台湾有事が起きた場合、日本はどんな影響を受けるのか。軍事アナリストの小川和久さんは「台湾から与那国島までわずか110km。
食品や半導体が手に入らなくなり、数十万人の難民が押し寄せる可能性もある。『台湾有事は日本有事』という言葉は、決して誇張ではない」という――。
※本稿は、小川和久『13歳からの戦争学』(アスコム)の一部を抜粋・再編集したものです。
■台湾~与那国島は東京~熱海と同じ110km
台湾で戦争が起きることは、日本にとって「遠い国の出来事」では決してありません。地理的にも、経済的にも、安全保障上も、日本は直接的かつ深刻な影響を受けることになります。
台湾から日本の与那国島までは、わずか110キロメートルしか離れていません。
2025年11月7日の衆院予算委員会で、高市早苗首相は台湾有事が「存立危機事態」に該当し得ると述べ、従来の政府見解から踏み込んだ発言として注目されました。具体的には、「戦艦を使って武力の行使も伴えば、どう考えても存立危機事態になり得る」と発言しています。その根底には、日本側の危機感が横たわっています。
沖縄本島から台湾までも600キロメートルほどしかありません。ミサイルなら数分で届く距離です。戦闘が激化すれば、流れ弾のように日本の領土に着弾する可能性もあります。

さらに深刻なのは、与那国島や石垣島に日本国民が暮らしているということです。戦争が始まれば、これら約1万7000人の島民を避難させなければなりません。しかし、数日で1万人以上を避難させることは容易ではありません。
■嘉手納基地は台湾防衛の最前線になる
台湾有事において、中国がもっとも警戒するのは在日米軍の介入です。
沖縄の嘉手納基地は東アジア最大の米空軍基地です。嘉手納基地から台湾までは約600キロメートル。戦闘機が出撃する場合、実際の作戦飛行ではさまざまな要因を考慮する必要がありますが、真っ先に駆けつけて中国軍と戦闘に入ることになるでしょう。
岩国基地の海兵隊航空部隊、横須賀の第7艦隊、これらはすべて台湾防衛に不可欠な戦力です。
日本列島はアメリカの戦略的根拠地であり、いわばカリフォルニア州と同じ重要な位置づけにあります。日本列島への攻撃はアメリカとの全面戦争を意味します。そのリスクを中国がとる可能性は高いとはいえませんが、ここでは中国が持つ能力を紹介しておきます。
中国の軍事戦略には「A2/AD(エーツーエーディー)」〈接近阻止・領域拒否〉という考え方があります。
これは米軍を中国本土に近づけないようにすることを目指すものです。
この考えのもと、中国は日本列島から沖縄、台湾、フィリピン、ボルネオへと連なる第1列島線、伊豆諸島からグアム・サイパンを経てパプアニューギニアへ続く第2列島線を設定しています。
■戦火は基地の外、民間人にも及ぶ
第1列島線の内側に米軍が入るのを阻止する(接近阻止)、第2列島線の内側では自由に動き回らせない(領域拒否)。これを可能にするよう軍事力を強化しているのです。そのためには、在日米軍基地を攻撃して米軍の出撃を阻止する必要があります。
中国は日本全域を射程に収める中距離弾道ミサイル「東風(DF)シリーズ」を大量に保有しています。「空母キラー」「グアムキラー」の異名を持つDF-21DやDF-26といったミサイルは精密誘導が可能で、嘉手納基地や横須賀基地を狙うことができます。
つまり、日本が直接戦争に参加するつもりがなくても、日本国内の米軍基地が攻撃される可能性が高いのです。そして、米軍基地の周辺には多くの日本国民が住んでいます。基地への攻撃は、必然的に日本の民間人にも被害を及ぼすことになります。
■スーパーの棚から食品が消える
エネルギー危機
日本は資源に乏しい島国で、石油、天然ガス、食料の多くを輸入に頼っています。これらの物資は海上輸送路(シーレーン)を通って日本に届きます。
もっとも重要なシーレーンは、中東から石油を運ぶルートです。このルートは台湾海峡の東側を通ります。
もし台湾周辺で戦争が起きれば、このシーレーンは使えなくなります。タンカーを保有する船会社は戦闘地域の通過を拒否するでしょう。保険会社も戦争地域を航行する船の保険は引き受けませんし、可能な場合でも保険料は跳ね上がって採算がとれなくなります。迂回(うかい)ルートを使えば、輸送日数が増え、コストも上がります。
食糧危機
エネルギーだけではありません。日本の食料自給率はカロリーベースで約38%しかありません。小麦、大豆、トウモロコシなど、主要な食料を輸入に頼っています。
シーレーンが遮断されれば、スーパーの棚から食品が消えることだって考えられるのです。
■相次ぐ生産停止、株価暴落、中小企業の倒産
半導体の島
台湾は「半導体の島」と呼ばれています。世界の半導体受託生産の約70%が台湾で生産され、特に最先端の半導体では台湾が70%以上のシェアを持っており、そのほぼすべてをTSMC(台湾積体電路製造)が担っています。

