我が世の春から一転、衆院選では小選挙区で敗北した責任をとって自民党の幹事長を辞任した甘利明氏。選挙中の街頭演説では「私の妨害をしたら、これは国家の行く末を妨害しているのと同じことなのであります!」などと叫んでいたと報じられたが、口利き賄賂問題の説明もせずに逃げたことに対し、有権者が賢明な判断を下したというわけだ。
だが、問題なのは、岸田文雄首相が甘利氏の後任に選んだのが、茂木敏充外相だったこと。というのも、茂木氏には1億2000万円以上もの使途不明金問題があり、さらに公選法違反が濃厚な疑惑まで抱えているからだ。
まず、1億2000万円の使途不明金について。これは昨年末に共同通信が報じたもので、〈茂木敏充外相の資金管理団体から寄付を受ける政治団体「茂木敏充後援会総連合会」で2016~19年、使途の詳細が分からない支出が全体の約97%、1億2千万円以上〉にもなっているという。
そのカラクリはこうだ。まず、問題の「後援会総連合会」は茂木氏の資金管理団体から2016~2019年のあいだに1億円を超える寄附を受けているのだが、「後援会総連合会」は政治資金規正法が定める「国会議員関係政治団体」として届け出られていないために支出の公開基準がゆるく、金の流れが確認できない状態になっている。
実際、2019年の「後援会総連合会」の収支報告書を見ると、茂木氏の資金管理団体から2850万円もの寄附を受け、支出額も2874万8285円にのぼっているにもかかわらず、支出先が明かされているのは印刷費の53万5662円だけ。ちなみに、「後援会総連合会」と資金管理団体の会計責任者は同一人物、所在地も連絡先も同じだ。
つまり、資金管理団体から公開基準がゆるい政治団体に巨額の金を流すことによって、政治団体がブラックボックスとなり金の流れを見えなくしている、というわけだ。
無論、1億2000万円以上もの巨額を何に使ったのか、茂木氏には国民に明らかにする責任がある。ところが、茂木氏の事務所は共同通信の取材に対して「総連合会は国会議員関係政治団体ではない。政治資金は法令にのっとり処理、報告している」などと言い張るだけ。
だが、茂木氏はこの問題以上に悪質かつ違法性の高い疑惑を抱えている。それは、2017年に「週刊新潮」(新潮社)がスクープした「有権者買収」疑惑だ。
茂木氏の有権者買収とはいったいどういうものだったのか。「週刊新潮」は2017年8月、当時経済再生相だった茂木氏が自身の選挙区である栃木5区の主に後援会幹部に対し、1部600円の「衆議院手帖」を毎年3000部(180万円分に相当)も配布していたことを報道。しかも、後援会費を払っていない人に手帖を配っていたという多数の証言を突きつけた。
後援会費を払っていないとなれば、彼らは名前を貸しているだけに過ぎず、そうなれば一般の有権者と変わらない。そして、彼らが受け取った手帖は、600円で販売されているれっきとした「有価物」だ。選挙区内で有権者に有価物を配れば、それは公選法で禁じられている「寄附」にあたる。
しかし、茂木氏は同誌発売日にすぐさまコメントを発表し、〈衆議院手帳は、茂木の名前や写真の入ったものではなく、党員や政党支部関係者らに政党の政治活動用資料として配布しており、記事にあるような不特定多数に配布した事実はありません〉と否定した。だが、「週刊新潮」はさらなる爆弾を投下する。「手帖の贈呈者リストと個別の配布数」が書き込まれた内部資料を入手し、その手帖を受け取った当事者たちから「後援会には名前を貸しているだけ」「党員資格はないし党費も支払っていません」という証言を掲載したのだ。
さらに、同誌は2018年1月にまたもスクープを飛ばす。今度は、選挙区内の有権者に線香を配っていた、という問題だ。
じつは、茂木氏の選挙区では、新盆に線香を茂木本人、あるいは秘書が配り歩くことが〈風物詩〉となっており、茂木事務所の関係者の証言によると、その線香の値段は1000~1500円。茂木本人が配るのは「規模の小さくない企業の社長とか日頃から大きなサポートを受けている方や、そのご両親が亡くなった時に限って」。「それ以外の親しい人」については秘書が対応していたという。
しかも、同誌は栃木5区の有権者にも取材。「新盆に秘書が線香を持ってきたか?」と質問すると、あっさりと「はい。はい。覚えています」と回答。別の有権者も「お線香だったか、かもしんねえ」「箱に入ってたね、幾つかね。6つだか5つだか、折箱みたいなんに入ってた」と答えているのだ。
前述したように、選挙区内の有権者に有価物を配る行為は公選法違反にあたる。
にもかかわらず、この悪質な有権者買収疑惑について、大手メディアの報道はほどなくしてフェードアウト。じつは、そうした裏で茂木氏はメディアに対して「報道潰し」をおこなっていた。
