「Noize」('24)/小沢健二
小沢健二の新作EP『東大900番講堂講義 ep』に収録された「Noize」は、メインヴォーカルを務めるマヒトゥ・ザ・ピーポー(GEZAN)と、マヒトの声にコーラス、ギター、ホイッスルで呼応する小沢の出会いを祝福するかのような多幸感に満ち、肌を切る冬の風とバチバチ喧嘩し合って体を温める。子供のような無垢さを持ち、皺の数だけ身が軽くなる老人にも似た“枯れ”が共鳴するヴォーカリゼーションが、新たな恋に弾む胸を表現した歌詞の速度を上げ、華やかな管楽器の演奏がまだ見ぬ春に募る思いを描く爽快感が堪らない。
「16:28」(’23)/君島大空
君島大空の「16:28」は昨年発表されたアルバム『no public sounds』に収録されている、壮大でサイケデリックなナンバー。一音一音の重たさを丹念に味わうスローテンポの静謐なイントロから始まり、燃え盛る炎のように激しいギターがこの曲と“聴いている自分”の挟間を縁取り、ドリーミーでノスタルジックな歌詞を焦がしていく。これだけのドラマチックな展開の中にあって、性別や年齢といった隔たりを優雅に飛び越える繊細なヴォーカルは少しもへし折れることがなく、曲が進むごとに強度を増して、凛と立っている。さまざまな憂鬱を抱えた朝にも、うたた寝にぴったりな休日の午後にも、いくら瞼を閉じても眠れない夜にも聴きたくなる、タフネスとパワフルさが脈打つ。
「息をして(feat.大友良英)」('23)/細井徳太郎
10分を超える長尺曲「息をして(feat.大友良英)」は、2023年10月にリリースされた細井徳太郎の“うたもの”1stアルバム『魚 _ 魚』に収録されている反戦歌。
「ハイキ」('23)/リーガルリリー
ドラマ『隣の男はよく食べる』の主題歌に起用されたリーガルリリーの「ハイキ」は、2023年5月に発売された『where?』の収録曲。砂糖菓子を想起させる甘やかで舌足らずな歌声と反して、普遍的な恋愛のヤキモキした悩みを、深くて太いロックサウンドに乗せたラブソングだ。《痛い、痛い、触りたい》《痛い、痛い、変われない》という歌詞の押韻の心地良さがポップネスを演出し、同時に“愛とは誰かを許容すること/誰かに許容されること”という矛盾が成立するものだと思い知らされる。こぼれ落ちそうなメッセージ性でタプタプ揺れる不安定さ、スリーピースバンドだからこそ成し得るソリッドでストイックな演奏が耳をヒリヒリ刺激する安心感のアンビバレンスが素晴らしい。
「たゆたう」(’23)/Hana Hope
Hana Hopeが昨年発表した「消えるまで」に収録されている「たゆたう」は、上野の森美術館で開催された『モネ 連作の情景』のイメージソングに起用されたスローナンバー。儚さと力強さを感じさせるウイスパーヴォイスは、漆黒の静寂や空気中の埃を照らす真昼を想起させる豊かさを持ち、シンプルなピアノやパーカッシブなサウンド、影を差す電子音と交差しながら移ろう。神々しさというよりは、印象派の代表であるクロード・モネが描き続けた睡蓮のような、幻想のムードに満ちあふれた一曲だ。固定したイメージにとらわれることなく、リスナーの気分次第で幾重にも姿を変える自由さをはらみ、風が吹いたら飛ばされそうな軽やかさを纏い、音のある場所で“ただよい”続ける。
TEXT:町田ノイズ
町田ノイズ プロフィール:VV magazine、ねとらぼ、M-ON!MUSIC、T-SITE等に寄稿し、東高円寺U.F.O.CLUB、新宿LOFT、下北沢THREE等に通い、末廣亭の桟敷席でおにぎりを頬張り、ホラー漫画と「パタリロ!」を読む。サイケデリックロック、ノーウェーブが好き。