※本稿は、メライン・ファンデラール『熟睡力』(新潮新書)の一部を再編集したものです。
■過度な眠気で業務上の事故の発生率は2.5倍に
就床時間が短すぎる/長すぎるとはどういうことだろう? 就床時間が短すぎると日中の活動に悪影響を及ぼすことが多い。これは標準的な睡眠の人に、1日3~5時間以上は就床させない、極端な場合には数日間眠らせないという実験から明らかになっている。
だいたいの被験者に眠気や集中力の低下、気分の落ちこみが見られた。就床時間が短いことで生じうる悪影響の受けやすさの違いは遺伝的なものだ。年齢にも関係がある。
一般的に、高齢者は就床時間が短くてもあまり影響がない。ただ、眠気の客観的な測定と主観的な測定には差がある。客観的に見れば眠気が少なくても、就床時間が短かった場合、高齢者本人は夜ろくに眠らなかった若者と同じくらいの眠気を感じている。就床時間が短すぎると他の悪影響も生じる。過度の眠気で予期せぬ事件や事故が増加する。
建設作業員では過度な眠気がある場合、業務上の事故の発生率は2.5倍高くなる。
寝不足は日中の活動に支障をきたしがちだが、あまりに長時間就床していると、不眠症患者では睡眠が断片化して不安な覚醒時間が長くなり、悪影響が及びやすい。
実際、いくつかの実験では被験者の就床時間が通常よりも長かった場合、中途覚醒の頻度が増した。睡眠が飽和状態になるのだ。就床時間がより長くなればさらに顕著になる。
■夢から覚めるのが頻繁になるほど夢を思い出す
実験に基づく研究では、これが睡眠の断片化を増加させているのだろうと結論づけられている。断片化された睡眠自体は必ずしも問題ではないが、不眠症の場合、不安な覚醒につながると問題になりうるのだ。
就床時間の長さが睡眠に及ぼす影響を示す適例として、パンデミック時のロックダウン中に調査が実施された研究がある。当時、人々の睡眠時間はわずかに長くなったが睡眠はより断片的になり、ハヅァ族の睡眠と似たものになっていった。
就床時間は長くなり、夢を思い出すことが増えていたというのだ。研究者は頻繁に覚醒することが理由かもしれないと結論づけた。
夢を思い出すのはレム睡眠から覚めた時で、ほとんどの場合すぐに忘れる。就床時間が長くなるとレム睡眠と睡眠の断片化が増える。
就床時間の長さは睡眠の断片化と日中の活動に明確な影響を及ぼすが、就床時間が日によって違うと、主観的な睡眠の質にはどう影響するのだろう?
狩猟採集民の活動、休息、就床時間のリズムは極めて規則正しいが、産業社会のシフト制勤務では規則的な昼夜のリズムが乱されるのは明らかだ。
最近のある研究ではシフト制勤務だと睡眠時間は短く、ベッドで目を覚ましている時間は長くなり、中途覚醒する頻度が増えることがわかった。
■夜勤明けに朝日を浴びて帰宅はサングラスを
大規模な体系的調査では、シフト制勤務の人の20~30%が不眠症と日中の過度の眠気の両方を経験していた。「シフト制勤務睡眠障害」と呼ばれる症状だ。高齢者や朝型傾向の人はシフト制勤務で睡眠への悪影響をより強く受け、日中の活動機能が低下する傾向があった。
夜型傾向の強い人の場合、一般に主観的な睡眠の質への悪影響は比較的小さいとされているが、論理的には日勤シフトの期間中の夜型傾向の人の主観的な睡眠の質は低下するはずだ。
朝型傾向の人は、夜勤の前に少し睡眠をとるといい。夜型傾向の人は概日リズムにより夜間の眠気が少なくなるため睡眠の管理が難しい場合が多い。飛行機で眠るのが難しい人が夜のフライトを利用する場合にも同じことが当てはまる。その場合、朝型傾向の人は夕方や夜の早いうちにあらかじめ長い仮眠をとると楽になるだろう。
日中に眠る時は、夜より睡眠時間が短くなりやすいので、そのつもりで調整することが大切だ。
夜勤明けに朝日を浴びて帰宅する際、サングラスをかけるとメラトニンが適切に生成され、眠りにつきやすくなるはずだ。夜間は軽食をとり、脂っこいスナックは避けた方がいい。
■起きるべき時間が体内時計に対して早い
9時~5時勤務の職種の場合、一定の睡眠リズムの維持が困難なのは夜型傾向の人だ。平日と週末の就床時間に大きな差があり、「社会的時差ぼけ」として知られる状態を生じさせる。
学生や日勤労働者は週末に長く眠って平日の寝不足を埋めようとするが、これは14~25歳の若者では主観的な睡眠の質に最も悪い影響を及ぼす。
