日本映画界の異才、鈴木清順監督の映画世界に迫るドキュメンタリー『TWIST & SHOOT MISTER SUZUKI(原題)』(フランス、93分)が現地時間10日、イタリアで開催中の「第83回ベネチア国際映画祭」で公式上映された。上映後にはイヴ・モンマユール監督が登壇。
鈴木監督への思いや型破りな作品の成り立ちを語り、会場からも次々と質問が寄せられた。

 アウト・オブ・コンペティション部門「Film on Films」で上映された本作は、1960年代の日本映画界で大胆な表現を追求し、クエンティン・タランティーノやジョン・ウーをはじめ、後世の映画作家たちに影響を与えた鈴木監督へのオマージュ。本人や関係者の証言、代表作の映像に、新たに撮影したフィクションパートを織り交ぜ、そのポップで不遜、予測不能な映画世界を浮かび上がらせる。

 モンマユール監督は2000年代初頭、スペインとフランスで鈴木監督を取材したほか、俳優の宍戸錠さんや美術監督の木村威夫さんらにも話を聞いていた。それから20年以上を経て、当時の貴重な映像を新たなインタビューや映像表現と組み合わせ、一本の作品として完成させた。

 上映後のQ&Aでは、「鈴木清順についてのドキュメンタリーを作るのであれば、ある意味で彼のスタイルをまねなければならないと思った」と説明。古典的な物語のルールを逸脱し、映画を“解体”するような表現を好んだ鈴木監督にならい、オーソドックスな評伝ではなく、ドキュメンタリーとフィクションを混在させたという。

 さらに、「鈴木監督と同じように、観客を混乱させたかった」と狙いを明かし、「皆さんも途中で、見ているものがドキュメンタリーなのか劇映画なのか、鈴木清順の映画から引用した映像なのか、新しく撮影したものなのか、分からなくなる瞬間があったと思います」と観客に語りかけた。

 本作では東京でも約10日間にわたって撮影を実施。モンマユール監督は、長年築いてきた人脈を生かし、さまざまな分野で活動する表現者の証言を集めたと振り返った。一方、限られた予算や撮影日程のため、押井守監督やゲームクリエイターの小島秀夫氏への取材は実現しなかったことも明かした。

 また、鈴木監督の作風を「レトロ・ニューウェーブ」と表現。
「片足を過去、つまり日本の伝統文化に置き、もう一方の足を現代映画、時には前衛映画の中に置いていた」と分析し、歌舞伎を愛しながら前衛的な映画表現を追求したところに、その独自性があると指摘した。

 会場からは、鈴木監督が携わったアニメーション作品や、国内外の映像作家に与えた影響などについて質問が相次いだ。鈴木作品とシュルレアリスム、ポップアートとの関係をめぐり、観客と熱のこもったやり取りを交わす場面もあった。

 モンマユール監督は「私が描きたかったのは、映画監督としての鈴木清順だけではありません。一人の芸術家として描きたかった」と作品に込めた思いを明かし、「だからこそ、映画界だけでなく、さまざまな芸術分野で活動する多くのアーティストにインタビューしたのです」と語った。

 会場には、旅行でベネチアを訪れていた日本人の30代夫婦の姿もあった。「せっかくベネチアに来たのだから、国際映画祭にも足を運びたい」と、この日の上映を鑑賞。学生時代以降、映画館の特集上映などを通じて鈴木作品に触れてきたという。

 “浪漫三部作”と呼ばれる『ツィゴイネルワイゼン』『陽炎座』『夢二』など、後期の作品が好きだという夫妻は、今回のドキュメンタリーで紹介された日活時代の作品について「あまり見たことがなかった」と話す。

 それでも、妻は「鈴木清順らしいカットが初期の頃からずっと存在していたことが分かったのが面白かった」と、新たな発見があった様子。「戦後の日本や、その中での女性の描かれ方もあまり知らなかった。帰国したら、ゆっくり作品を見たい」と語った。


 夫も「戦後を生きる男たちのやるせなさや、たくましく生きる女性たちが描かれていた。戦後の日本を、そういう視点で考えたことが意外となかった」と振り返り、「初期の作品を改めて見てみたいという気持ちになりました」と話していた。
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