口密集地から遠く離れた深海にあり、ここで起きる地震が直接人々に被害をもたらす可能性は低い。
だがゴファー断層の謎が解明したことで、世界の地震科学を動かす可能性がある。
世界中の海底には、ゴファーと同じトランスフォーム断層が無数に存在する。
以前からこれらの断層では、地震の規模が地質学的な条件から予想されるよりも小さく収まる傾向があることが知られていた。
なぜ大きくなりきらないのかは長年の謎だったが、今回の研究はその答えを示唆している。
複雑な断層構造と海水の浸透によって形成されたバリアが世界の海底断層に広く存在し、地球規模の天然ブレーキシステムとして機能している可能性があるのだ。
断層内部の水が地震の規模や挙動を大きく左右することも、今回の研究があらためて裏付けた。
水が地震活動に影響を与えることは以前から指摘されていたが、断層内の水がこれほど明確にブレーキとして働くことが裏付けられたのは大きな前進だ。
今回の知見は、世界各地の海底断層における地震リスクを評価するモデルの精度向上に貢献できる可能性がある。
沿岸部に大都市を抱える地域の防災計画にも、将来的に影響を与えるかもしれない。地震大国・日本にとっても、無関係ではない研究成果だ。
この研究でわかったこと
- 東太平洋の深海断層では30年以上、同じ場所・同じ規模・同じ周期で地震が繰り返されており、その原因は断層内のバリアが天然ブレーキとして毎回同じ場所で破壊を止めていたからだとわかった
- バリアに浸透した海水が岩盤を一時的に固着させることで、地震の破壊の連鎖を断ち切っていた
- 同じ仕組みを持つバリアが世界中の海底断層に広く存在し、地球規模のブレーキとして機能している可能性がある
今後の課題
- 世界各地の海底断層にバリアがどれほど広く存在するかはまだ確認されていない
- 今回の発見を地震リスク評価モデルに組み込む研究はこれから始まる段階だ
References: Science[https://www.science.org/doi/10.1126/science.ady6190] / IU researcher helps solve mystery of clockwork-like earthquake system deep beneath the Pacific[https://news.iu.edu/college/live/news/51003-iu-researcher-helps-solve-mystery-of]