「週刊新潮」によると、第一報の後に茂木氏は「大手メディアの幹部」にこんな連絡をしていたというのだ。
「総務省のお墨付きがあるから、何の問題もない。だから新潮に乗っかると誤報になっちゃうよ」
もしこれが事実であればなんとも姑息な話だが、実際に毎日新聞や地元・下野新聞、テレビ朝日などは茂木氏の言い分ばかりを垂れ流していた、と当時「週刊新潮」は指摘している。
説明責任を果たさないまま逃げつづけた甘利氏を幹事長のポストから引きずり下ろしたというのに、その後釜は「有権者買収」疑惑を抱え、挙げ句、自ら報道潰しを仕掛けていた人物……。だが、茂木氏に対しては、別のかたちでも“幹事長失格”の声があがっている。それは、パワハラ・セクハラ気質と差別問題だ。
茂木氏の差別問題というのは、昨年2020年8月の外相会見で起こった。
これには大住記者が「日本語でいいです。そんなに馬鹿にしなくても大丈夫です」と返したが、茂木氏は「馬鹿にしてないです。いや、馬鹿にしてないです。まったく馬鹿にしてないです」と釈明。だが、さらに酷いのはこのあとで、茂木氏は「出入国管理の問題ですから、出入国管理庁にお尋ねください」と訊かれた質問に答えなかったばかりか、「お分かりいただけましたか?」「日本語、分かっていただけましたか?」と言い放ったのだ。
肝心の質問に答えない上、日本語でしっかり質問されているのに高圧的かつバカにしたような態度で「日本語、分かっていただけましたか?」などと嫌味たらしく畳み掛ける。外国人に対して母語でない言語をめぐりあげつらうこの発言は人種差別そのものだ。さらにこの振る舞いからは茂木氏の差別性と同時にパワハラ気質も伺える。
そうした茂木氏のパワハラ気質が剥き出しになったのが、昨年2月19日の衆院予算委員会だ。この日の予算委では黒川弘務・東京高検検事長の定年延長問題について、安倍晋三首相の発言との辻褄合わせのために国会答弁を撤回・修正した人事院の松尾恵美子・給与局長(その後、事務総長に昇格)が山尾志桜里衆院議員から追及を受けていたのだが、松尾局長が答弁に立っていた際、後ろの閣僚席に座っていた茂木氏がまるで鬼監督のような表情で口元を左手で隠しながら何やら指示。
茂木氏は安倍元首相と同様に国会審議中にヤジをしょっちゅう飛ばすことでも有名だが、答弁に立つ官僚に厳しい口調で指示を出すその様子は、国会軽視であると同時にパワハラそのものだった。
実際、茂木氏は以前から「人望がない」「下の者に対する態度がきつい」という評判がたびたび報じられ、無名の当選2回新人議員時代の段階から「約5年で秘書が38人も辞めた」と週刊誌に書かれたほど。また、2017年には「週刊文春」(文藝春秋)で茂木氏の元秘書が「ある秘書は、会合で人の動員がうまくできなかったことで怒りを買い、便所で土下座をさせられたことがあるそうです」と証言していた。
だが、茂木氏にはこうしたパワハラ問題だけではなく、セクハラ疑惑まである。2016年に茂木氏が党三役に返り咲いて政調会長になった際に話題になったのは、茂木氏に張り付く番記者の16社中7社が女性であること。政治部記者は男性が大半であるため、この割合は異例であると「週刊新潮」が指摘したのだが、そんななかで茂木氏のこんな“セクハラ”が取り上げられていた。
それは、茂木氏の所属派閥・平成研究会の研修会の懇親会でのこと。茂木氏はゴシック体で「いぬのさんぽ」と書かれた薄い紙を女性記者に見せ、「裏返して読んでみて」と指示したという。これは何のことかというと、ゴシック体の「さ」の字は、裏返すと「ち」に読める。つまり、男性器名を大勢の人の前で女性記者に口にさせようとしたというのである。同記事ではほかにも、男女構わず記者にブランド自慢やワイン自慢、果ては手品と称して女性記者の手を握るなど、茂木氏のパワハラ&セクハラが次々に書かれていた。
金の問題のみならず、パワハラ・セクハラ常習疑惑まで──。岸田首相がこんな人望のない人物を幹事長に据えたのは、言うまでもなく安倍元首相の顔色を伺ってのこと。実際、茂木氏は麻生太郎・副総裁だけではなく安倍元首相とも近く、今年5月に「ポスト菅」候補について訊かれた際には、岸田氏や加藤勝信氏らより先に茂木氏の名前を挙げ、「誰もが手腕を評価している」と述べていた。ようするに、甘利氏から顔がすげ替えられただけで、茂木幹事長に代わっても安倍元首相が強い影響力を持つことは間違いない。
自浄作用もなく、腐りつづけたままの自民党。だが、自民党にはDappi問題を筆頭に、説明が求められている数々の問題がある。茂木氏の幹事長就任の会見では、本人の使途不明金や公選法違反疑惑と合わせ、ぜひメディアにはDappi問題の追及もおこなってもらいたい。