※本稿は、坂口幸弘『人は生きてきたように死んでいく』(光文社新書)の一部を再編集したものです。
■日本で根強い「ぽっくり死」信仰
「ぽっくり」という言葉をご存じだろうか。『日本国語大辞典』によれば、「ぽっくり」とは本来、物が折れるさまを表す語であり、それが転じて、元気だった人が突然亡くなる様子を意味する言葉として用いられている。
日本では古くから「ぽっくり信仰」という言葉がある。『日本民俗宗教辞典』によれば、ぽっくり信仰とは「臨終まで排便を他人の世話にならず健やかに過ごし、病まず寝つかず極楽往生したいという信仰」である。これは、早く死にたいという願望ではなく、健康で長生きしたうえで、長患いせずに安らかに死を迎えたいという人々の願いが込められている。
ぽっくり死を御利益とする寺院は、各地に点在している。奈良県生駒郡斑鳩町にある吉田寺は、平安時代末期に浄土教の僧侶・源信によって開基された寺院で、代表的な「ぽっくり寺」として知られている。源信が、母親の臨終の際に念仏を唱え、安らかに往生させたという伝承があり、長患いで苦しまずに死を迎えたいと願う人々の信仰を集めている。
■突然の「ぽっくり死」を望む人が71%
では、現代の人々はどのような死を理想としているのだろうか。公益財団法人日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団の調査では、2008年以降、自分で死に方を選べるとしたら、いわゆる「ぽっくり死」と「ゆっくり死」のどちらが理想だと思うかを継続して尋ねている。
過去の調査結果を見ても、「ぽっくり死」を理想とする割合は、2008年73.9%、2012年70.9%、2018年77.7%、2023年70.6%と、この15年間で大きな変動はなく、7割超で推移している。
年齢層別では、年齢が上がるにつれて、「ぽっくり死」を希望する割合が増加する傾向がみられた。2023年調査では20代が約6割だったのに対し、50代以上では約75%と15ポイントほど高かった。この傾向は過去の調査でも一貫して示されており、シニア世代ほどぽっくり死ぬことを望む傾向が強いといえる。
■寝たきりで迷惑をかけたくない
同財団の2023年調査によれば、「ぽっくり死」を理想と考える理由として3番目に多かったのは、「寝たきりなら生きていても仕方ないから」で、回答者の47.7%が選択した。この理由を選んだ人は「ゆっくり死」を望む人では、わずか5.8%にとどまっていた。この結果には、病気によって寝たきりになることへの強い不安が背景にあると考えられる。
内閣府の『令和3年度 高齢者の日常生活・地域社会への参加に関する調査』によれば、将来の日常生活全般に関して高齢者が不安に思うこととして、「自分や配偶者の健康や病気のこと」を挙げた人が約7割と最も多く、「自分や配偶者が寝たきりや身体が不自由になり、介護が必要な状態になること」が約6割で続いている。
年齢を重ねるにつれて、身体の衰えを感じたり、何らかの不調を抱えたりすることが増えてくる。また、友人や知人から病気や介護の体験談を聞く機会も多くなる。高齢者にとって、健康や病気、介護は身近で現実的な問題であり、自分自身や配偶者の健康が損なわれることや、身体的な自立が困難になることに不安を抱く人は多い。
■「健康寿命」は平均寿命より短い
そこで注目されるのが、「健康寿命」という考え方である。健康寿命は、生活の質を重視する観点から、2000年に世界保健機関(WHO)が提唱した概念であり、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」を指す。
厚生労働省によれば、2022年の日本人の「健康寿命」は男性72歳、女性75.45歳と報告されている。同年の平均寿命は男性81.05年、女性87.09年であり、その差は男性で約8.5年、女性で約11.6年となる。平均寿命から健康寿命を差し引いたこの期間は「日常生活に制限がある期間」、すなわち身体的に自由がきかない期間といえる。
2004年時点では、男性約9.2年、女性約12.9年であったことから、この約20年間で男性は半年以上、女性は1年以上短縮されている。それでも平均すると、男性で8年以上、女性で11年以上も制限のある期間があることから、高齢になるにつれて健康への不安が募るのも理解できる。
■健康寿命を延ばす4つの生活習慣
では、健康寿命を少しでも延ばすには、何を心がければ良いのだろうか。シニア生活文化研究所代表理事の小谷みどり氏は、日本成人病予防協会が提唱する「テクテク・カミカミ・ニコニコ・ドキドキ」という4つの生活習慣を紹介している。
「テクテク」は、ウォーキングなどの体に優しい手軽な運動を指す。
「カミカミ」は食事をバランス良く、しっかりかんで食べることで、健康な体づくりの基本である。2022年の厚生労働省の『国民健康・栄養調査』によれば、BMIが20kg/m2以下の低栄養傾向にある65歳以上の高齢者は、男性で12.9%、女性で22.0%おり、なかでも85歳以上では男性で27.1%、女性で25.6%もいる。
■「テクテク」「カミカミ」「ニコニコ」
農林水産省が2019年に実施した『食育に関する調査』では、一日のすべての食事を一人で食べる頻度について、70歳以上の男性の15.1%、女性の27.6%が「ほとんど毎日」と回答した。一人での食事は、簡単に済ませるために栄養が偏り、栄養バランスが崩れがちになったり、食事量が低下し、低栄養になったりするなどのリスクが指摘されている。
「ニコニコ」は、笑いのある生活を意味し、笑いにはストレス発散、免疫力の向上、自律神経の安定などの効果がある。一人でテレビを観て笑うのもいいが、人とのコミュニケーションによって笑顔になれることも多い。
■趣味や推し活などで「ドキドキ」
「ドキドキ」は、趣味や生きがい、仲間づくりなどを通じて感動や刺激を得ることで、脳を活性化させる。新しいことに挑戦したり、さまざまな事柄に関心を持ったりすることが望ましい。最近では、好きなタレントや歌手のライブに足を運んだり、グッズを集めたりする「推し活」を楽しむシニア女性が増えている。「推し活」は外出の機会を増やし、ファン同士のつながりも生まれ、ニコニコやドキドキの体験につながるだろう。
こうした生活習慣を通じて、健康長寿をある程度延ばすことは可能かもしれない。しかし、そもそも健康長寿を延ばすこと自体が人生の目的ではないはずである。小谷氏は、健康長寿は人生の目的を達成するための手段に過ぎないとし、「したいことがあるから健康でなければならないし、お金も必要になる。したいこともなく、ただひたすら毎日を過ごす人生は、私には退屈すぎる」と述べている。
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坂口 幸弘(さかぐち・ゆきひろ)
関西学院大学人間福祉学部教授
大阪府堺市生まれ。大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程修了、博士(人間科学)。日本学術振興会特別研究員などを経て、現在、関西学院大学人間福祉学部人間科学科教授。同大学「悲嘆と死別の研究センター」センター長。専門は臨床死生学、悲嘆学。主な著書は『増補版 悲嘆学入門』(昭和堂)、『もう会えない人を思う夜に』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『喪失学』(光文社新書)など。
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(関西学院大学人間福祉学部教授 坂口 幸弘)

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