半導体はスマートフォン、パソコン、自動車、家電製品、医療機器……、あらゆる電子機器に使われています。台湾からの半導体供給が止まれば、これらの製品がつくれなくなります。
日本の自動車産業も台湾の半導体に大きく依存しています。トヨタホンダ、日産、これらの企業は台湾からの半導体が届かなければ、生産を停止せざるを得ません。
2021年、コロナ禍による半導体不足で世界中の自動車メーカーが減産を余儀なくされました。台湾有事では、その何倍もの規模で半導体不足が起きます。そして、それは数カ月ではなく、数年続く可能性があります。
金融危機
台湾有事が起きれば、世界の金融市場は大混乱に陥ります。株価は暴落し、円高が急速に進み(あるいは逆に円安が進行し)、企業の資金繰りが悪化します。銀行は融資を渋り、中小企業が倒産し、失業者が増えます。
2008年のリーマンショックを思い出してください。あれは一つの投資銀行の破綻から始まりましたが、世界経済を大不況に陥れました。
台湾有事の経済的影響は、リーマンショックをはるかに超えるものになるでしょう。
■数十万人の難民が押し寄せる
難民
台湾の人口は約2300万人です。戦争が起きれば、多くの台湾人が安全な場所へ逃れようとします。日本は台湾からもっとも近い民主主義国家です。ボートで海を渡ってくる人、漁船に乗ってくる人……、数万人、場合によっては数十万人の難民が日本に押し寄せる可能性があります。
日本政府はこれらの難民をどう受け入れるのでしょうか。住む場所は? 食料は? 医療は? 日本には大量の難民を受け入れる準備も法律も、十分には整っていません。
もっとも深刻なのは、日本自身が戦争に巻き込まれる可能性です。中国が在日米軍基地を攻撃すれば、日本の領土が攻撃されたことになります。そうなれば日本は自衛権を発動し、中国と戦争状態に入る可能性があります。
また、アメリカが台湾を防衛する場合、日米安保条約によって日本も後方支援を求められるでしょう。
■「台湾有事は日本有事」は誇張ではない
自衛隊が直接戦闘に参加しなくても、米軍への燃料補給、負傷者の治療、物資の輸送などで協力することになります。
これは日本が事実上、戦争に参加することを意味します。安倍晋三元首相をはじめ日本政府の要人が「台湾有事は日本有事だ」と述べてきたのは、誇張ではありません。至近距離にある台湾で起きることは、直接的に日本に影響します。
このように、日本は台湾の平和と安定に深い関心を持っているのです。そして中国に対して、武力による現状変更は認められないというメッセージを送り続けています。
同時に、日本自身もこの事態に備える必要があります。自衛隊の能力強化、米軍との連携強化、そして国民への情報提供と準備。これらはすべて台湾有事に備えるための取り組みでもあります。
台湾問題はもはや「台湾の問題」ではなく、「日本の問題」なのです。

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小川 和久(おがわ・かずひさ)

軍事アナリスト

陸上自衛隊生徒教育隊・航空学校修了。同志社大学神学部中退。地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。外交・安全保障・危機管理(防災、テロ対策、重要インフラ防護など)の分野で政府の政策立案に関わり、2012年4月から、静岡県立大学特任教授として静岡県の危機管理体制の改善に取り組んでいる。主な著書に『日本人が知らない台湾有事』(文藝春秋)『メディアが報じない戦争のリアル』(SBクリエイティブ)など。

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(軍事アナリスト 小川 和久)
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