地球の外核、2010年に突然、流れの向きを逆転させていたことが明らかになった。
外核はマントルの下にある、溶けた鉄とニッケルで満たされた流体の層で、外核の流れが地球の磁場を生み出している。
英国エディンバラ大学を中心とする研究チームが、1997年から2025年にかけて収集した衛星と地上観測のデータを分析したところ、赤道太平洋直下の外核が西向きから東向きへ方向を転換していたことがわかった。
地球の外核の大規模な流れは長年にわたって西向きで安定していると考えられてきた。
なお、N極とS極が入れ替わる地磁気逆転と、今回の外核の流れの逆転とは別の話だ。
この研究成果は『Journal of Studies of Earth’s Deep Interior[https://jsedi.episciences.org/articles/17268]』誌(2026年5月6日付)に掲載された。
地球の内部は4つの層でできている
地球の内部は大きく三つの層に分かれている。いちばん外側が私たちの暮らす地表を形成する「地殻」、その下に「マントル」と呼ばれる岩石の層が深さ約2,900kmまで続く。
マントルのさらに下が「核」で、外核と内核に分かれている。
外核は深さ約2,900kmから5,100kmの領域で、溶けた鉄とニッケルが液体の状態で存在している。
内核はさらに高い圧力を受けているため、同じ鉄とニッケルでも固体だ。
外核の液体金属が流動することで電磁誘導によって電流が生まれ、その電流がさらに新たな磁場を生み出すというサイクルが繰り返されることで、地球の磁場は維持されている。
この仕組みは「ダイナモ理論」と呼ばれている。
地球の磁場は、太陽から絶えず降り注ぐ荷電粒子から大気を守るバリアの役割を果たしている。
もし磁場がないと、大気は少しずつ宇宙空間に吹き飛ばされ、地球は生命が存在できない環境になっていたと考えられている。
外核は西向きに流れると考えられていた
外核の流れについては、1692年に英国の天文学者エドモンド・ハレーが磁場の西方向への移動を記録して以来、数百年にわたる観測と研究の積み重ねにより、大きなスケールで見れば西向きに動いているという認識が形成されてきた。
地球の内部に直接入ることはできないため、科学者たちは地上の観測所や衛星で磁場の微細な変化を記録し、外核の動きを間接的に推測してきた。
磁場の変化パターンを読み解くことが、外核の状態を知る唯一の手がかりだ。
今回の研究が対象としたデータ範囲である1997年から2010年の間も、赤道太平洋直下の外核は弱い西向きの流れを見せており、長年の定説と一致していた。
2010年、太平洋直下で外核の流れが逆転した
英国エディンバラ大学地球科学部のフレデリク・ダール・マドセン氏らの研究チームは、1997年から2025年にわたる衛星と地上観測のデータを詳細に分析した。
すると、2010年に赤道太平洋直下の広い範囲で、外核の流れが西向きから東向きへと逆転していたことがわかった。
それまで弱い西向きの動きを見せていた外核が、突然、強い東向きの流れに切り替わっていたのだ。
逆転の規模は局所的なものではなく、赤道太平洋という広大な範囲に及んでいた。
地表から約2,900km以上もの深部でこれほど大規模な変化が短期間に起きていたという事実は、研究者たちに大きな衝撃を与えた。
マドセン氏は、逆転が短期的な変動なのか、繰り返す振動の一部なのか、あるいは外核の循環における新たな安定状態への移行なのかを、継続的な観測によって見極める必要があると述べている。
衛星データと地上観測を組み合わせて逆転を確認
地表から2,900km以上もの深さにある外核の動きを宇宙から観測するために、研究チームは複数の衛星データを組み合わせた。
欧州宇宙機関(ESA)の地磁気観測衛星SWARM(スウォーム)のデータに加え、ESAの地球観測衛星CryoSat、ドイツの地磁気観測衛星CHAMP、デンマークの地磁気観測衛星Ørstedのデータも組み合わせた。
1997年から2025年という約28年分のデータを統合することで、外核の流れが時間とともにどう変化してきたかを詳細に再構築した。