夜型傾向の成人では、週末に眠りたいだけ眠ると朝の活力が得られる利点はある。ある研究では被験者が遅寝遅起きし、睡眠を長くとったところ、休養感が増したという。
研究者は明確に言及してはいないが、社会的時差ぼけが関係している可能性がある。睡眠の状態が普通である夜型傾向の人は、平日は、起きるべき時間が体内時計に対して早すぎるため、寝不足になっている場合がある。
仮説ではあるが、週末に遅く寝て遅く起きると体内時計に合った昼夜のリズムになり、睡眠時間が長くなることで朝の眠気が減り、すっきりと目が覚めるのかもしれない。
ここで取りあげたのは睡眠の状態が平均的な場合だ。不眠症では、眠りたいだけ眠ると睡眠の断片化(そしてその後の不安な覚醒状態)を招き、日中の活動に支障をきたすため、やはりいい考えとは言えない。得られるメリットもデメリットより少ないだろう。
■昼寝で効果を得られる人、得られない人
原始人類が昼寝をしていたかどうかはわからないが、ハヅァ族のような現代の狩猟採集民にとって昼寝は極めて普通である。彼らは平均すると週の半分以上の日に昼寝をし、夜以外の時間帯での睡眠時間は1日あたり平均17分である。
昼寝の良し悪しについては一概に断言できない。昼寝にはメリットもあるが、よい効果が出るかどうかは、不眠症の有無で異なる。
パワーナップ、つまり日中の短い昼寝が認知能力によい影響を及ぼすことにはエビデンスがある。これは前夜の就床時間が短かった(または睡眠不足の)人に特に当てはまる。場合によっては、前夜、普通に眠った後でも効果がある。
昼寝は記憶をサポートするので、学習能力を向上させる可能性があるのだ。パワーナップは特に単純作業での問題解決能力を高められる。
アスリートでも集中力が高まり、一般的には身体的なパフォーマンスに悪影響を及ぼすことはない。寝不足の時に昼寝をするとパフォーマンスが向上することもある。
■長めの昼寝でも最大90分に
では、どのように昼寝をすればいいのか? 短い昼寝をする場合、30分以上にならないようにするのがいい。さもないと睡眠慣性――目覚めた直後に起こり、しばらく続く眠気――に悩まされるかもしれない。
長めの昼寝は前夜の就床時間が短すぎた場合にのみ推奨される。その場合は90分にしよう。90分後には大半の人が睡眠周期を一巡しているので、すっきりと目覚められるだろう。夜更かしした翌日の短い昼寝(30~60分)は、睡眠不足が認知機能に及ぼす悪影響を補うには不充分に思われる。
昼寝のタイミングや頻度も重要だろう。週に3回以上、また一度に2時間以上昼寝をすると主観的な睡眠の質が低下する。遅い時間(例えば午後6時から9時の間)に昼寝をすると、夜の睡眠時間が短くなりかねない。
昼寝は慢性的な不眠症を引き起こすきっかけになるだろうか? 無計画に昼寝をするのと生活の決まったパターンとして取り入れるのとでは違いがあるようだ。
前者では慢性的な不眠症を発症する可能性が3倍高くなる。昼寝を日常生活に取り入れる場合、可能性は3倍ではなく1.5倍ほどに留まる。
この差はどこから来るのだろう? 前者は後者よりも夜の睡眠不足を補填するために睡眠をとる傾向が強いからかもしれない。
■不眠症の人には裏目に出る
不眠症の場合、昼寝をすることは賢明だろうか? 昼寝は逆効果の可能性が高いことがわかっている。眠りたいだけ眠る場合と同じく、不眠症の人は昼寝をしない方がいい。
もちろん幾晩もろくに眠れなかったら、たとえ日中であろうとも少しでも眠れれば嬉しいに決まっているが、睡眠不足が長期化し、頻繁に昼寝をする人ほど夜中に覚醒して就床時間が長くなり、不眠症だとその時間を不安な気分で過ごすことになる。
昨年私は、昼寝が早期死亡につながるかもしれないという新聞記事を読んだ。こうしたニュースでは出典の確認が常に大切である。記者は頻繁な昼寝と高血圧や脳卒中とは関係があるらしいとするミン=ジン・ヤン率いる研究グループの研究に言及していた。
しかしながら論文には、この研究は関連性や相関関係を述べたもので因果関係までは示していないと明記されている。そもそもある身体的な問題が高血圧や脳卒中の原因になるだけでなく、昼寝が増えることにもつながるという説明なら話はわかる。
そうした例としては睡眠時無呼吸症候群がある。同症候群は日中に過度の眠気を引き起こし、昼寝の増加につながる。また、心血管疾患のリスクも高める。
