厚労省がケアマネの法定研修の見直し案を提示
法定研修のカリキュラムやガイドラインの改正案を全国に通知
厚生労働省は4月28日、ケアマネージャーの法定研修のカリキュラムとガイドラインの見直し案を、介護保険最新情報Vol.1073で全国の自治体に通知しました。
今回通知された内容は「案」のレベルであって、制度に盛り込まれた内容ではありません。しかし、厚生労働省が2021年度の老人保健健康増進等事業において有識者の協力の下で作成したものであるため、今後検討が進むであろう見直し案の骨格となるのは確実でしょう。
全体的なポイントとしては、下記などが挙げられます。
- 社会的な要請に対応できる知識・スキルの習得に向けたカリキュラムの改善
- 時代に沿ったケアマネジメントのあり方への更新
- 幅広い知識を獲得できるように講義中心の科目編成への転換
地域共生社会の到来、認知症施策への対応、ヤングケアラーの問題、介護離職の防止、科学的介護の必要性、独居高齢者への支援など、ケアマネージャーに求められる役割は拡大しているのが現状。
人手不足も指摘される中、ケアマネージャー一人ひとりの能力向上と対応力強化を図る必要があるといえます。
では、厚生労働省が提案したケアマネージャーの法定研修の見直し案について、より細かくその内容を見てみることにしましょう。
主任ケアマネ研修、実務研修、専門研修の見直し内容
今回、全国の自治体に通知された見直し案では、全体で共通する見直しポイントに加え、「実務研修」「専門研修Ⅰ」「専門研修Ⅱ」「主任介護支援専門員研修」のそれぞれを一部改善することが盛り込まれています。
実務研修は介護支援専門員実務研修受講試験(いわゆるケアマネージャー試験)の合格者が受講する研修で、現行では受講時間数は計87時間です。
この実務研修については、倫理、地域の社会資源に関する受講時間数を増やすほか、制度や政策の近年の動向に関わる内容をより反映させることなどが見直し案として示されています。
専門研修Ⅰ、Ⅱは、実務経験を持つ人の更新研修で行われ、Ⅰが56時間、Ⅱが32時間で構成されています。専門研修でも倫理系科目の時間数増・新設が行われるほか、制度と政策、社会資源の動向に関わる内容を反映する内容にするとのことです。
そして主任介護支援専門員研修は、上位資格である主任ケアマネージャー資格を取得するのに必要な研修です。
これから目指す人は70時間、更新研修では46時間の受講が必要ですが、この研修では「終末期ケア(EOL(エンドオブライフ)ケア)を含む生活の継続を支える基本的なマネジメント及び疾患別マネジメントの理解」という科目が新設。
また、他の研修と同じく制度と政策、社会資源に課する内容を反映すること、更新研修では倫理系の科目を新設するとしています。
しかし主任ケアマネージャーについては、目指す人が少ないことが問題視されています。
今回の見直し案が実施されることで、こうした状況が多少でも改善されるのかどうかも注目ポイントといえます。
出典:『介護支援専門員に関する アンケート調査』(日進市)を基に作成 2022年06月07日更新ケアマネの法定研修見直しが行われた背景
ニーズが高まる一方、ケアマネのなり手が減少
現在日本では高齢化が急速に進み、団塊の世代が75歳以上になる2025年に向けて、介護保険サービスを利用する要介護認定者の数がさらに増えていくと予想されています。
しかしそんな中、現場で介護サービスの利用計画書=ケアプランの作成を担うケアマネージャーの不足が深刻化しつつあります。
2021年に厚生労働省が公表した「介護サービス施設・事業所調査」によると、ケアマネージャーが勤務する居宅介護支援事業所の数は、2019年から2020年にかけて834カ所減少しています。
事業所数が4万件を割り込んで3万9,284件となりましたが、居宅介護支援事業所数が3万件台になるのは、およそ6年振りのことです。2025年問題があり、ケアマネージャーの確保が急務となりつつある中、事業所数は逆に減少しているわけです。
この背景要因としては、新型コロナウイルスの影響も考えられるでしょう。しかしそれ以上に大きな原因として指摘されているのが、2018年に行われたケアマネージャー試験の受験資格変更です。
2018年度のケアマネージャー試験から、それまで不要であった実務経験が必須となり、受験者数が激減したのです。
厚生労働省によると、ケアマネージャー試験の受験者数は2017年度試験では13万1,560人だったのに、受験資格が変更された2018年度試験では4万9,332人と約8万人も減少してしまいました。
