昨年の『第34回日本映画批評家大賞』でも、映画『ぼくが生きてる、ふたつの世界』で主演男優賞を受賞していた。「このたび、『国宝』で主演男優賞いただきました吉沢亮と申します。本日は、このような栄誉ある賞いただきまして、非常に光栄でございます。去年も実は同じ賞をいただきまして、まさか今年もいただけるとは思っていなかったので、非常にうれしいです。今日は(『国宝』で共演した横浜)流星とそして友達の(北村)匠海も一緒で。さっき、すごいスピーチをしていて、やめてくれよ、次の人のことも考えてくれ、と思ったんですけど(笑)。素晴らしいお2人の後に立てて、うれしく思います。これからもいろんな人に愛していただけるような作品に参加できるように日々、精進して参ります。ありがとうございます」とスピーチした。
『国宝』は昨年の6月6日公開され、同9日に行われた昨年の授賞式でも話題となった。「作品を作っている我々としては、できるだけ多くの方の心に残るような作品を作ろうという思いで当然、作っているんですけど、まさかこんなにもたくさんの方に愛していただける作品になるとは思ってもいなかった。実は、まだ公開が続いている。
映画『国宝』は第49回日本アカデミー賞で最優秀作品賞、最優秀主演男優賞を含む最多10部門の最優秀賞を獲得。日本国内の観客動員数1415万人、興行収入200億円を突破し、邦画実写映画の歴代興行収入ランキングを22年ぶりに更新するという歴史的快挙を成し遂げた。
吉田修一氏自身が3年間歌舞伎の黒衣を纏い、楽屋に入った経験を血肉にし、書き上げた渾身作『国宝』を原作に、世界最高峰のスタッフ&キャストが集結して映画化。第49回日本アカデミー賞で作品賞、監督賞など10部門で最優秀賞を受賞し、第98回米アカデミー賞メイクアップ&ヘアスタイリング賞にノミネートされ、国内外で反響を呼んだ。
主人公である稀代の女形・立花喜久雄を吉沢。
同賞は、1991年に水野晴郎さん(故人)が発起人となり、淀川長治さん(故人)、小森和子さん(故人)といった当時第一線で活躍した映画批評家たちによって設立された、映画人が映画人に贈る賞。2025年に公開した映画を対象としている。
■『第35回日本映画批評家大賞』結果(※複数受賞は五十音順で表記)
◆作品賞:『愚か者の身分』(永田琴監督)
◆監督賞:永田琴監督『愚か者の身分』
◆主演男優賞:北村匠海『愚か者の身分』/吉沢亮『国宝』
◆主演女優賞:岸井ゆきの『佐藤さんと佐藤さん』
◆助演男優賞:横浜流星『国宝』
◆助演女優賞:二階堂ふみ『遠い山なみの光』
◆ドキュメンタリー賞:『みらいのうた』(エリザベス宮地監督)
◆アニメーション作品賞:『ChaO』(青木康浩監督)
◆新人監督賞:小島央大監督『火の華』
◆新人男優賞(南俊子賞):林裕太『愚か者の身分』
◆新人女優賞(小森和子賞):南琴奈『ミーツ・ザ・ワールド』
◆脚本賞:熊谷まどか・天野千尋『佐藤さんと佐藤さん』
◆編集賞(浦岡敬一賞):大川景子『旅と日々』
◆松永文庫賞(特別賞):NPO法人メディア・アクセス・サポートセンター
◆ゴールデン・グローリー賞(水野晴郎賞):田中泯『国宝』
◆ダイヤモンド大賞(淀川長治賞):長塚京三『敵』
■吉沢亮選考理由
主演を張るとはなんなのか。
それを『国宝』で今一度考えていた。華やかだが影があるから惹きつけられる役者。吉沢亮にはそんな言葉が似合う。
本作の主人公・喜久雄は間違ってもイイ男とはいえない。女形のけいこをする際は一心不乱で、歌舞伎に向き合う姿はプロフェッショナルそのものだが、役を掴むためには女性まで利用する男だ。なのに目が離せない。劇中、東半コンビが窓際でインタビューを受けるシーンでは、横浜流星演じる俊介が堂々と話す横で、伏し目がちに微笑むだけで喜久雄という人間の内面が見えてくる。
今まで多くの映画で吉沢の演技を観てきたが、『国宝』の喜久雄はまさに彼にしか表現出来ない役だった。台詞がなくとも佇まいだけで不思議な存在感を放ち、熱さをあまり感じさせないのに、“底なし”の吸収力を持つ喜久雄を演技で体現してみせる。キレると瞬時にヤクザの息子の顔を見せ、女性にも、さらには娘にさえもどこか冷めた視線を向けるまで作り上げる俳優。神社でのシーンで「悪魔はんと取引しとったんや」と幼い娘に語る彼の目は、まさに悪魔的で背筋が寒くなるほど美しかった。
思えば喜久雄が唯一愛した人間は俊介なのかもしれない。ひとりで初めて板の上に立つ日、緊張のあまり上手く化粧が出来ず、俊介に化粧を施してもらっている時の、唇を震わせ目を潤ませたあの顔は、心を許した恋人か親にしか見せられない表情だった。
そして俊介との「曽根崎心中」は、真の恋愛としか思えないほど切なく美しく狂おしかった。二人の関係はまさに陰陽で、二人でひとつの存在としてあった。言うなれば喜久雄が陰、俊介が陽。その関係が喜久雄の成功とともに変容し、離別を経て再び陰陽へと戻っていく。
ちなみに持論だが、役者は影が大きいほど魅力的。それこそ魔力とでも言うべきか。吉沢亮はそれを内側から放出する力を持った役者だと、私は思っている。
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