SWARMは2010年の逆転後に打ち上げられたため、逆転の瞬間をリアルタイムで観測できなかった。
だが、逆転後の外核の状態を高精度で記録し続けたことで、流れの変化の全体像を明らかにする上で欠かせない役割を果たした。
衛星データはさらに、2017年に起きた「地磁気ジャーク」の痕跡もとらえていた。
地磁気ジャークとは、地球の磁場が数ヶ月から数年という短い期間に急激に変化する現象で、外核内部の流体運動に起因すると考えられている。
外核の中で波のような加速や急速に変化する流れの構造が生じていたことも、衛星データによって確認された。
外核の逆転は内核の変化とも重なっていた
外核の流れの逆転だけでなく内核にも変化が起きていた。
2010年に太平洋直下で外核の東向きの流れが強まった時期は、測地学や地震学の観測から推測される内核の挙動変化とほぼ一致していた。
マドセン氏は、太平洋での東向きの流れの出現と内核の変化が同時期に起きていることから、地球深部のこれらの変化が互いに関連している可能性があると述べている。
ESAのSWARMミッションサイエンティスト、エリザベッタ・イオルフィダ氏も、外核・内核・下部マントルの間に存在する相互作用の解明に今回の研究が役立つ可能性があるという。
研究チームのモデルによれば、太平洋での東向きの流れは2020年以降、再び弱まりつつある。
今回の逆転が一時的な振動だったのか、長期的な自然サイクルの一部なのかは、現時点でまだ結論が出ていない。
地磁気逆転とは別の話。ただしGPSや宇宙天気予報には影響する
外核の流れが逆転したと聞くと、N極とS極が入れ替わる「地磁気逆転」を連想するかもしれない。
地磁気逆転は数十万年に1度のペースで起きており、外核の対流の乱れが引き金になると考えられている現象だ。
しかし今回観測されたのは、赤道太平洋直下という特定の地域における流れの方向変化であり、地球全体の磁場の極性が入れ替わるような事態とは異なる。
ESAの研究チームも、今回の変化が気候や生命に直接的な脅威をもたらすものではないと明言している。
ただし、外核の流れが変化するにつれて磁場は少しずつ変化し続けており、GPSなどのナビゲーションシステムの精度、人工衛星の運用、地球近傍の宇宙天気予報モデルに影響を与える。
外核の変化を理解することは、私たちが日常的に使うテクノロジーを守る上でも重要だ。
イオルフィダ氏は、地域的な変化がわずか10年以内に急速に生じる可能性があることを今回の研究が示していると述べた。
外核はかつて考えられていたよりもはるかに変動しやすく複雑であり、衛星による継続的な観測が地球内部の解明にとって不可欠だという。
まとめ
この研究でわかったこと
- 2010年に太平洋直下の外核が、長年の定説だった西向きの流れを突然逆転させ、東向きに動き始めていた
- 外核の逆転が起きた時期と内核の挙動変化の時期が一致しており、地球深部の層どうしが連動している可能性がある
- 外核の大規模な流れは従来考えられていたよりも変動しやすく、10年以内に急速に変化しうることが示された
まだわかっていないこと・今後の課題
- 逆転が一時的な変動なのか、繰り返す振動の一部なのか、新たな安定状態への移行なのかは未解明だ
- 外核・内核・下部マントルがどのようなメカニズムで互いに影響し合っているのかはまだわかっていない
- 外核の変化がGPSや宇宙天気予報にどの程度の影響を与えるのか、継続的な観測が必要だ
References: Insights into Earth’s molten outer core from space[https://www.esa.int/Applications/Observing_the_Earth/FutureEO/Swarm/Insights_into_Earth_s_molten_outer_core_from_space] / Episciences.org[https://jsedi.episciences.org/articles/17268]