日中の昼寝が多いのはよくないという通説は別にして、昼寝が早期死亡につながるという主張はこれもまた睡眠の世界に害をもたらす、悪いジャーナリズムの例だ。
■スヌーズとアラーム1回で起床の決定的な違い
言うまでもなく、原始人類に目覚まし時計のスヌーズボタンなどというものはなかった。彼らはおそらく自身の体内時計に従っていただろう。
つまり、アラームで突然目を覚ますことなどなかったのだ。彼らのような目覚め方がはるかに自然なのは想像がつくだろう。現代の狩猟採集民同様、安定した概日リズムにつながるからだ。
残念なことに、最近では自然な目覚めは多くの人々の選択肢から消えてしまっている。仕事へ行かなくてはならないからだ。スヌーズボタンを押すのも一般的な習慣になった。
腕時計型の活動量計(スマートウォッチ)のユーザー2万人を対象にした調査では、50%の人が毎朝少なくとも1回はスヌーズボタンを使っていると答えた。では、スヌーズにはどんな効果があるのだろう?
2022年の日本の研究では、調査対象者の70%以上が主に寝過ごす心配を軽減するためスヌーズ機能を使っていた。この研究では睡眠を定量化するため睡眠ポリグラフ検査が用いられた。
スヌーズを使った場合、睡眠の最後の20分間では覚醒とノンレム1の浅い睡眠がみられた。つまり、スヌーズ使用者の客観的な睡眠の質は低かったのだ。もう一つの発見は、1回目のアラームで起きる人々と比べると、朝の睡眠慣性の時間が長かったことだ。
睡眠から覚醒への移行に時間がかかり、スヌーズを用いると起床後、眠気が残るのである。理由として考えられるのは、睡眠と覚醒を交互に移行することでスムーズに目覚める妨げとなる変化が体内に生じるということだ。
目覚めると心拍数は上昇するが、その度に身体にエンジンをかけなくてはならない。これがエネルギーを消費し、スヌーズ機能を用いることで起床後に疲労感や眠気が残るのかもしれない。
睡眠慣性はとりわけ夜中の短い覚醒状態の間、睡眠によい影響を及ぼしている可能性がある。睡眠を保護し、再び眠りにつこうとする働きを強めるのだ。
朝の起床時にスヌーズ機能で何度も無理に目覚めさせられると、身体が睡眠を守ろうとして、覚醒するに必要な刺激の閾値が高くなり、その分、眠気が増えかねない。
2023年のある研究では異なった結果が判明した。スヌーズは認知的な作業のパフォーマンスによい影響を与え、起床後の眠気への影響はないと結論づけられたのだ。
■一日を乗り切るのに努力を要する悪影響も
この差異はどこから来るのだろう? 前述の日本の研究では聴覚反応時間と注意力、眠気、意欲の低下、疲労感、認知機能の10段階評価のみが用いられた。
スヌーズに効果があるとした2023年の研究では被験者の計算速度やエピソード記憶などを測定する、比較的難しい認知テストが用いられた。その面から考えると、起床後に少し複雑な作業を行うなら、スヌーズ機能を常用している人は恩恵にあずかっているかもしれない。
しかし同時に、スヌーズ使用者は日中に眠気を感じやすく、同じ日の遅い時間に認知的な作業をする場合はより多くの労力を必要としたという、あまりよくない発見もあった。
要約すると、スヌーズ機能の睡眠慣性や起床後の認知機能への影響については様々なエビデンスがあるものの、一般的なアドバイスとしては、スヌーズ機能は用いないように努め、アラームが1回鳴ったら起床しようということだ。
スヌーズ機能を常に用いている場合、目覚めた直後の複雑な作業には役立つかもしれないが、後で眠くなる、一日を乗り切るのに努力を要するなど、悪影響が及ぶかもしれない。
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メライン・ファンデラール
睡眠科学者
1979年、オランダ・ヴェールト生まれ。マーストリヒト大学で生物心理学を学び、博士号を取得。現在は同大学で教鞭を執る。専門は不眠症および睡眠問題。長年オランダの睡眠医学センターに勤務。睡眠医学の普及のため、本国では多数のメディアに執筆、出演。
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(睡眠科学者 メライン・ファンデラール)

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