実務経験要件を加えることで、ケアマネージャー試験合格者の能力・資質を高めることにはつながったかもしれません。
しかし、ただでさえケアマネージャーの人手が足りずに激務が続いているのに、いわばその状況に拍車をかけるような試験制度変更が行われたわけです。

ケアマネジメントに求められる役割は拡大
2018年からケアマネージャーのなり手が激減してしまった一方で、ケアマネージャーに求められる役割はさらに拡大しつつあります。
介護保険制度は2000年度にスタートしましたが、当時ケアマネージャーの役割として期待されていたのは、保険・医療・福祉の連携を軸とした介護給付サービスの調整機能が中心でした。
しかし近年、高齢化の進展による要介護者数の急増によって国の社会保障費・介護給付費も増大。
それにともない、要介護者を増やさないようにする「介護予防ケアマネジメント」の重要性に注目が集まり、そのための注力がケアマネージャーに強く求められるようになっています。
さらに、独居高齢者が増加する中で孤独死の問題も深刻化しています。要介護者と向き合うケアマネージャーには、在宅での看取りの対応や、継続的な治療とリハビリへの調整対応の役割が重視されるようになりました。
他にも、障害者総合支援法の改正に伴う「共生型サービス」の活用のためのマネジメントへの期待や、互助・自助を促進するためのインフォーマルサポート(ボランティアなど非専門職による援助)を調整する役割もケアマネージャーには求められています。
人手が足りない中、ケアマネージャーが果たすべきとされる役割・機能はどんどん拡大しているのが現状です。
こうした状況を背景に、ケアマネージャー一人ひとりのさらなる能力・資質向上のため、研修内容の見直し・改善を求める声が有識者から高まったと考えられます。
ケアマネ研修における負担軽減策も重要
ケアマネ研修の費用は大きな負担
実際の現場のケアマネージャー、もしくはこれからケアマネージャーという介護分野の上位資格を取得するという人にとって、大きな負担となり得るのが実務研修や更新研修にかかる費用です。
ケアマネージャーの法定研修にかかる費用は都道府県ごとに変わります。例えば実務研修の場合、厚生労働省によると全国の平均額は5万7,017円ですが、最も安い島根県が2万800円であるのに対して、最も高い山形県では7万9,950円もかかっています。
安めの都道府県であればともかく、高額の都道府県に住む人の場合、経済負担が大きくのしかかるわけです。
これは主任介護支援専門員研修でも同様です。
高額の都道府県のケアマネージャーは、負担の大きさと安い都道府県との差を思うと、主任ケアマネージャーになろうとする気持ちはより起こりにくくなるでしょう。費用負担の大きさ・バラツキの問題は、今後早急に解決すべき課題といえます。
受講負担を減らすため、オンライン研修の充実化も必須
ケアマネージャーの法定研修について、費用に加えて負担が大きいのが、受講時間によって仕事に取り組む時間が減らされるという点です。
特に更新研修や主任介護支援専門員研修などは、勤務先での激務の中で研修時間を確保して、研修を受けなければなりません。
ただでさえケアマネージャーが足りず、人手不足が生じているゆえに一人当たりの業務量が増えている中で、数十時間も研修に従事する必要があるわけです。
これに対しては現在、オンライン研修の活用・普及の重要性が有識者・研究機関などから指摘されています。
2021年3月に株式会社日本総合研究所がまとめた「介護支援専門員の資質向上に資する研修等のあり方に関する調査研究事業報告書」の中でも、この点は言及されています。
オンライン研修の実施により、自宅・事業所などどこからでも受講が可能となることに加えて、座学のための会場確保にかかる費用もなくなるので研修費用が安くなる効果も期待できます。
ただし、オンライン研修に向けた取り組みも、費用のように自治体ごとに差が出るようでは問題です。国や都道府県が一体となって、オンラインのコンテンツを活用できる環境を整えていくことが重要といえます。
今回は、厚生労働省がケアマネの法定研修の見直し案を通知したニュースについて考えてきました。
ケアマネに対してはAIにとって代わられるなどの指摘もありますが、少なくとも直近に迫る2025年問題に対しては、人材としてのケアマネの活躍が期待されています。
今回の見直し案が、最終的にケアマネの資質向上や研修負担の軽減化などにきちんとつながるのか、今後も注目を集めそうです。